ユニコードで傷寒論

 

句読点追補
『勿誤薬室方函口訣』条文
(Unicode版)

Ver. 1.22U

 

 原書の『勿誤薬室方函口訣』には「句読点」や「括弧」はありません。送りがなは「カタカナ」で表記され、漢字は「旧字体」が使用されています。このほか、濁点は使用されていませんし、送りがなの省略や「こと」「して」「とも」などは省略形の文字により記述されています。
 このため、いまのものにとっては、どうしても読みづらい感があります。そこで「句読点追補勿誤薬室方函口訣」では句読点や送りがなを調整するなどして読みやすくすることを目的としています。ただ、句読点の位置がはたして宗伯翁の意図と合致しているかは、はなはだ難しいところです。文意がかわってしまう可能性をはらんでいるからです。
 したがって、本サイトのご利用にあたりましては、原書と照らし合わせながら考証していただければと思います。今後も改訂していく予定です。

2005年5月

 

茵蔯蒿湯
 此の方、発黄を治する聖剤なり。世医は黄疸初発に茵蔯五苓散を用ゆれども非なり。先づ此の方を用ひて下を取りて後、茵蔯五苓散を与ふべし。二方の別は五苓の条に詳らかにす。茵蔯は発黄を治するを専長とす。蓋し湿熱を解し利水の効あり。故に『蘭室秘蔵』の拈痛湯、『医学綱目』の犀角湯にも此の品を用ひて、発黄のみには拘らぬなり。梔子、大黄と伍するときは利水の効あり。方後に云ふ「尿如皀角汁」と、これなり。後世にても加味逍遙散、竜胆瀉肝湯等の梔子は皆清熱利水を主とするなり。但し此の方、発黄に用ゆるは陽明部位の腹満、小便不利を主として用ゆべし。若し心下に鬱結ある者は大柴胡湯加茵蔯、反て効あり。若し虚候ある者は『千金』茵蔯湯に宜し。

 

葦茎湯
 此の方は平淡にして思ひの外効あるものなり。微熱と胸中甲錯とを目的とすべし。胸に甲錯あるは蓄血あるが故なり。蓄血なくとも咳血のあるに宜し。若し咳嗽甚だしきものは四順散を合して効あり。福井楓亭は肺癰に先づ『準縄』の瀉白散を用ひ、効なきときは此の方を用ゆと云ふ。

 

已椒藶黄丸料
 此の方は元、腸胃の間に留飲ありて水腫に変ずる者に効あり。四肢の浮腫よりは腹脹満を主とすべし。腹堅実の者には芒硝を加ふべし。此の芒硝は木防已去石加茯苓芒硝と同意にて、実を挫き利水を主とするなり。方後に「渇するものに加ふる」と在るに拘るべからず。

 

茵蔯五苓散
 此の方は発黄の軽症に用ゆ。小便不利を主とするなり。故に『聖済総録』に此の方「陰黄身如橘色小便不利云々」を治すと云ふ。陰黄の症、『巣源』に詳らかに見えて陰症のことには非ず。唯だ熱状なき者を云ふ。若し此の方の証にして熱状ある者は、梔子柏皮湯及び茵蔯蒿湯を撰用すべし。また黄胖には鉄砂散を兼用すべし。東垣、酒客病を治するに此の方を用ゆること最も得たりとす。平日酒に酔ひ煩悶止まざる者に与へて、汗を発し小便を利する老手段なり。

 

郁李仁湯(本朝経験、一)
 此の方は虚実間の水気を治す。就中、水気上体に盛んに心腹脹満、或は短気ある者に効あり。『聖恵』に郁李、杏仁、橘皮、防已、蘇子、茯苓、六味の方あれども、此の方より其の効劣れり。

 

胃風湯
 此の方は『素問』の所謂「胃風」には非ず。一種腸胃の不和より、泄瀉に非ず、滞下に非ず、水穀化せずして稀汁と血液と漏下して止まず、顔色青惨、荏苒歳月を延ぶる者を治す。蓋し甘草瀉心湯、断痢湯の如きは上焦に属し、此の方は下焦の方に属するなり。

 

茵蔯散(聖済)
 此の方は『医学綱目』犀角湯の原方にして、傷寒導赤各半の症にて、熱、心下に結留し、数日解せざる者に用ひて効あり。雑病には犀角湯反て捷効を奏す。

 

医王湯
 此の方元来、東垣、建中湯、十全大補湯、人参養栄湯などを差略して組立てし方なれば、後世家にて種々の口訣あれども、畢竟、小柴胡湯の虚候を帯ぶる者に用ゆべし。補中だの益気だの升堤だのと云う名義に泥むべからず。その虚候と云ふものは、第一に手足倦怠、第二に言語軽微、第三に眼勢無力、第四に口中生白沫、第五に失食味、第六に好熱物、第七に当臍動気、第八に脈散大而無力等、八症の内、一二症あれば、此の方の目的となして用ゆ。其の他、薜立斎が所謂「飲食労役而患瘧痢等証、因脾胃虚而久不能愈」だの、龔雲林の所謂「気虚卒倒中風等症、因内傷者」だのと云ふ処に着眼して用ゆべし。前に述ぶる通り、少陽柴胡の部位にありて内傷を兼ぬる者に与ふれば間違ひなきなり。故に婦人、男子共に虚労雑症に拘らず、此の方を長服し効を得ることあり。婦人には最も効あり。また諸痔脱肛の類、疲れ多き者に用ゆ。また此の症にして煮たてたる熱物を好むは附子を加ふべし。何ほど渇すといへども附子苦しからず。

 

胃苓湯
 此の方は平胃散、五苓散の合方なれば、傷食に水飲を帯ぶる者に用ひて宜し。其の他、水穀不化にして下利、或は脾胃不和にして水気を発する者に用ゆべし。『回春』に所謂「陰陽不分」とは太陰に位して陰陽の間に在る症を云ふなり。

 

養血湯
 此の方は元、腰腿或は筋骨の疼痛を和血して治する方なれども、今、黴毒家、種々の汞剤、燥剤を服し、或は巴豆、硝黄にて攻撃を極め、遂に肌肉、枯柴骨立して疼痛猶ほ止まず、痿躄をなす者に用ひて効あり。また湿労にも用ゆ。蓋し逍遙解毒湯は寒を目的とし、此の方は疼痛を主とするなり。

 

痿証方
 此の方は福井楓亭の経験にて、腰以下痿して不起の者の初起に効あり。若し津液竭乏、咳嗽等の症あらば、加味四物湯を与ふべし。但し脚気の痿症には、此の二方よりは『済生』腎気丸、大防風湯の類に宜し。

 

郁李仁湯(本朝経験、二)
 此の方は眼科青木氏の家方にして、水腫の套剤とす。実腫には極めて効あり。虚腫には斟酌すべし。

 

茵荊湯
 此の方は竹中文慶の家方にして、痔血久しく止まず、面色萎黄、身体浮腫、短気、目眩して行歩する能はざるを治す。また脾労下血して水気ある者を治す。此の方は利水中に止血鎮墜の意を寓する故、運用して意外の効を奏するものなり。

 

葳蕤湯
 此の方は『漫遊雑記』に出で、虚憊の黴毒、或は骨痛、或は上逆して耳鳴、或は頭鳴り、或は目悪しき等に用ゆ。また毒の咽喉に就きて腐らんとし、或は鼻梁を頽さんとするに効あり。蓋し熱候ありて汞剤、附子など用ひ難き処に宜し。若し熱なく虚憊甚だしき者は六度煎を与ふべし。

 

遺糧湯
 此の方は中西家の伝にて、黴瘡下疳の初起に解毒剤よりは表発の効あり応じ易し。また初起の骨節疼痛にも用ゆ。毒劇しき者は七宝丸を兼用すべし。此の方、土骨皮を伍する旨あり。先哲の伝に、毒気頭上に上衝すること劇しき者は土骨皮を主として天麻を加ふることあり。また和方に土茯苓を用ひずして土骨皮を用ゆることあり。功能大抵土茯苓と相類すと見ゆ。

 

茵蔯散(医通)
 此の方は骨槽風を治するが主なれども、凡べて牙歯疼痛、歯齗腐爛して諸薬効なき者に用ゆ。兼ねて上部瘀毒上衝して項背強急する者を治す。骨槽風は難治の症なれども、初起、此の方を用ゆるときは善治を得るなり。

 

六物黄芩湯
 此の方は黄芩湯と桂枝人参湯の間に位して、上熱下寒の下痢に用ひて効あり。且つ黄芩湯は腹痛を主とし、此の方は乾嘔を主とし、桂枝人参湯は腹痛嘔なく表熱ありて虚寒に属するを主とす。蓋し半夏瀉心湯に類して下利を治するの効、尤も捷なり。

 

六物附子湯
 此の方は骨節疼痛の模様、附子湯に似たれども、其の因、風湿より来たりて四肢に水気を含み、悪寒、自汗等出づるものなり。畢竟、桂枝附子湯の一等水気ある者に用ゆ。また其の水気、表に専らにして、真武湯の内水とは大いに異なるなり。

 

蔞貝養栄湯
 此の方は熱邪大勢解したる後、痰涎壅塞して、精気振はざる者に用ゆ。竹葉石膏湯は余熱上焦にありて痰を動かす者を治す。此の方は、胸膈清からずして痰壅を目的とす。雑病には、精気振はず痰胸膈にありて懸痛する者を治す。

 

六度煎
 此の方は黴毒頑固数年愈えず、津液これが為に虚憊骨立、或は筋骨疼痛、殆んど痿躄を為し、桂枝加朮附湯の類を与へて効なき者を治す。若し津液稍や復すと雖も毒動かざる者は、化毒丸少量を兼用すべし。

 

弄玉湯
 此の方は原南陽の経験にて、児疳を治すること消疳飲より優れり。但し腹痛、下利を目的とすべし。若し黄痩、腹満、寒熱ある者は『医鑑』の黄耆湯に宜し。

 

六物解毒湯
 此の方は山脇東洋の捜風解毒湯を刪訂したる者にて、捜風解毒湯の主治と同じ処へ用ゆるなり。蓋し香川の解毒剤は一切の瘡瘍の毒を小便に分泌する効あり。諸瘡の臭気を去るには別して妙なり。此の方は筋骨疼痛と軽粉、甘汞の毒を解するを主として用ゆべし。

 

半夏瀉心湯
 此の方は飲邪併結して心下痞鞕する者を目的とす。故に支飲或は澼飲の痞鞕には効なし。飲邪併結より来たる嘔吐にも噦逆にも下利にも皆運用して特効あり。『千金翼』に附子を加ふるものは即ち附子瀉心湯の意にて、飲邪を温散させる老手段なり。また虚労或は脾労等の心下痞して下利する者、此の方に生姜を加へてよし。即ち生姜瀉心湯なり。また痢病嘔吐つよき者に『無尽蔵』の太乙丸を兼用して佳なりと云ふ。

 

白頭翁湯
 此の方は陰部の熱利を主とす。熱利とは、外証は真武湯などの如くぺったりとして居れども、裏に熱ありて咽乾き渇甚だしく、便、臭気ありて後重し、舌上は反て胎なし。此の症、若し虚弱甚だしきものは阿膠、甘草を加へて用ゆべし。『金匱』に産後とあれども一概に拘るべからず。此の方また傷寒時疫等、渇甚だしくして水飲咽に下る時は、直ちに利する者に宜し。

 

白頭翁加甘草阿膠湯
 此の方は唯だ虚極と云ふ者は、極字は六極の極と同義にて、虚憊甚だしきを云ふ。阿膠は下利を止むを主とす。甘草は中気を扶くるなり。『外台』厚朴湯、安石榴皮湯等の阿膠も同意なり。其の他、猪苓湯の阿膠は水を利するなり。人参養栄湯の阿膠は咳を止むるなり。此れと混ずべからず。余は前の白頭翁湯の条に詳らかにす。

 

半夏散及湯
 此の方は冬時、寒に中りて咽喉腫痛する者に宜し。発熱悪寒ありても治す。此の症、冬時に多くあるものなり。また後世の陰火喉癬とも云ふべき症にて、上焦に虚熱ありて咽喉糜爛し、痛堪へがたく、飲食咽に下らず、甘桔湯、其の他、諸咽痛を治するの薬、寸効なき者に用ひて一旦即効あり。古本草に桂枝咽痛を治する効を載す。半夏の薟辣と甘草の和緩を合して其の効用を捷かにす。古方の妙、感ずるに余りあり。

 

防已地黄湯
 此の方は老人男女ともに老耄して妄語狂走する者を治す。『金匱』「中風」に属してあれども、是れは失心風の類とも云ふべきなり。一老婦、面目手足微腫ありて心気楽まず、人に対すれば落涙愁傷し、他に余症なきもの、此の方を用ひて全愈せり。

 

八味丸
 此の方は専ら下焦を治す。故に『金匱』少腹不仁、或は小便自利、或は転胞に運用す。また虚腫、或は虚労腰痛等に用ひて効あり。其の内、消渇を治するは此の方に限るなり。仲景が漢武帝の消渇を治すと云ふ小説あるも虚ならず。此の方、牡丹、桂枝、附子と合する処が妙用なり。『済生方』に牛膝、車前子を加ふるは、一着輸けたる手段なり。『医通』に沈香を加へたるは一等進みたる策なり。

 

麦門冬湯
 此の方は『肘後』に云ふ通り、「肺痿、咳唾、涎沫不止、咽燥而渇」する者に用ゆるが的治なり。『金匱』に大逆上気と計ありては漫然なれども、蓋し肺痿にても頓嗽にても労嗽にても妊娠咳逆にても、大逆上気の意味ある処へ用ゆれば大いに効ある故、此の四字簡古にて深旨ありと見ゆ。小児の久咳には此の方に石膏を加へて妙験あり。さて咳血に此の方に石膏を加ふるが先輩の経験なれども、肺痿に変ぜんとする者、石膏を日久しく用ゆれば不食になり、脈力減ずる故、『千金』麦門冬湯類方の意にて、地黄、阿膠、黄連を加へて用ゆれば工合よく効を奏す。また『聖恵』五味子散の意にて、五味、桑白皮を加へて咳逆甚だしき者に効あり。また老人、津液枯稿し食物咽につまり、膈症に似たる者に用ゆ。また大病後、薬を飲むことを嫌ひ、咽に喘気有りて、竹葉石膏湯の如く虚煩なき者に用ゆ。皆咽喉不利の余旨なり。

 

防已黄耆湯
 此の方は風湿表虚の者を治す。故に自汗久しく止まず、皮表常に湿気ある者に用ひて効あり。蓋し此の方と麻黄杏仁薏苡甘草湯と虚実の分あり。彼の湯は脉浮、汗不出、悪風の者に用ひて汗を発す。此れは脈浮にして汗出、悪風の者に用ひて解肌して愈ゆ。即ち傷寒中風、麻黄、桂枝の分あるが如し。身重は湿邪なり、脈浮、汗出は表虚する故なり。故に麻黄を以て発表せず、防已を用ひてこれを駆るなり。『金匱』治水治痰の諸方、防已を用ゆるもの、気上に運りて水能く下に就くに取るなり。「服後如虫行」及び「腰以下如氷云云」皆湿気下行の徴と知るべし。

 

防已茯苓湯
 此の方は皮水を主とすれども、方意、防已黄耆湯に近し。但し朮を去りて桂苓を加ふる者は皮膚に専らにゆくなり。一人身体肥胖、運動意の如くならず、手足振掉し、前医、桂苓朮甘、真武の類を投じ、或は痰の所以として導痰化痰の薬を服せしめ、更に効なき者、此の方にて愈ゆ。また下利久々治せず、利水の薬にて愈えがたき者、此の方を用ひて意外に治することあり。また水腫、腹堅硬にして是れを按ずに潤沢なく、譬へば革袋に水を盛りて其の上をさする如く、かさかさして堅く腫るるは陽気の脱なり。此の方に附子を加へて効を奏すること有り。

 

柏葉湯
 此の方は止血の専薬なり。馬糞水を用ひて化開し、布を以て汁を濾し、澄清するを馬通汁と云ふ。馬通汁を童便に換へても宜し。童便の血を治することは『楮氏遺書』に見えたり。

 

排膿散
 此の方は諸瘡瘍を排撻するの効、尤も捷なり。其の妙は桔梗と枳実と合したる処にあり。即ち『局方』人参敗毒散に枳穀、桔梗連用したるも、此の方意なり。枳実を発散に用ひ、当帰を下気に用ゆるは、古本草の説なり。また此の方を煎湯に活用するときは排膿湯と合方して宜し。

 

半夏厚朴湯
 此の方は『局方』四七湯と名づく。気剤の権輿なり。故に梅核気を治するのみならず、諸気疾に活用してよし。『金匱』『千金』に据えて婦人のみに用ゆるは非なり。蓋し婦人は気鬱多き者故、血病も気より生ずる者多し。一婦人、産後気舒暢せず、少し頭痛もあり、前医血症として芎帰の剤を投ずれども不治、これを診するに脈沈なり。「因気滞生痰」の症として、此の方を与ふれば不日に愈ゆ。血病に気を理するも亦一手段なり。東郭は水気心胸に畜滞して利しがたく、呉茱萸湯などを用ひて倍ます通利せざる者、及び小瘡頭瘡内攻の水腫、腹脹つよくして小便甚だ少なき者、此の方に犀角を加へて奇効を取ると云ふ。また浮石を加へて膈噎の軽症に効あり。雨森氏の治験に、睾丸腫大にして斗の如くなる人、其の腹を診すれば必ず滞水阻隔して心腹の気升降せず。因りて此の方に上品の犀角末を服せしむること百日余、心下開き、漸々嚢裏の畜水も消化して痊ゆ。また身体巨瘤を発する者にも効あり。此の二証に限らず、凡べて腹形あしく、水血二毒の痼滞する者には皆此の方にて奇効ありと云ふ、宜しく試むべし。

 

防已湯(千金)
 此の方は歴節痛甚だしく腫気を帯ぶる者に用ゆ。歴節痛甚く屈伸しがたき者は烏頭湯なり。腫気ありて痛堪へがたき者は此の方に非ざれば効無し。

 

八神湯
 此の方は『千金』に出づ、方名なく小児疳労の主薬とす。然れども虚実の分あり。虚憊の者は『医鑑』の黄耆湯に宜し。実する者、此の方を用ゆべし。心腹痞満と萎黄、手足繚戻が目的なり。黄耆湯は寒熱、黄痩、腹満が目的なり。また虚実の間にあるものは解労散の之く所と知るべし。

 

八物附子湯
 此の方は『傷寒論』附子湯の症にして、其の痛み一等劇しく、精気虚乏の者に用ゆべし。

 

半夏湯
 此の方は痰飲の陰分に陥る者を治する方なれども、其の薬至りて単捷ゆへ、中風の痰喘壅盛、欲脱者にも、脚気虚憊して衝心嘔逆する者にも、活用して効あり。

 

肺傷湯
 此の方は肺痿の主方にて、炙甘草湯加桔梗の之く処と克く肖たり。但し此の方は、咳嗽甚だしく、咳血止まず、臥するを得ざる者を主とす。炙甘草湯は動悸甚だしく、労嗽、行動すること能はざる者を主とす。

 

防已湯(産宝)
 此の方は妊娠の水気に用ひて意外に効あり。其の他、男女に論なく、皮水に用ゆべし。

 

麦煎散
 此の方は乾血労の主薬とす。其の人、熱甚だしく、口中臭気あるか二便臭気甚だしきものに用ひて効あり。また婦人、瘀血流注して寒熱甚だしき者に効あり。凡そ乾血の症、熱なくして羸痩腹満の者は桂枝桃仁湯に大黄★(「庶」の下に「虫」)虫丸を兼用すべし。

 

半夏白朮天麻湯
 此の方は痰飲、頭痛が目的なり。其の人、脾胃虚弱、濁飲上逆して常に頭痛を苦しむもの、此の方の主なり。若し天陰風雨毎に頭痛を発し、或は一月に二三度宛つ、大頭痛、嘔吐を発し、絶食する者は、半硫丸を兼用すべし。凡べて此の方は食後胸中熱悶、手足倦怠、頭痛睡眠せんと欲する者効あり。また老人虚人の眩暈に用ゆ。但し足冷を目的とするなり。また濁飲上逆の症、嘔気甚だしき者は呉茱萸湯に宜し。若し疝を帯ぶる者は当帰四逆加呉茱萸生姜湯に宜し。

 

八珍湯
 此の方は即ち四物湯、四君子湯の合方にして、気血両虚を目的とす。何病にても気血振はざる者、対症の薬を加味して用ゆべし。譬へば帯下虚憊の者に牛皮消を加へて特効あるが如く種々活用すべし。

 

肺癰神湯
 此の方は肺癰湯を用ひて効なく虚憊咳血止まざる者に用ゆ。若し一等虚脱する者は『外台』桔梗湯か『丹台玉案』の八宝散を撰用すべし。

 

反鼻交感丹
 此の方は健忘甚だしき者、或は発狂後放心して痴騃になる者、または癇鬱して心気怏々と楽しまざる者を治す。牧野侯、発狂後、心気鬱塞、語言する能はず、殆んど癡人の如し。此の方を服する一月余、一夜、東台博覧会開館の煙火を見て始めて神気爽然、平に復す。其の他数人、此の方にて治す。反鼻、揮発の功、称賛すべし。

 

破棺湯
 此の方は膈噎よりは痰飲家咳喘して咽痛する者に効あり。破棺は咽喉を透達するの意なり。瘡瘍の破棺湯は調胃承気湯のことを謂ふなり。

 

馬明湯(二方)
 忍冬、石菖根の伍する方は原南陽の伝にて、胎毒眼に効あり。其の内、胎毒にて眼胞赤爛、膿水淋漓する者、能く功を奏す。此の方は和田東郭の伝にて嬰児胎毒脇肋の下に在りて種々害を為す者を治す。老医の伝に、凡べて小児の病を診察するに先づ陰嚢を能くみるべし。若し陰嚢に紅筋ちらちらとある者は決して其の父母の遺病なりと。余これを試みるに、胎毒の者は必ず陰嚢に紅筋を見し、後遂に悪瘡を発すること有り。また此の方の主なり。其の他、小児の瘡瘍胎毒に属する者、忍冬、連翹を加へて効あり。清川菖軒の経験に、一室女、気宇鬱塞、時々身痒を発し、寒熱往来して、乾血労の漸しとも謂ふべき証に、此の後方を用ひて数旬、閉ぢたる経水通じ、諸症脱然として愈ゆと云ふ。

 

発陳湯
 此の方は後世の柴苓湯や小柴胡湯、三白湯の合方よりは簡易にて活用しやすし。凡そ邪気表裏の間に位して、寒熱、頭疼、腹痛、嘔気ありて下利する者、風寒暑湿を論ぜず、此の方を投ずべし。

 

敗毒剤
 此の方は香川秀菴子『局方』人参敗毒散を刪訂したる者にて、人参敗毒散の場合へ用ゆべし。後の十敗湯は後世の荊防散敗毒散の場合なり。

 

排雲湯
 此の方は原、風眼の病なれども風眼には先づ大青竜湯加車前子にて発汗し、後柴円を用ひて峻下すべし。其の以後、熱の軽重を詳らかにし、加減涼膈散か此の方を与ふべし。

 

八味帯下方
 此の方は婦人帯下黴毒を兼ぬる者に用ひて効あり。若し陰中糜爛、疼痛甚だしく、臭気鼻を掩ふ者は、甘汞丸を兼用すべし。本朝経験の方にして帯下に闕くべからざる方なり。

 

八味疝気方
 此の方は疝気血分に属する者を主とす。当帰四逆加呉姜は和血の効あり。此の方は攻血の能ありて虚実の分とす。また婦人血気刺痛を治す。福井にては、小腹に瘀血の塊あって脚攣急し寒疝の形の如き者、或は陰門に引き時々痛みあり、或は陰戸突出する者、また腸癰等にも用ゆ。楓亭の識見は疝は本水気と瘀血の二つに因りて痛を作す者の病名とす。故に大黄牡丹皮湯、牡丹五等散、無憂散、四烏湯、烏沈湯等の薬品を採択して一方となすなり。此の意を体認して用ゆべし。『観聚方』烏薬を烏頭に作る。誤なり。

 

肺癰湯
 此の方は原南陽の創意にして、肺癰初起に用ひて特効あり。若し寒熱胸痛甚だしきものは、柴胡桔梗湯加葶藶を用ひて清解の後、此の方を与ふべし。臭膿多き者は獺肝散を兼服すべし。

 

肺疳方
 此の方は北尾春甫の経験に出で、小児疳水、肺部に属する者を治す。是れより運用して、大人肺部に属する水気を治す。支飲の候あれば苓甘姜味辛夏仁黄湯加葶藶を主とす。若し虚候あれば此の方が宜しきなり。

 

人参湯
 此の方は胸痺の虚症を治する方なれども、理中丸を「為湯」の意にて、中寒、霍乱、すべて太陰吐利の症に用ひて宜し。厥冷の者は『局方』に従ひて附子を加ふべし。朮附と伍するときは附子湯、真武湯の意にて内湿を駆するの効あり。四逆湯とは其の意稍や異なり。四逆湯は即ち下利清穀を以て第一の目的とす。此の方の行く処は吐利を以て目的とするなり。

 

人参散
 此の方は虚熱盗肝が目的にて、骨蒸労熱の初起、柴胡姜桂湯よりは一等虚候の者に用ゆべし。咳嗽甚だしき者は五味子を加ふるなり。

 

人参当帰散
 此の方は産後内熱、虚煩を主とす。産後のみならず、血虚、煩熱、頭疼、体痛の者に宜し。また竹葉石膏湯の症にて血虚を帯ぶれば此の方を用ゆるなり。此の方の一等軽き者を甘竹筎湯とす。

 

人参養栄湯(局方)
 此の方は気血両虚を主とすれども、十補湯に比すれば遠志、橘皮、五味子ありて、脾肺を維持する力優なり。『三因』には「肺与大腸倶虚」を目的にて、下利喘乏に用ひてあり。万病とも此の意味のある処に用ゆべし。また傷寒壊病に、先輩、炙甘草湯と此の方を使ひ分けてあり。熟考すべし。また虚労、熱有りて咳し下利する者に用ゆ。

 

人参養胃湯
 此の方は不換金正気散より脱化し来たりて、脾胃を健運し、邪気を開達するの効優なり。故に瘧邪虚に属する者を治するのみならず、凡べて老人など胃中湿滞ありて虚熱を釀し飲食進まざる者を治す。また柴胡、黄芩を加へて小児疳癖の症、寒熱有りて瘧に似たる者を治す。浄府散とは虚実の別ありと知るべし。

 

人参養栄湯(聖済)
 此の方は古名に従へども、『袖珍』に養肺湯に作るが的切なり。今、肺痿の熱症を治する此の方に如くものなし。若し一等熱候甚だしき者を秦艽扶羸湯とす。また一等虚する者を劫労散とす。此の方に云ふ「午後熱声嘶」と、扶羸湯に云ふ「寒熱声唖不出」と、刧労散に云ふ「微嗽有唾、唾中有紅線、名曰肺痿」と、皆肺痿の主方とすべし。また今の所謂虚労なる者は古の肺痿なることを知るべし。

 

人参飲子
 此の方は小柴胡湯の一等熱甚だしく、煩渇、嘔吐止まざる者を治す。咳嗽には杏仁を加へ、潮熱するには鼈甲を加ふ。往年、麻疹の後の労熱に用ひて特効あり。其の他諸病に活用すべし。

 

人参養栄湯(温疫論)
 此の方は生脈散に四物湯を合し、川芎を去りて知母、橘皮、甘草を加ふる者なり。総べて虚症の疫に用ゆ。また温疫、大勢解したる後の調理の剤となすべし。蓋し又可は人参嫌ひの人故、薓の使用、古方とは相違す。

 

忍冬化毒湯
 此の方は三浦安貞、痘に計用ゆれども、惣体血分に渉りて膿水淋漓する腫物に活用して宜し。

 

人参胡桃湯
 此の方は急喘を治する効、尤も捷なりとす。凡べて胡桃は肺気を潤ほし、声唖を治す。故に小児馬脾風、喘鳴声唖、虚候に属する者に、訶子、桔梗、甘草を加へて効あり。また驚癇後、或は産後、或は老人の声唖、凡べて肺虚に属する者に、此の加味を用ひて効を奏す。

 

二角湯
 此の方は小児の痿躄に最も効あり、また背脊腰痛をも治す。一婦人、腰痛甚だしく両脚攣急痿軟して歩行する能はざる者を治して効あり。痿躄湯は凝結を融解して活血するの能あり、此の方は活血して筋骨を強壮にするの効あり、何れも伯仲の間と知るべし。

 

女神散
 此の方は元、安栄湯と名づけて軍中七気を治する方なり。余家、婦人血症に用ひて特験あるを以て今の名とす。世に称する実母散、婦王湯、清心湯、皆一類の薬なり。

 

牡蛎沢瀉散
 此の方は腰以下の水気を治すとあれども、腰以上の水気に用ひて効あり。其の之く所は虚実間にある者なり。若し実する者は大黄を加ふべし。劉教諭茝庭の経験なり。此の方、服しがたき者は『傷寒五法』の沢瀉牡蛎湯を用ゆべし。

 

奔豚湯(金匱)
 此の方は奔豚気の熱症を治す。奔豚のみならず、婦人、時気に感じ熱あり、血気少腹より衝逆する者、即効あり。独嘯庵、奔豚気必ずしも奔豚湯を用ひずと謂はれたれど、余門にては奔豚湯必ずしも奔豚を治するのみならずとして活用するなり。

 

奔豚湯(肘後)
 此の方は前湯の熱候なき処へ用ゆ。且つ虚候あり。方中の呉茱萸、一切気急ある者を治す。『腹症奇覧翼』には積聚の套剤とす。故に一切の積気に因りて下より心下に升り、痛み、或は嘔し、呼吸短気、死せんと欲するを治す。

 

補肺湯
 此の方は麦門冬湯の一層咳嗽甚だしき処へ用ゆ。「寒従背起、口中如含霜雪」といふが目的なり。肺痿熱候なき症にままあり。甘草乾姜湯と参照すべし。一説に此の症、必ず頭頂冷えて咳する者なりと云ふ。また柴胡姜桂湯も水飲なき咳に用ひて効あり、然れども彼は熱ある者、此れは熱なき者、此れを分とするなり。

 

補血湯
 此の方は『試効方』に白虎湯疑似の症を治するやうに論ずれども、其の実は唯だ浮泛の血熱を治するのみ。四物湯など反て泥恋して服し兼ぬるものに用ひて効あり。脾胃不足の者、六君子湯を合して、八珍湯よりは反て捷効あり。

 

補中治湿湯
 此の方は補中行湿して腫脹を去るの手段、面白き用ひ場あり。一溪道三氏屡しば経験せし故、一溪の立方の様に謂へども、『医林集要』の方なり。また『済生全書』に当帰、木通、升麻を去り、沢瀉、白朮を加へて、補気建中湯と名づけ鼓脹を治す。目的は同意なり。

 

樸樕湯
 此の方は和製にて諸家に類方多く有り。痛風、風毒、黴毒などの骨節疼痛、荏苒として諸漢方の効なき者、一向に専用して意外に効を奏す。土骨皮、最主薬なり。多量大剤にして用ゆべし。土骨皮の効は前の遺糧湯の条下に弁ず。

 

補腎湯
 此の方は『疝癥積聚編』にも出で、疝積の主方とす。吾門にては大三脘湯の症にして、虚寒に属する者に用ひて大いに験あり。また老人固冷の症に空気を帯ぶる者極めて宜し。

 

蒲公英湯
 醸乳の剤、諸家数方ありと雖も、此の方尤も簡にして効あり。乳泉散と其の功伯仲す。蒲公英は春初嫩葉を羹にして食して醸乳の功あり。

 

鼈甲散
 此の方、骨蒸の下利、飲食を思はざる者に用ひて一旦効あり。また一通りの虚労、熱有りて咳し、下利する者は『局方』人参養栄湯に宜し。『聖恵』には治脾労とあれども、真の脾労には人参養胃湯か加味平胃散の類に宜し。脾労は『外台』の説を古義とす。

 

平胃散
 此の方、後世家は称美すれども顕功はなし。唯だ『金匱』橘皮大黄朴硝三味方の軽症に用ひ、或は傷食、備急円にて快下の後、調理に用ひて宜し。凡べて食後、食化せず心下に滞り、また食後、腹鳴り下利するときは反て快き症に用ゆ。但し胞衣を下すに芒硝を加へ、小児虫症、腹痛啼哭を治するに硫黄を加ふるが如きは、理外の理、不可測の妙を寓するものなり。

 

変製心気飲
 此の方は『宝慶集』分心気飲の変製なれども、其の方反て古に近し。就中水鬱と云ふが此の方の目的にて、其の源は支飲より種々に変化したる症に用ひて効験著し。

 

平肝飲
 此の方も柴胡疎肝湯と『外台』治寒冷澼飲方との変製にして、左脇下の痃癖が目的なり。蓋し延年半夏湯は痃癖左脇下より上肩背に迫るを主とし、此の方は宗筋怒脹攣痛を主とす。檪窓劉教諭の工夫にして『回春』平肝流気飲に比すれば反て古に近し。

 

独活葛根湯
 此の方は肩背強急して柔中風の証をなし、或は臂痛、攣急、悪風、寒ある者に宜し。蓋し其の症、十味剉散に彷彿して、血虚の候、血熱を挟む者に宜し。

 

透膿散
 此の方は「内膿已成、不穿破」というが目的にて、『千金』内托散より其の方更に優なり。痘瘡内攻せんと欲する者には反鼻を加へて効あり。諸瘍とも此の意にて活用すべし。

 

騰竜湯
 此の方は竹中分輔の家方にて、痔毒を消し、焮痛を治す。即ち大黄牡丹皮湯に蒼朮、薏苡、甘草を加ふる者なれば、腸癰、便毒、諸瘍に活用すべし。

 

洞当飲
 此の方は賀川子玄の創意にて、血気暴逆を治する方なれども、畢竟は小柴胡湯の症にして、肝気暴逆、或は吐血、胸膈拒痛する者を治す。傷寒挟熱下利に用ひても宜し。

 

土骨皮湯
 此の方は頭瘡の証、諸下剤を用ひて効なき者を治す。土骨皮、一名樸樕、能く発表す。故に頭瘡、骨痛を治す。蓋し頭瘡、発熱、悪寒の表症あれば葛根加反鼻にて発汗すべし。若し頑瘡起発の勢なき者、此の方に宜し。

 

竹葉石膏湯
 此の方は麦門冬湯の一等熱候ありて煩悶少気、或は嘔渇咳嗽する者を治す。同一石剤なれども、此の方と竹皮大丸とは上焦に専らに、白虎湯は中焦に専らなり。麻杏甘石湯と越婢加半夏湯とは肺部に関係し、大青竜湯は特り表熱に専らにす。其の方、参照して区別すべし。また張路玉の経験に病後虚渇して小便赤き者に宜しと云ふ。今、参胡芍薬湯などを用ひて其の熱解せず小便の色とりわけ赤き者、此の方効あり。また麻疹を治するに此の方始終貫きて用ひ場あり、体認すべし。

 

猪苓湯
 此の方は下焦の畜熱、利尿の専剤とす。若し上焦に邪あり、或は表熱あれば、五苓散の証とす。凡そ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方倶に能く下利を治す。但し其の位異なるのみ。此の方、下焦を主とする故に、淋疾或は尿血を治す。其の他、水腫実に属する者、及び下部水気有りて呼吸常の如くなる者に用ひて能く功を奏す。

 

竹皮大丸
 此の方、血熱甚だしく煩乱嘔逆して諸薬口に納る能はざる者に奇効あり。白薇は能く血分に之く。『千金』婦人門、白薇の諸方徴すべし。『本事方』治血厥白薇湯も同意なり。また『小品方』には桂枝加竜骨牡蛎湯の桂枝を去り、白薇、附子を加へて二加竜骨湯と名づけ、虚弱、浮熱、汗出の者を治す。

 

竹葉湯
 此の方は産後の中風虚熱、頸項強急、痙病を発せんと欲する者に用ゆる薬なれども、老人などの虚熱上部に着き、頭痛、悪寒、微咳ありて、連綿日を経る者に与へて意外の功を奏す。

 

竹葉黄芩湯
 此の方は竹葉石膏湯の証にして、一等虚熱甚だしく、歯焦髪落と云ふ如く、血燥の症ありて、大小便など短渋し、形容枯稿すれども、思ひの外維持の力ある者に用ひて効あり。

 

腸癰湯(千金)
 此の方は腸癰にて大黄牡丹湯など用ひ攻下の後、精気虚敗、四肢無力にして、余毒未だ解せず、腹痛淋瀝已まざる者を治す。此の意にて肺癰の虚症、臭膿未だ已まず、面色萎黄の者に運用してよし。また後藤艮山の説に云ふ如く、痢病は腸癰と一般に見做して、痢後の余毒に用ゆることもあり、また婦人帯下の証、疼痛已まず、睡臥安からず、数日を経る者、腸癰と一揆と見做して用ゆることもあり、其の妙用は一心に存すべし。

 

治脚気冷毒悶云々方
 此の方は唐侍中一方の証にして嘔吐あり、上気死せんと欲する者に用ゆ。嘔気の模様、犀角旋覆花湯に似たれども、犀角旋覆花湯は水気上部に盛んに顕れてあり、此の方は水気表に見れず、湿毒直ちに心下に衝いて嘔吐する者に宜し。

 

治腰脚髀云々方
 此の方、脚気腫除くの後、痿弱酸疼する者に宜し。後世にては思仙続断円など用ゆれども、此の方の簡便にて捷効あるに如かず。若し腫気残りて麻痺疼痛する者は四物湯加蒼朮木瓜薏苡仁に宜し。また此の方を腲腿風に用ゆることあり。何れも酸疼を目的とす。

 

沈香降気湯
 此の方は気剤の総目なり。陰陽升降せずと云ふが目的にて、脾労の症、或は一切の病、上衝強く、動悸亢り、頭眩し、耳鳴り、気鬱する症に用ゆ。また脚気心を衝くの症に桑白皮湯或は呉茱萸湯等の苦味を苦しみて嘔吐する者に効あり。香蘇散、正気天香湯等は気発を主とす。此の方は降気を主とす。其の趣き稍や異なり。塩を入るるものは潤下に属す。或は左金丸を合するときは降気の力尤も強しとす。

 

丁香茯苓湯
 此の方は胃中不和より滞飲酸敗を生じ、遂に翻胃状をなす者を治す。生姜瀉心湯よりは一等虚候にして久積陳寒に属する者に宜し。

 

治吐乳一方
 此の方は小児胃虚の吐乳を主とす。また大人禁口痢の吐逆に運用すべし。若し吐乳して下利する者は銭氏白朮散加丁香に宜し。

 

治婦人経水不通云々方
 此の方は血分腫の主方なり。血分腫とは王永甫が『恵済方』に云ふ「婦人経滞化為水、流走、四肢悉皆腫満、名日血分証、与水腫相似、医不能審輒作水腫治之誤也」と、是れなり。若し虚候ありて此の方を用ひがたきときは『宝慶集』の調経散を用ゆべし。

 

沈香四磨湯
 此の方は冷気攻衝と云ふが目的にて、積聚にても痰飲にても、冷気を帯びて攻衝するに与ふれば一時即効を奏す。『済生方』には上気喘息を治するに養正丹を兼服してあり。

 

沈香天麻湯
 此の方は先輩許多の口訣あれども、畢竟、癇の一途に出でず。其の癇に抑肝散、治肝虚内熱方などを用ひ、一等病勢の強き者、此の方の主なり。また慢驚風に全蝎を加へて功を奏す。是れ陰癇に属すればなり。また大人小児共に痰喘甚だしく咽に迫り癇を発する症に用ひて奇効あり。また産後、金瘡、或は下血、痢疾、或は男女共に脱血して不時に暈絶して人事を省みず、手足麻木、或は半身瘛瘲、屈伸しがたく、或は手足の指ゆがみて伸びず、脈沈弱なるに用ひて妙なり。一婦人、不食、怔忡、胸中氷冷、眩暈足冷に与へて大効を得。此れ本、寒痰胃中に塞がりて有るより発することなれば、胸中の冷気に着眼して能く審定すべし。

 

沈香飲
 此の方は腹脹気喘の症、諸薬効なき者に用ひて宜し。虚する者は附子を加ふることあり。

 

知柏六味丸
 此の方は滋陰の剤にて虚熱に用ゆ。また腰以下血燥して煩熱酸疼する者にも用ゆ。先哲の説に、腎虚を治するに二つの心得あり。所謂腎には水火の二つ有りて、其の中に人の性により水虧けて火の盛んなる者あり、軽きときは此の方、重きときは滋陰降火の類を用ゆ。また火衰へて水泛濫する証あり、是れを八味丸とす。此の両途を弁じて、此の方の之く処は真水が乏しくして命門の火の亢る症と心得べし。

 

腸癰湯(集験方)
 此の方は大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用ひがたき者に用ゆ。或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後、此の方を与へて余毒を尽すべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の所治多し。

 

竹筎温胆湯
 此の方は竹葉石膏湯より稍や実して、胸膈に鬱熱あり、咳嗽不眠の者に用ゆ。雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚だしき者に効あり、不眠のみに拘るべからず。また『千金』温胆、『三因』温胆の二方に比すれば、其の力緊にして、温胆、柴胡、二湯の合方とも称すべき者なり。且つ黄芩を伍せずして黄連を伍する者、龔氏格別の趣意あること深く味ふべし。

 

治小児愛吃泥湯
 此の方は吃泥のみに限らず、小児喜びて壁土、瓦坯、線香、生米、茶葉などを食し、肚大青筋、鼻を搐し、爪を咬み、頭を揺がし、髪竪ちて穂を作す者、多くは脾虚して津液乏しく、胃熱去らざるの致す処、此の方を服して効あり。また此の症にて面黄、肌痩、四肢無力者は虫積に属するなり。大七気湯加檳榔を与ふべし。

 

治肝虚内熱湯
 此の方は沈香天麻湯の証にして内熱ある者に用ゆ。此の証の一等軽き者は抑肝散なり。また大人、類中など肝に属する者は此の方に宜し。若し陰分に渉る者は解語湯を用ゆべし。方意皆相類す。

 

治婦人骨蒸労熱云々方
 此の方は婦人骨蒸初起に与へて逍遙散より其の効捷かなり。骨蒸とは熱の内に強く骨を蒸す如き形状に見ゆる故に名づく。『外台秘要』に専ら出づ。『遵生八箋』に焼骨労と云ふ。同病なり。眼あたりの通称と見ゆ。六味丸、滋陰降火湯の症などは腎虚労傷より根ざす者なり。此の方は血鬱に因るものなり。

 

治小児風痰云々方
 此の方は麻杏甘石湯の症にして、風痰壅盛する者に宜し。馬脾風の初起に用ひて間間効あり。

 

治上熱下寒嘔吐方
 此の方は呉茱萸湯の変方にして、上熱を目的とす。吾が門、近年、此の方に本づきて、上熱下寒の者に直ちに呉茱萸湯に半夏黄連を加へて特効あり。

 

治皷脹一方
 此の方は敗血流れて水気に変ずる者を治す。但し産後敗血より出づる水気には東洋の琥珀湯なり。皷脹をなす者には此の方に宜し。

 

丁附理中湯
 此の方は虚寒の噦逆を治す。就中、下利後の噦逆に効あり。中焦を理する力ある故なり。また反胃の虚証、小児吐乳の脱候に運用すること有り、何れも中焦を目的とす。

 

治肺積右脇硬痛方
 此の方は右脇の硬痛を治す。若し飲を兼ぬる者は良枳湯に宜し。若し熱気ある者は小柴胡湯加青皮芍薬を与ふべし。以上三方、左脇の硬痛には効なし。左脇にある者は和肝飲、柴胡疎肝湯、四逆散呉茱萸茯苓、延年半夏湯の類選用すべし。大抵、病左右を論ぜざれども、脇痛は治方を異にせされば効なし。先輩、呉茱萸、良姜を以て左右を分つ、一理ありと云ふべし。

 

治血狂一方
 此の方は烏巣の『本邦老医伝』に出づ。血狂は大抵、三黄瀉心加辰砂、桃核承気湯にて治する者なれども、数日を経て壊症になりたる者は此の方に非ざれば効を収め難し。四物湯に桂枝、乾姜を加へたる処に妙処ありと知るべし。

 

治酒査鼻方
 此の方は三黄瀉心湯に加味したる者にて、総じて面部の病に効あり。酒査鼻に限るべからず。若し瘡膿ある者は、大弓黄湯に宜し。清上防風湯は二湯より病勢緩なる処に用ゆ。

 

治脹満方
 此の方は分消湯より簡便にして、脹満の初起に効あり。婦人には別して宜し。此の方より一等重きを分消湯とす。また一等進んで虚に属する者を行湿補気養血湯とするなり。

 

治喘一方(艮山)
 此の方は降気破飲を主とす。東郭の一方と緊慢の別あり。譬へば胸痺に橘皮枳実桂枝湯と茯苓杏仁甘草湯の別あるが如し。破飲の力を緊にせんと欲すれば此の方を用ゆべし。降気を専らにせんと欲せば後方を用ゆべし。

 

治打撲一方
 此の方は能く打撲、筋骨疼痛を治す。萍蓬、一名川骨、血分を和す。樸樕骨疼を去る。故に二味を以て主薬とす。本邦血分の薬、多く川骨を主とする者も亦此の意なり。日を経て愈えざる者、附子を加ふるは、此の品能く温経するが故なり。

 

治頭痛一方
 此の方は半夏瀉心湯の変方にして濁飲上逆の頭痛を治す。胃虚に属する者は半夏白朮天麻湯に宜し。心下痞、不大便なれば此の方にて一下すべし。

 

治喘一方(東郭)
 弁は上に見ゆ。発喘の時、大抵の薬、激して悪し。唯だ此の方と麻黄甘草湯とは激せずして効を収めやすし。

 

治吃逆一方
 此の方は橘皮竹筎湯の反対にて、裏寒の吃逆に用ひて効あり。胡椒、乾姜を多量にせざれば験なし。

 

治狂一方
 此の方は大承気湯の変方にして、発狂の劇症に用ひて宜し。和田東郭屡しば経験すと云ふ。病緩なる者は下気円を宜しとす。

 

治水腫皷脹方
 此の方は分消湯よりは一等重くして瘀血を兼ぬる者に用ゆ。然して行湿補気養血湯に比すれば稍や実する者なり。一婦人、血分腫にて『本事後集』の一方にて効なき者、此の方にて効を得たり。

 

治骨硬一方
 骨硬の方、衆治あれども、此の方簡便にして捷効あるに如かず。若し急なれば象牙の末を服するも佳なり。また柑皮を黒焼にして服すべし。

 

治癬一方
 此の方は竹中文輔の家方にて、疥癬、痛甚だしき者を治す。其の効十敗湯に優なること万々なり。

 

治頭瘡一方
 此の方は頭瘡のみならず凡べて上部頭面の発瘡に用ゆ。清上防風湯は清熱を主とし、此の方は解毒を主とするなり。

 

治肩背拘急方
 此の方は旧同僚中山摂州の伝にて、気鬱より肩背に拘急する者には即効あり。若し胸肋に痃癖ありて迫る者は延年半夏湯に宜し。唯だ肩背のみ張る者は葛根加芎黄か『千金』独活湯を用ゆべし。

 

沈香解毒湯
 此の方は五香連翹湯の軽き症に用ゆ。疔瘡は大抵十敗湯加菊花大黄に宜し。若し熱毒甚だしき者は黄連解毒湯加牛蒡子に宜し。下剤の宜しからぬ処が此の方の主なり。

 

治婦人癥瘕塊痛
 此の方は婦人脹満血蠱に属する者を治す。『霊枢』の所謂「蔵府の外に在りて蔵府を排して胸脇に郭し皮膚に脹る」と云ふ症には効なし。是れは分消湯などの之く所なれども難治の者なり。徐霊胎が膨膈、同じく極大の病なれども、膨は治すべしと云ふは、此の方及び鼈甲湯等の治する症を言ふなり。

 

理中湯
 此の方は理中丸を湯にする者にして、理は治なり、中は中焦、胃の気を指す。乃ち胃中虚冷し、水穀化せず、繚乱吐下して、譬へば線の乱るるが如きを治する故に、後世、中寒及び霍乱の套薬とす。余が門にては、太陰正治の方として、中焦虚寒より生ずる諸症に活用するなり。吐血、下血、崩漏、吐逆等を治す。皆此の意なり。

 

苓甘姜味辛夏仁湯
 此の方は小青竜湯の「心下有水気」と云ふ処より変方したる者にて、支飲の咳嗽に用ゆ。若し胃熱ありて上逆する者は後方を用ゆべし。

 

苓甘姜味辛夏仁黄湯
 弁は上に見ゆ。

 

竜胆湯
 此の方は一名竜鬚湯と云ふ。『巣源』にも見えて、晋以前より小児の套剤と見ゆ。吐乳、驚癇の初発、此の方に如くはなし。此の症にて心下急迫あれば大柴胡加羚羊角甘草効あり、其の一等軽き者を抑肝散とす。都て大人小児の癇症に活用すべし。

 

鯉魚湯
 此の方は婦人血気薄弱、或は年長じて懐孕し、子胞の為に養を奪はれ、身体虚して水気を生じ満身浮腫する者を主とす。若し血気虚せず水腫を為す者は『産宝』防已湯に宜し。また雛脚と名づけ、但足部に水気ある者は脚気の治法にて宜し。

 

竜骨湯
 此の方は失心風を主とす。其の人、健忘、心気鬱々として楽しまず、或は驚搐、不眠、時に独語し、或は痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯とするなり。

 

理中加二味湯
 此の方は元、霍乱の腹痛を治する方なれども、中気不足して腹痛拘急し、腫々の症を生ずる者を治す。理中湯は胃中を乾かす方なり。建中湯は胃中を湿す方なり。此の方は一燥一潤、其の中を得たり。

 

六君子湯
 此の方は理中湯の変方にして、中気を扶け胃を開くの効あり。故に老人脾胃虚弱にして痰あり飲食を思はず、或は大病後脾胃虚し食味なき者に用ゆ。陳皮、半夏、胸中胃口の停飲を推し開くこと一層力ありて、四君子湯に比すれば最も活用あり。『千金方』半夏湯の類数方あれども、此の方の平穏に如かず。

 

良姜湯
 此の方は久下利の症にして、断痢湯の如く上焦の不和にも非ず、真武湯の如く下焦の不足にも非ず、唯だ陳寒凝結して腹内★(「疞」の6画目の「一」なし)痛し、飲食これが為に化する能はざる者を治す。

 

理中安蚘湯
 此の方は胃中虚冷して吐蚘する者に宜し。若し胃中熱ありて吐蚘する者は清中安蚘湯なり。寒熱錯雑して吐蚘する者は烏梅丸なり。若し吐甚だしく、以上の諸薬下す能はざる者は、寒熱を論ぜず甘草粉蜜湯を与ふべし。また吐蚘して痛甚だしきものは椒梅湯大いに効あり。また蚘に泥まず、胃中寒飲ありて喜唾止まざる者、此の方を用ひて効あり。

 

竜胆瀉肝湯
 此の方は肝経湿熱と云ふが目的なれども、湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚だしく、或は目赤耳鳴の者は、小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。若し湿熱表に熏蒸して諸瘡を生ずる者は、九味柴胡湯に宜し。若し下部に流注して下疳、毒淋、陰蝕瘡を生ずる者は此の方の主なり。また主治に据りて嚢癰、便毒、懸癰及び婦人陰癃痒痛に用ゆ。皆熱に属する者に宜し。臭気の者は奇良を加ふべし。

 

理気平肝散
 此の方は柴胡疎肝湯に烏薬、木香を加へたる者にて、其の源は四逆散に出づ。二行通り拘急して、上、胸脇下に迫り、腹痛、下利、微咳等をなす者、四逆散なり。一等進んで上部に迫り、気逆、胸痛をなし鬱塞する者を柴胡疎肝湯とす。今一等進んで、身体強急、痙状の如く、神気鬱々楽しまず、物に感動しやすき者、此の方の主なり。

 

利膈湯
 此の方は名古屋玄医の工夫にて古梔附湯に半夏を加へたるものなり。其の説『医方問余』に悉し。膈噎の初起に用ひて効あり。此の方甚だ服し難きを以て、吾門にては甘草乾姜湯を合して用ゆるなり。『楊氏家蔵方』には仲景の梔子乾姜湯を二気散と名づけ膈噎に用ゆ、即ち此の方と同意なり。

 

竜騰飲
 此の方は三黄瀉心湯に川芎を加へたる者にて、気痞上逆する者に即効あり。血症には紅花を加ふるを佳とす。

 

良枳湯
 此の方は苓桂甘棗湯に半夏、良姜、枳実を加ふる者にて飲癖の痛あるものに用ゆ。苓桂甘棗湯の澼飲に効あるは辻山崧の経験なり。また呉茱萸と良姜と左右を分つことは、和田東郭精弁あれども、其の実は岡本の『燈下集』に出づと云ふ。考ふべし。

 

瘰癧加味
 此の方は陳修園の創意にて、加味逍遙散に合して用ゆ。余が門には症によりて小柴胡湯或は順気剤に合して用ゆるなり。

 

乙字湯
 此の方は原南陽の経験にて、諸痔疾、脱肛、痛楚甚だしく、或は前陰痒痛、心気不定の者を治す。南陽は柴胡、升麻を升提の意に用ひたれども、やはり湿熱清解の功に取るがよし。其の内、升麻は古より犀角の代用にして止血の効あり。此の方は甘草を多量にせざれば効なし。

 

黄芩湯
 此の方は少陽部位、下利の神方なり。後世の芍薬湯などと同日の論に非ず。但し同じ下利にても、柴胡は往来寒熱を主とす、此の方は腹痛を主とす。故に此の症に嘔気あれば柴胡を用ひずして後方を用ゆるなり。

 

黄芩加半夏生姜湯
 弁は上に見ゆ。

 

黄連湯
 此の方は胸中有熱、胃中有邪気と云ふが本文なれども、喩嘉言が「湿家下之舌上如胎者、丹田有熱、胸中有寒、仲景亦用此湯治之」の説に従ひて、舌上如胎の四字を一徴とすべし。此の症の胎の模様は、舌の奥ほど胎が厚くかかり、少し黄色を帯び、舌上潤ふて滑かなる胎の有るものは、假令腹痛なくとも、雑病乾嘔有りて諸治効なきに決して効あり。腹痛あれば猶更のことなり。また此の方は半夏瀉心湯の黄芩を桂枝に代へたる方なれども、其の効用大いに異なり、甘草乾姜桂枝人参と組みたる趣意は桂枝人参湯に近し。但し彼は恊熱利に用ひ、此れは上熱下寒に用ゆ。黄連の主薬たる所以なり。また按ずるに、此の桂枝は腹痛を主とす。即ち『千金』生地黄湯の桂枝と同旨なり。

 

黄連阿膠湯
 此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病、陰分に陥りて、上熱猶ほ去らず、心煩或は虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。また少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉止まざる者と痘瘡煩渇寐ざる者に活用して特効あり。

 

黄耆建中湯
 此の方は小建中湯の中気不足、腹裏拘急を主として、諸虚不足を帯ぶる故、黄耆を加ふるなり。仲景の黄耆は大抵、表托、止汗、祛水の用とす。此の方も外体の不足を目的とする者と知るべし。此の方は虚労の症、腹皮背に貼し、熱なく咳する者に用ゆと雖も、或は微熱ある者、或は汗出づる者、汗無き者、倶に用ゆべし。『外台』黄耆湯の二方、主治薬味各少し異なりと雖も亦此の方に隷属す。

 

黄土湯
 此の方は下血陰分に陥る者、収濇するの意あり。先便後血に拘らず脈緊を以て用ゆるが此の方の目的なり。吐血衂血を治するも此の意にて用ゆべし。また崩漏緊脈に効あり、また傷寒、熱血分を侵し、暴に下血する者、桃核承気湯、犀角地黄湯等を与へて血止まず、陰位に陥り危篤なる者、此の方を与へて往々奇験を得たり。

 

黄耆茯苓湯
 此の方は即ち後世の十全大補湯なれども、『千金』が旧き故、古に本づくなり。八珍湯は気血両虚を治する方なり。右に黄耆、桂枝を加ふる者は、黄耆は黄耆建中湯の如く諸不足を目的とす。故に『済生』の主治に虚労不足、五労七傷を治すと云ふ。また瘡瘍に因りて気血倶に虚し羸痩する者、此の方の之く処あり。流注瘰癧等の強く虚するに用ゆ。此の方と人参養栄湯に桂枝を伍する者は八味丸の意にて、桂枝にて地黄の濡滞を揮発するなり。先考済庵翁曰く、薜己、諸病証治の末に此の方と補中益気と地黄丸、四君子湯の加減を載する者は、万病共に気血を回復するを主とするの意なりと。此の旨にて運用すべし。

 

黄連橘皮湯
 此の方は時毒の一証にて、頭瘟になれば柴胡桔石、牛蒡芩連の之く所なれども、其の邪、肌膚を侵して赤斑を発し、心煩下利する者に用ひて効あり。其の一等劇しき者を『六書』の三黄石膏湯とす。また其の邪、陰分に陥り内攻せんと欲する者は『温疫論』の托裏挙斑湯とす。此の三方にて大抵時毒の斑は治するなり。

 

黄連解毒湯
 此の方は胸中熱邪を清解するの聖剤なり。一名倉公の火剤とす。其の目的は梔子豉湯の証にして熱勢劇しき者に用ゆ。苦味に堪へかぬる者は泡剤にして与ふべし。大熱有りて下利洞泄する者、或は痧病等の熱毒深く洞下する者を治す。また狗猫鼠などの毒を解す。また喜笑不止者を治す。是れも亦心中懊憹のなす所なればなり。又可氏は此の方の弊を痛く論ずれども実は其の妙用を知らぬ者なり。また酒毒を解するに妙なり。『外台』の文を熟読すべし。また『外台』に黄柏を去り大黄を加へて大黄湯と名づく。吉益東洞は其の方を用ひし由、証に依りて加減すべし。

 

和解湯
 此の方は傷風中寒などの軽邪に用ひて効あり。和気飲は此の方の一等重き処に用ゆ。

 

和気飲
 弁は上に見ゆ。

 

黄耆湯
 此の方は浄府散と表裏の方にて、浄府は血気に少しも虚なく、心下或は両肋下、或は右、或は左に凝りありて攣急あり、腹堅くして渇をなし、或は下痢をなし、或は下痢せずとも、発熱つよく脈も盛んなるを標的とす。此の方は既に日数を経て血気虚耗する故、発熱の模様も骨蒸と云ふて内よりむし立つる如くなり。且つ盗汗出づるなり。此の蒸熱、盗汗と五心煩熱とを、此の方の標的とすべし。故に小児疳労の虚証にて、後世の所謂哺露丁奚などと云ふ処に用ゆるなり。また婦人の乾血労、疳より来たる者に活用して奇効あり。是れ旧同僚小島学古の治験なり。

 

和肝飲
 此の方は柴胡疎肝湯同種の薬なれども、脇下の硬痛には此の方を優とす。其の中、左脇下の痛に宜し。右に在る者は小柴胡湯に芍薬青皮、或は良枳湯の類、反て効あり。

 

和中飲
 此の方は関本伯伝の家方にて傷食の套剤なり。夏月は傷食より霍乱を為す者最も多きを以て、俗常に暑中に用ゆる故に中暑の方に混ず。中暑伏熱を治するには『局方』の枇杷葉散を佳とす。今、俗間所用の枇杷葉湯は此の方の藿香、丁香を去り、香薷、扁豆を加ふる方なり。

 

葛根湯
 此の方、外感の項背強急に用ゆることは五尺の童子も知ることなれども、古方の妙用種々ありて思議すべからず。譬へば積年肩背に凝結ありて其の痛時々心下にさしこむ者、此の方にて一汗すれば忘るるが如し。また独活、地黄を加へて産後柔中風を治し、また蒼朮、附子を加へて肩痛、臂痛を治し、川芎、大黄を加へて脳漏及び眼耳痛を治し、荊芥、大黄を加へて疳瘡、黴毒を治するが如き、其の効用僂指しがたし。宛かも論中、合病下利に用ひ、痙病に用ゆるが如し。

 

葛根加半夏湯
 此の方は合病の嘔を治するのみならず、平素停飲ありて本方を服し難く、或は酒客外感などに、反て効を得るなり。其の活用は上に準ずべし。

 

葛根黄芩黄連湯
 此の方は表邪陥下の下利に効あり。尾州の医師は小児早手の下利に用ひて効ありと云ふ。余も小児の下利に多く経験せり。此の方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらず、古人酒客の表証に用ゆるは活用なり。紅花、石膏を加へて口瘡を治するも同じ。

 

甘草瀉心湯
 此の方は胃中不和の下利を主とす。故に穀不化、雷鳴下利が目的なり。若し穀不化して雷鳴なく下利する者ならば、理中、四逆の之く処なり。『外台』水穀不化に作りて清穀と文を異にす。従ふべし。また産後の口糜瀉に用ひ奇効あり。此等の苓連は反て健胃の効ありと云ふべし。

 

甘草乾姜湯
 此の方は簡にして其の用広し。傷寒の煩躁吐逆に用ひ、肺痿の吐涎沫に用ひ、傷胃の吐血に用ひ、また虚候の喘息に此の方にて黒錫丹を送下す。凡そ肺痿の冷症は、其の人、肺中冷、気虚し、津液を温和すること能はず、津液聚りて涎沫に化す。故に唾多く出づ。然れども熱症の者の唾凝りて重濁なるが如きに非ず。また咳なく咽渇せず、彼は必遺尿小便数なり。此の症に此の方を与へて甚だ奇効あり。また病人、此の方を服することを嫌ひ、欬なく只多く涎沫を吐して、唾に非ざる者は桂枝去芍薬加皀莢湯を用ひて奇効あり。また煩躁なくても但吐逆して苦味の薬用ひ難き者、此の方を用ひて弛むるときは速効あり。

 

甘草湯(傷寒論)
 此の方も亦其の用広し。第一咽痛を治し、また諸薬吐して納まらざる者を治し、また薬毒を解し、また蒸薬にして脱肛の痛楚を治し、末にして貼ずれば毒螫、竹木刺等を治す。

 

乾姜黄連黄芩人参湯
 此の方は膈熱ありて吐逆食を受けざる者を治す。半夏、生姜、諸嘔吐を止どむるの薬を与へて寸効なき者に特効あり。また禁口痢に用ゆ。

 

甘姜苓朮湯
 此の方は一名腎着湯と云ひて、下部腰間の水気に用ひて効あり。婦人久年、腰冷帯下等ある者、紅花を加へて与ふれば更に佳なり。

 

甘遂半夏湯
 此の方は利して反て快と心下堅満が目的なり。脈は伏して当にならぬものなり。一体心下の留飲を去るの主方なれども、特り留飲のみに非ず、支飲及び脚気等の気急喘ある者に用ひて緩むること妙なり。控涎丹も元来此の方の軽き処にゆく者なり。また此の方、蜜を加へざれば反て激して功なし。二宮桃亭壮年の時、蜜を加へずして大敗を取り、東洞の督責を受けしこと有り、忽諸すべからず。

 

乾姜人参半夏丸
 此の方は本、悪阻を治する丸なれども、今、料となして、諸嘔吐止まず、胃気虚する者に用ひて捷効あり。

 

甘草粉蜜湯
 此の方は蚘虫の吐涎を治するのみならず、吐涎なくとも心腹痛甚だしき者に用ゆ。故に烏梅丸、鷓胡菜湯などの剤を投じて反て激痛する者、此の方を与へて弛むるときは必ず腹痛止むなり。凡べて虫積痛を治するに薬の苦味を嫌ひ、強いて与ふれば嘔噦する者、此の方に宜し。論中、毒薬不止の四字、深く味はふべし。故にまた衆病諸薬を服して嘔逆止まざる者に効あり。一婦人、傷寒熱甚だしく嘔逆止まず、小柴胡を用ひて解せず、一医、水逆として五苓散を与へ益ます劇し。此の方を与へて嘔速やかに差ゆ。即ち『玉函』単甘草湯の意にして更に妙なり。

 

甘麦大棗湯
 此の方は婦人蔵躁を主とする薬なれども、凡べて右の腋下臍傍の辺に拘攣や結塊のある処へ用ゆると効あるものなり。また小児啼泣止まざる者に用ひて速効あり。また大人の癇に用ゆること有り。「病急者食甘緩之」の意を旨とすべし。先哲は夜啼客忤、左に拘攣する者を柴胡とし、右に拘攣する者を此の方とすれども、泥むべからず。客忤は大抵此の方にて治するなり。

 

陷胸湯
 此の方は大陷胸湯と小陷胸湯との間の薬なり。故に一医、中陷胸湯と名づく。結積、胸中或は心下にありて拒痛する者を治す。此の飲食不消は胸中に邪ある故なり。中脘に満などあれば益ます宜し。また小児食積より胸中に痰喘壅盛する者を治す。若し嘔気ある者は、半夏、甘草を加ふべし。

 

甘竹筎湯
 此の方は竹皮大丸料の一等軽き処に用ゆ。産後煩熱ありて下利し石膏など用ひがたき処に宜し。他病にても内虚煩熱の四字を目的として用ゆれば中らざることなし。甘淡音通ず。淡竹なり。

 

高良姜湯
 此の方は心腹絞痛を主とす。故に只腹痛のみにては効なし。少しにても心にかかるを目的とす。且つ痛みも劇しき程よろしきなり。是を以て大小建中の治すること能はざる処に奇中す。良姜は温中の効あり。安中散に伍するは是れと同じ。乾姜に比すれば其の力一等優なり。また厚朴と伍して下利を止どむ。故に虚寒下利腹痛の症、真武などにて効なき者を治す。有持氏は疝痢の腹に満ある者を目的として用ゆ。腹満なき者は当帰四逆、真武などの之く処とす。また『奇効良方』の良姜湯は此の方の証にして、一等腹に凝結ありて下利不食するものなり。

 

加味理中湯
 此の方は理中湯の症にして、咳嗽、吐痰、或は煩渇微腫する者を治す。『千金』に理中湯の加減種々あれども、此の方を尤も古に近しとす

 

解急蜀椒湯
 此の方は大建中と附子粳米湯とを合したる方にて、其の症も二方に近く、寒疝心腹に迫りて切痛する者を主とす。烏頭桂枝湯と其の証髣髴たれども、上下の分あり。且つ烏頭桂枝湯は腹中絞痛、拘急転側を得ざるが目的とす。此の方は心腹痛、水気有りて腹鳴するを目的とす。また寒疝、腹痛、腹満、雷鳴して嘔吐する附子粳米湯の之く処あり。然れども此れは彼より其の症つよし。また此の方は附子粳米湯の症にして痛心胸に連らなる者を主とす。此の方は亦蚘痛を治す。

 

楽令建中湯
 此の方は即ち『千金』黄耆湯にて『金匱』建中諸類を総括する剤なり。虚労寒熱あるものの套方とす。但し肺痿寒熱ある者には効なし。肺痿なれば『聖済』人参養栄湯を用ゆべし。

 

香蘇散
 此の方は気剤の中にても揮発の効あり。故に男女共気滞にて、胸中心下痞塞し、黙々として飲食を欲せず、動作に懶く、胸下苦満する故、大小柴胡など用ゆれども反て激する者、或は鳩尾にてきびしく痛み、昼夜悶乱して、建中、瀉心の類を用ゆれども寸効なき者に与へて、意外の効を奏す。昔西京に一婦人あり、心腹痛を患ふ。諸医手を尽くして愈すこと能はず。一老医此の方を用ひ、三貼にして霍然たり。其の昔征韓の役、清正の医師の此の方にて兵卒を療せしも、気鬱を揮発せしが故なり。但し『局方』の主治に泥むべからず。また蘇葉は能く食積を解す。故に食毒、魚毒より来たる腹痛または喘息に紫蘇を多量に用ゆれば即効あり。

 

甘露飲
 此の方は脾胃湿熱と云ふが目的にて、湿熱より来たる口歯の諸瘡に用ひて効あり。若し上焦膈熱より来たる口歯の病は加減涼膈散に非ざれば効なし。此の方は、調胃承気や瀉心加石膏などを用ゆる程の邪熱にもいたらず、血虚を帯びて緩なる処に用ゆるなり。また黄疸腹満に此の方を用ゆるは、茵蔯蒿湯等を用ひて攻下の後、湿熱未だ全く除かざる者に宜し。房労には更に効なし。

 

解労散
 此の方は四逆散の変方にて所謂痃癖労を為す者に効あり。また骨蒸の初起に用ゆべし。真の虚労には効なし。また四逆散の症にして腹中に堅塊ある者用ひて特験あり。

 

乾地黄湯
 此の方は大柴胡湯の変方にして、熱血分に沈淪する者に効あり。故に余門、熱入血室を治する正面の者を小柴胡加地黄とし、変面の者を此の方の治とするなり。また傷寒遺熱を治するに、参胡芍薬湯を慢治とし、此の方を緊治とするなり。

 

香芎湯
 此の方は『中蔵経』の香芎散に本づきたれども、張子和の工夫一着高くして偏頭痛には奇効あり。若し此の症にして肩背強急して痛む者は『本事方』の釣藤散を佳とす。

 

加味四物湯(正伝)
 此の方は滋血、生津、清熱の三功を兼ねて諸痿を治す。凡そ痿証の初起は『秘方集験』の一方に宜し。若し凝固にして動き難き者は痿躄湯を用ゆべし。また筋攣甚だしき者は二角湯を用ゆること有り。若し壊症になり遂に振はざる者は此の方に宜し。蓋し此の方は大防風湯とは陰陽の別ありて、彼は専ら下部を主とし、此の方は専ら上焦の津液を滋して下部に及ぼす。其の手段尤も妙なり。

 

香砂六君子湯
 此の方は後世にて尊奉する剤なれども、香砂の能は開胃の手段にて別に奇効はなし。但し平胃散に加ふるときは消食の力を速やかにし、六君子湯に加ふるときは開胃の力を増すと心得べし。また老人、虚人、食後になると至りて眠くなり、頭も重く、手足倦怠、気塞がる者、此の方に宜し。若し至りて重き者、半夏白朮天麻湯に宜し。

 

加味逍遙散
 此の方は清熱を主として上部の血症に効あり。故に逍遙散の症にして、頭痛面熱、肩背強ばり、鼻衂などあるに佳なり。また下部の湿熱を解す。婦人の淋疾、竜胆瀉肝湯などより一等虚候の者に用ひて効あり。凡べて此の方の症にして寒熱甚だしく胸脇に迫り、嘔気等ある者は、小柴胡湯に梔丹を加ふべし。また男子婦人偏身に疥癬の如き者を発し甚だ痒く、諸治効なき者、此の方に四物湯を合して験あり。華岡氏は此の方に地骨皮、荊芥を加へて鵞掌風に用ゆ。また老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通ぜぬと云ふ者、何病に限らず此の方を用ゆれば大便快通して諸病も治すと云ふ。即ち小柴胡湯を用ひて津液通ずると同旨なり。

 

加味犀角地黄湯
 此の方は即ち『千金』犀角地黄湯方後の加減に本づきたる者にして、諸失血に用ひ易し。方後に「若吐紫黒血塊胸中気塞加桃将」とあれども、此の如き症には桃核承気湯を用ゆるを優とす。辻崧翁は犀角を升麻に代へて治血の套剤とす。亦『千金』に拠る者なり。

 

加減凉膈散
 此の方は凉膈散よりは用ひ易く、口舌を治するのみならず諸病に活用すべし。古人凉膈散を調胃承気の変方とすれども、其の方意は膈熱を主として瀉心湯諸類に近し。故に凉膈散の一等劇しき処へ三黄加芒硝湯を用ゆるなり。

 

香朴湯
 此の方は寒気腹満を治す。中寒、或は霍乱吐瀉の後、間此の症あり。大抵は厚朴生姜甘草半夏人参湯の一等重き者と知るべし。

 

行湿補気養血湯
 此の方は皷脹の末症に用ゆるなり。弁、前の治皷脹一方条下に見ゆ。

 

加減逍遙散
 此の方は婦人血熱固着して骨蒸状に似たる者効あり。就中小便不利、或は淋瀝する者に宜し。

 

加味升陽除湿湯
 此の方は桃花湯、白頭翁湯の後重にも非ず、また大柴胡湯、四逆散の裏急にも非ず。一種湿熱より来たる処の類痢にて裏急後重する者に効あり。後世、痢疾の初起後重甚だしきにただの升陽除湿湯を用ゆれども効なし。此の場合は葛根湯にて発汗すれば後重ゆるむ者なり。

 

加味四君子湯
 此の方は下血止まず、面色萎黄、短気心忪する者を治す。四君子湯と理中湯は下血虚候の者に効あり。肛門潰爛して膿血を出す者は直ちに四君子湯に黄耆、槐角を加へて宜し。友松子の経験なり。また痛ある者は四君子に黄耆建中湯を合し、白扁豆、砂人を加ふるに宜し。即ち朱氏二妙散是れなり。

 

加味胃苓湯
 此の方は水穀不化より来たる水気治す。傷寒差後に用ゆることあり。また痢後風には別して効あり。

 

行気香蘇散
 此の方は香蘇散の症にして、滞食を兼ね、邪気内壅して解せざる者に効あり。往年金局吏原健助なる者、平素疝塊あり、飲食これが為化する能はず、時々外感して邪気遷延し、医、諸外感の薬を投じて解せず、余此の方を与へて愈ゆ。後外感毎に此の方にて百中す。後世の方策も亦侮るべからず。

 

加味小陷胸湯
 此の方は嘈雑に奇効あり。『外台』小品、半夏茯苓湯に心下汪洋嘈煩の語あり。『本事方』嘈雑に作る。これを始とす。胸のやけることなり。大抵は安中散にて治すれども劇しき者は此の方と呉茱萸湯に非ざれば効なし。

 

加味八脈散
 此の方は鼻淵脳漏の如く臭水を流すに非ず、唯だ鼻に一種の悪臭を覚えて如何ともし難き者を治す。また鼻塞香臭を通ぜざる者に用ゆることあり。

 

加味小柴胡湯
 此の方は一老医の伝にて、夏秋間の傷寒恊熱痢に経験を取りし方なれども、余は毎に滑石を去りて、人参飲子の邪勢一等重く煩熱心悶する者を治す。また竹筎温胆湯の症にして往来寒熱する者を治す。

 

甘連湯
 此の方は専ら胎毒を去るを主とす。世まくりと称する者数方あれども此の方を優とす。連翹を加へて吐乳を治し、銭連草を加へて驚癇を治し、竹葉を加へて胎毒痛を治するが如き、活用尤も広し。

 

甘草黄連石膏湯
 此の方、出処詳らかならざれども『本事方』に石赤散と云ひて黄連石膏の二味を末とし、甘草煎汁にて送下す方あり。東洞此の方の意にて用ゆと云ふ。今、方家、参連白虎湯の之く処の驚癇に用ゆ。また風引湯の劇しき症に用ゆ。また骨の痛に用ゆ。小児二三歳に至るまで骨格不堅、諸薬無効に此の方にて治したり。此の方は凡べて煩熱渇を主として用ゆべし。余此の方の症にして吐逆する者に小半夏加茯苓湯を合して効を奏す。

 

甘草湯(腹証奇覧)
 此の方癲癇の急迫を緩むるに効あり。柴胡加竜骨牡蛎湯、紫円、或は沈香天麻湯などを投じ、反て激動し苦悶止まざる者、此の方を用ゆるときは一時の効を奏するなり。

 

加味四物湯(福井)
 此の方能く黴毒の壮熱を解す。蓋し黴毒の熱を解する者、小柴胡加竜胆胡黄連に如く者なし。若し其の人血燥して熱解しがたきものは此の方に宜し。また黴毒の熱ある者、汞剤を投ずべからず。血燥には土茯苓を用ゆべからず。楓亭よく此の旨を得たり。

 

咳奇方
 此の方は東郭の経験にて、肺痿の咳嗽を治す。若し熱に属する者は『聖済』の人参養栄湯に宜し。此の方と『景岳』の四陰煎は伯仲の方となすべし。

 

甲字湯
 此の方は桂苓丸の症にて激する者に適当す。若し塊癖動かざる者は鼈甲を加ふべし。

 

香葛湯
 此の方は暑熱感冒に効あり。其の他感冒桂麻の用ひ難き者、斟酌して与ふべし。

 

加味寧癇湯
 此の方は予が家の経験にして、沈香降気湯の症にして一等衝逆甚だしき者を寧癇湯とす。寧癇湯の症にして一等衝逆劇しく胸中満悶するを此の方とす。橘皮、茯苓を加ふる所以は『外台』茯苓飲と同じく胸中を主とするなり。

 

薏苡附子散料
 此の方は散にて瞑眩に堪へがたき故、料とするなり。胸痺急劇の症を治す。また腸癰、急に脱候を現はす者にも用ゆべし。

 

抑肝散
 此の方は四逆散の変方にて、凡べて肝部に属し、筋脈強急する者を治す。四逆散は、腹中任脈通り拘急して胸脇の下に衝く者を主とす。此の方は左腹拘急よりして四肢筋脈に攣急する者を主とす。此の方を大人半身不遂に用ゆるは東郭の経験なり。半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは、心下より任脈通り攣急動悸あり、心下に気聚りて痞する気味あり、医、手を以て按ぜば左のみ見えねども、病人に問へば必ず痞と云ふ。また左脇下柔なれども少筋急ある症ならば怒気はなしやと問ふべし。若し怒気あらば此の方効なしと云ふことなし。また逍遙散と此の方とは二味を異にして、其の効用同じからず。此処に着目して用ゆべし。

 

薏苡仁湯(明医指掌)
 此の方は麻黄加朮湯、麻黄杏人薏苡甘草湯の一等重き処へ用ゆるなり。其の他、桂芍薬知母湯の症にして附子の応ぜざる者に用ひて効あり。

 

抑肝扶脾散
 此の方は肝実脾虚を目的とす。其の人、気宇鬱塞、飲食進まず、日を経て羸痩し、俗に所謂疳労状をなす者に効あり。小児なれば浄府散の虚候を帯ぶる者に宜し。

 

薏苡仁湯(正宗)
 弁は腸癰湯の条に詳らかなり。

 

抑気散
 此の方は気剤の冠とす。正気天香湯、大烏沈散は無形の気を散ずるを主とす。此の方は胸膈痰飲窒碍を主とす。若し腹裏拘急を主とするときは柴胡疏肝湯に非ざれば効なし。

 

大青竜湯
 此の方、発汗峻発の剤は勿論にして、其の他、溢飲、或は肺脹、其の脈緊大、表症盛んなる者に用ひて効あり。また天行赤眼、或は風眼の初起、此の方に車前子を加へて大発汗するときは奇効あり。蓋し風眼は目の疫熱なり。故に峻発に非ざれば効なし。方位は麻黄湯の一等重きを此の方とするなり。

 

大柴胡湯
 此の方は少陽の極地に用ゆるは勿論にして、心下急、鬱々微煩と云ふを目的として、世の所謂癇症の鬱塞に用ゆるときは非常の効を奏す。恵美三伯は此の症の一等重きに香附子、甘草を加ふ。高階枳園は大棗、大黄を去り、羚羊角、釣藤、甘草を加ふ。何れも癇症の主薬とす。方今、半身不遂して不語するもの、世医中風を以て目すれども、肝積、経隧を塞ぎ、血気の順行あしく、遂に不遂を為すなり。肝実に属する者、此の方に宜し。尤も左脇より心下へかけて凝り、或は左脇の筋脈拘攣し、これを按じて痛み、大便秘し、喜怒等の証を目的とすべし。和田家の口訣に、男婦共に櫛けづる度に髪ぬけ年不相応に髪の少なきは肝火のなす処なり、此の方大いに効ありと云ふ。また痢疾初起、発熱、心下痞して嘔吐ある症、早く此の方に目を付くべし。また小児疳労にて毒より来たる者に、此の方加当帰を用ひて其の勢を挫き、其の跡は小柴胡、小建中の類にて調理するなり。其の他、茵蔯を加へて、発黄、心下痞鞕の者を治し、鷓鴣菜を加へて蚘虫熱嘔を治するの類、運用最も広し。

 

桃核承気湯
 此の方は傷寒蓄血、少腹急結を治するは勿論にして、諸血証に運用すべし。譬へば吐血、衂血止まざるが如き、此の方を用ひざれば効なし。また走馬疳、齗疽、出血止まざる者、此の方に非ざれば治すること能はず。癰疽及び痘瘡、紫黒色にして内陥せんと欲する者、此の方にて快下するときは思ひの外揮発する者なり。また婦人、陰門腫痛或は血淋に効あり。若し産後悪露下ること少く腹痛者と、胞衣下らずして日を経る者とは、此の方を煮上げて清酒を入れ、飲み、あんばい宜しくして、徐々に与ふべし。また打撲、経閉等、瘀血の腰痛に用ゆ。瘀血の目的は必ず昼軽くして夜重き者なり。痛風抔にても昼軽くして夜痛みはげしきは血による者なり。また数年歯痛止まざる者、此の方を丸として服すれば験あり。其の他、荊芥を加へて痙病及び発狂を治し、附子を加へて血瀝腰痛及び月信痛を治するが如き、其の効挙げて数へがたし。

 

大陷胸湯
 此の方は熱実結胸の主薬とす。其の他、胃痛劇しき者に特効あり。一士人、胸背徹痛、昼夜苦楚忍ぶべからず、百治効なく自ら死せんとす。大陷胸湯を服する三貼にして霍然たり。また脚気衝心、昏悶絶えんと欲する者、此の方を服して蘇生せり。凡そ医者死地に臨んでまた此の手段無くんばあるべからず。また留飲に因りて肩背に凝る者に速効あり。是れよりして小児の亀背などにも此の方を用ゆることあり。其の軽き者は大陷胸丸に宜し。また小児亀胸にならんと欲するときは此の方を早く用ゆれば効を収むるものなり。

 

大黄黄連瀉心湯
 此の方は上焦瀉下の剤にして、其の用尤も広し。『局方』三黄湯の主治、熟読すべし。但し気痞と云ふが目的なり。

 

大承気湯
 此の方は胃実を治するが主剤なれども、承気は即ち順気の意にて、気の凝結甚だしき者に活用すること有り。当帰を加へて発狂を治し、乳香を加へて痔痛を治し、人参を加へて胃気を皷舞し、また四逆湯を合して温下するが如き、妙用変化窮りなしとす。他は『本論』及び呉又可氏の説に拠りて運用すべし。

 

桃花湯(傷寒論)
 此の方は『千金』には丸として用ゆ。至極便利なり。膿血下利、此の方に非ざれば治せず。蓋し後重あれば此の方の主にあらず。白頭翁湯を用ゆべし。若し後重して大腹痛あるに用ゆれば害を為す者なり。また此の方、赤石脂禹余糧湯に対すれば、少し手前にて上にかかりてあり。病下焦に専らにして腸滑とも称すべきは赤石脂禹余糧湯に宜し。

 

当帰四逆湯(傷寒論)
 此の方は厥陰表寒の厥冷を治する薬なれども、元桂枝湯の変方なれば、桂枝湯の症にして血分の閉塞する者に用ひて効あり。故に先哲は、厥陰病のみに非ず、寒熱勝復して手足冷に用ゆ可しと云ふ。また加呉茱萸生姜は後世の所謂疝積の套剤となすべし。陰★(やまいだれに頽)の軽きは此の方にて治するなり。若し重き者は禹攻散を兼用すべし。

 

当帰四逆加呉茱萸生姜湯
 弁は前に見ゆ。

 

大建中湯(金匱)
 此の方は小建中湯と方意大いに異なれども、膠飴一味あるを以て建中の意明了なり。寒気の腹痛を治する。此の方に如くはなし。蓋し、大腹痛にして胸にかかり嘔あるか、腹中塊の如く凝結するが目的なり。故に諸積痛の甚だしくして、下から上へむくむくと持ち上ぐる如き者に用ひて妙効あり。解急蜀椒湯は此の方の一等重き者なり。また小建中湯の症にして一等衰弱、腹裏拘急する者は『千金』大建中湯を宜しとす。

 

大黄附子湯
 此の方は偏痛を主とす。左にても右にても拘ることなし。胸下も広く取りて胸助より腰までも痛に用ひて宜し。但し烏頭桂枝湯は腹中の中央に在りて夫より片腹に及ぶものなり。此の方は脇下痛より他に引きはるなり。蓋し大黄附子と伍する者、皆尋常の症にあらず、附子瀉心湯、温脾湯の如きも亦然り。凡そ頑固偏僻抜き難きものは皆陰陽両端に渉る故に非常の伍を為す。附子、石膏と伍するも亦然りとす。

 

大半夏湯
 此の方、嘔吐に用ゆるときは心下痞鞕が目的なり。先に小半夏湯を与へて差えざる者に此の方を与ふべし。大小柴胡湯、大小承気湯の例の如し。蓋し小半夏湯に比すれば蜜を伍するに深意あり。膈咽の間、交通の気、降るを得ずして嘔逆する者、蜜の膩潤を以て融和し、半夏、人参の力をして徐々に胃中に斡旋せしむ。古方の妙と云ふべし。故に此の方能く膈噎を治す。膈噎の症は、心下逆満して、つふつふと枯燥してあり、此の方必ず効あり。若し枯燥せざる者は水飲にてなす膈にて効なし。また胃反、膈噎ともに食にむせび気力乏しきに、此の方に羚羊角を加へて用ゆ。羚羊角の能は『外台』羚羊角湯の条に弁ず。

 

大黄牡丹湯
 此の方は腸癰膿潰以前に用ゆる薬なれども、其の方、桃核承気湯と相似たり。故に先輩、瘀血衝逆に運用す。凡そ桃核承気の証にして小便不利する者は、此の方に宜し。其の他、内痔、毒淋、便毒に用ひて効あり。皆排血利尿の効あるが故なり。また痢病、魚脳の如きを下す者、此の方を用ゆれば効を奏す。若し虚する者、駐車丸の類に宜し。凡そ痢疾久しく痊えざる者は腸胃腐爛して赤白を下す者と見做すことは後藤艮山の発明にして、奥村良筑、其の説に本づき、陽症には此の方を用ひ、陰症には薏苡附子敗醤散を用ひて、手際よく治すと云ふ。古今未発の見と云ふべし。

 

大黄甘草湯
 此の方は所謂南熏を求めんと欲せば必ず先づ北牖を開くの意にて、胃中の壅閉を大便に導きて上逆の嘔吐を止どむるなり。妊娠悪阻、不大便者も亦効あり。同じ理なり。丹渓、小便不通を治するに、吐法を用ひて肺気を開提し、上竅通じて下竅も亦通ぜしむ。此の方と法は異なれども理は即ち同じきなり。其の他一切の嘔吐、腸胃の熱に属する者、皆用ゆべし。胃熱を弁ぜんと欲せば、大便秘結、或は食已即吐、或は手足心熱、或は目黄赤、或は上気、頭痛せば胃熱と知るべし。上冲の症を目的として用ゆれば大なる誤はなし。虚症にも大便久しく燥結する者、此の方を用ゆ。是れ権道なり。必ず柱に膠すべからず。讃州の御池平作は此の方を丸として多く用ゆ。即今の大甘丸。中川修亭は調胃承気湯を丸として能く吐水病を治すと云ふ。皆同意なり。

 

当帰芍薬散
 此の方は吉益南涯得意にて諸病に活用す。其の治験『続建殊録』に悉し。全体は婦人の腹中★(「疞」の6画目の「一」なし)痛を治するが本なれども、和血に利水を兼ねたる方故、建中湯の症に水気を兼ぬる者か、逍遙散の症に痛を帯ぶる者か、何れにも広く用ゆべし。華岡青洲は呉茱萸を加へて多く用ひられたり。また胎動腹痛に此の方は★(「疞」の6画目の「一」なし)痛とあり、芎帰膠艾湯には只腹痛とありて軽きに似たれども、爾らず。此の方は痛甚だしくして大腹にあるなり。膠艾湯は小腹にあって腰にかかる故、早く治せざれば将に堕胎の兆となるなり。二湯の分を能く弁別して用ゆべし。

 

当帰建中湯
 弁、小建中湯の条下に詳らかにす。方後、地黄、阿膠を加ふる者、去血過多の症に用ひて十補湯などよりは確当す。故に余、上部の失血過多に『千金』の肺傷湯を用ひ、下部の失血過多に此の方を用ひて、内補湯と名づく。

 

大黄甘遂湯
 此の方は水血二物を去るを主とすれども、水気が重になりて血は客なり。徴難と云ふ者は一向不通に非ず。此の症に多くある者なり。然し婦人、急に小腹満結、小便不利する者に速効あり。また男子、疝にて小便閉塞、少腹満痛する者、此の方尤も験あり。

 

大建中湯(千金)
 弁、前『金匱』大建中湯の条に見ゆ。同名にて遠志、竜骨の入る方は、桂枝加竜牡湯の症一等重く、精気虚乏の者に与へて効を得しことあり。

 

当帰湯
 此の方は心腹冷気絞痛、肩背へ徹して痛む者を治す。津田玄仙は此の方より枳縮二陳湯が効有りと言へども、枳縮二陳は胸膈に停痰ありて肩背へこり痛む者に宜し。此の方は腹中に拘急ありて痛み、それより肩背へ徹して強痛する者に宜し。方位の分別混ずべからず。

 

大三五七散
 此の方は陽虚風寒入脳の六字が主意にて、一夜の内に口眼喎斜を発し、他に患ふる処なく、神思少しも変らぬ者に効あり。医、大抵中風の一症として治風の薬を与ふれども効なし。是れは一種の頭風なり。重き者は時々紫円にて下すべし。また外に苦処なく唯だ耳聾する者に効あり。若し熱有りて両脇へ拘急し、耳聞へ難き者は小柴胡湯の行く処なり。諸病、耳鳴り或は頭痛して足冷ゆる者に用ひて妙効あり。

 

大膠艾湯
 此の方は芎帰膠艾湯と主治同じ。蓋し乾姜を加ふる処に深意あり。地黄、乾姜と伍するときは、血分のはたらき一層強くなるなり。咳奇方、治血狂一方も同旨なり。

 

断痢湯
 此の方は半夏瀉心湯の変方にして、本心下に水飲あり、既に陰位に陥りて下利止まざる者を治す。また小児疳利の脱症に用ひて効あり。疳利は黄連、附子と伍せざれば効を奏せず。また痢病諸薬効を奏せず、利止み難き者、此の方を用ひて験あり。

 

唐侍中一方
 此の方は脚気衝心の主方なれども虚症には効なし。大抵胸満気急し、其の気上衝せんと欲する者に効あり。若し此の方を用ひて其の腫、益ます盛んになりてくるは木茱湯を兼用すべし。実する者、有持桂里は大黄を加ふ。其の効速やかなりと云ふ。若し偏身洪腫して心下苦悶する者、辻山崧は越婢湯を合して用ゆ。余は朮苓を加へて双解散と名づく。『朱氏集験』には桔梗を加へて鶏鳴散と名づけ、脚気の套薬とす。

 

当帰鶴虱散
 此の方は蚘虫にて心痛止まざる者を治す。鶴虱、倭産効なし。森立之の説に従ひて蛮名「セメンシーナ」を用ゆべし。若し此の方を用ひ蚘虫去るの後、心痛猶ほ止まざる者は甘草粉蜜湯特効あり。

 

当帰大黄湯
 此の方は桂枝加芍薬湯の変方にて、温下の剤なり。俗に所謂疝積にて腰背より肋下へさしこみ痛む者、此の方の目的なり。若し心下堅満して胸膈までも及ぶ者は、方後に云ふ仲景方の枳実、茯苓を加ふる者を用ゆべし。其の方『千金』方名なし。吾門、十味当帰湯と名づく。此の方及び十味当帰湯は脊に廻りて痛む者を主とす。疝にて腹や腰に廻るものは多くあれども背に廻る者は少し。此れ着眼の第一なり。凡そ『千金』『外台』に冷気と云ふ者は、上は痰飲を指し、下は疝気を云ふ。仲景は淡飲を寒飲と云ひ、疝気を久寒と云ふ。

 

当帰白朮湯
 此の方は心下及び脇下に痃癖ありて発黄し、大柴胡湯加茵蔯、或は八神湯、延年半夏湯の諸挫堅の剤、攻撃の品を施せども寸効なく、胃気振はず、飲食減少、黄色依然たる者に用ひて往々効を奏す。『三因』には酒疸とあれども諸疸に運用して飲癖を主とすべし。

 

大連翹飲
 此の方は元、痘疹収靨の期に及んで余毒甚だしく、諸悪症を現ずるを治する方なれども、今、運用して、大人老★(「嬾」の「束」なし)、血分に瘀滞ありて身体種々無名の悪瘡を発し、諸治効なき者に与へて奇効あり。若し熱毒甚だしき者は犀角を加ふるを佳とす。

 

導赤散
 此の方は心経実熱ありて、或は声音発せず、言語すること能はず、或は口眼唱斜、半身不遂する者を治す。此の症、肝風と混じ易し。『小児直訣』及び『局方』導赤散円の条を熟読して了解すべし。傷寒に用ゆる導赤各半湯も此の意を得て与ふべし。故友熱田友奄、中風不語に導赤各半湯を与へて奇効を得しと云ふ。心胞絡の実熱に着眼したるなり。

 

大防風湯
 此の方、『百一選方』には鶴膝風の主剤とし、『局方』には麻痺痿軟の套剤とすれども、其の目的は脛枯腊とか風湿挟虚とか云ふ気血衰弱の候が無ければ効なし。若し実する者に与ふれば反て害あり。

 

大七気湯
 此の方、後世にては積聚の主剤とすれども、莪稜は破気を主とす。堅塊の者は檳鼈に非ざれば効なし。故に古方、積聚の方多く此の二品を用ゆるなり。此の方は腹中に癖気ありて飲食に嗜忌あり、或は食臭を悪み、動もすれば嘔吐腹痛を発し、須臾にして忘るるが如きものに効あり。また蚘を兼ぬる者に檳榔を加へて用ゆ。後世所謂神仙労などの類は、余此の方に神仙散を兼服せしめて往々効を奏せり。

 

当帰飲子
 此の方は老人血燥よりして瘡疥を生ずる者に用ゆ。若し血熱あれば温清飲に宜し。また此の方を服して効なきもの四物湯に荊芥、浮萍を加へ長服せしめて効あり。

 

当帰拈痛湯
 此の方は湿熱血分に沈淪して肢節疼痛する者に用ゆ。其の初め、麻黄加朮湯、麻黄杏人薏苡甘草湯等にて発汗後、疼痛止まず、反て発熱、或は浮腫する者に宜し。青洲は附子剤を用ひて、反て劇痛する者に用ゆ。世に皮膚黎黒の人、または黒光りある人、多くは内に湿熱ある故なり。此くの如き病人に遇はば、淋病また陰癬の類はなきやと問ふべし。必ずあるものなり。左すれば愈いよ湿熱家にて脚気などと称し、腰股、或は足脛少しづつ痛をなし、歩行に妨たげあって難ぎする者なり。此の方を用ゆるときは必験あり。

 

当帰六黄湯
 此の方は陰虚火動の盗汗を治する方なれども、総べて血分に熱ありて自汗盗汗する者に効あり。また眼中翳膜を生じ膿水淋漓、俗に所謂膿眼に効あり。また血虚眼の熱ある者に宜し。

 

当帰四逆湯(宝鑑)
 此の方、柴胡、附子と伍すること古方の意に非ざれども、姑く四逆散の変方と見做し、腹中二行通りに拘急あり、腰胯に引きて冷痛する者を治す。此の方の一等甚だしく腰脚冷痛する者を止痛附子湯とするなり。

 

導滞通経湯
 此の方は気閉より来たる水気に効あり。呉又可の所謂気復などの症、数日浮腫する者、また久病の者、一旦に浮腫する者は、皆「気不宣通」に係る。皆此の方に宜し。

 

導水茯苓湯
 此の方は大剤にして濃煎せざれば効なし。是れ劉教諭茝庭の経験なり。「要如熬阿刺気酒」の義未詳。此の方の目的は「徧身如爛瓜之状、手按而搨陥、手起随手而高突」と云ふ言なり。若し爛瓜の状の如にして手按じて高突すること能はず、或は毛竅より瘀水溢出する者は虚候にして死期近きに在り。此の方虚実の間にあれば、此の場を合点して、諸水腫日を経て愈えず、爛瓜の如き者に用ひて効あり。

 

托裏消毒散
 此の方は『千金』内補散と伯仲の剤なれども、内補散は托膿を主とし、此の方は消毒を兼ぬ。故に毒壅の候を帯ぶる者、此の方を与ふるを佳とす。余は内補散の条に弁ず。

 

桃仁承気湯
 此の方は『傷寒論』の変方にして、其の証一等緩なる処に用ゆ。作者の趣意は、胃実の症にして、下剤を与へず、夜に至りて発熱する者は、熱血分に留まる者なり。下剤を与へざれば瘀血となる。此の方を用ゆべしと云へども、此くの如き証は、矢張、本論の方が宜しきなり。また既に下して後、昼日熱減じ、夜に至りて熱出づる者、瘀血行らざる故なり。此の場合にて此の方及び犀角地黄湯を用ゆべきなり。此の症、下を失し、自ら下血する者は甚だ危篤に至る、或は暴に下血して、手足厥冷し、絶汗出で、一夜を経ずして死す。故に血を見ざる前に、此の方及び犀角地黄湯を斟酌して用ゆべし。吾門にては大黄牡丹皮湯の一等軽き処を腸癰湯、騰竜湯とし、桃核承気湯の一等軽き処を桂枝桃仁湯及び此の方とするなり。

 

桃仁湯
 此の方、呉氏は邪血分を干す者に用ゆれども、吾門にては水分、血分、二道に渉る者に用ゆ。故に猪苓湯の証にして邪血分に波及する者は此の方を用ゆ。また水、血と結んで血室に在る者、大黄甘遂湯を以て攻下の後、此の方を与ふる時は工合至りて宜しきなり。

 

大保元湯
 此の方は痘瘡、元気虚して起脹する能はざる者を主とすれども、凡べて小児虚弱にして、五遅五軟の兆あり、他に余症なき者に用ひて、三味の保元湯より効優なり。吉村扁耆は三味の方は痘疹より反て慢驚風に効ありと云ふ。試むべし。

 

大百中飲
 此の方は『療治茶談』に載する如く、黴毒の沈痾痼疾になりて奈何ともすべからざる者に効あり。其の中、上部の痼毒に宜し。下部の痼毒は七度煎に宜し。また身体痼毒ありて虚憊甚だしき者は葳蕤湯に宜し。本邦唐瘡の治方に奇験方と称する者数方あれども、此の方第一とす。

 

導水湯
 此の方は導水茯苓湯の軽症を治す。和方に導水、疏水、禹水と称する者数方あれども、此の方最も簡便にして古方に近し。

 

桃花湯(松原)
 此の方は『外台』桃花一味の方より出で、腹水を去るに即効あり。また能く酒毒を下すなり。

 

大神湯
 此の方、黄胖の重症に用ゆ。黄胖は大抵平胃散加鉄砂、針砂湯、瀉脾湯加竜蛎の類にて治すれども、重実の症に至りては此の方を宜しとす。また虚症に至りては六君子湯莎朴蜜を宜しとす。

 

大寧心湯
 此の方は薩州医員喜多村良沢、癇火を鎮するの主方とす。『千金』温胆湯の症にして実する者に用ゆ。柴田家にては小児陽癇、煩渇甚だしき者の主方とす。

 

羚羊角湯(外台)
 此の方は気噎にて食餌咽につまり下らざる者に用ゆ。飲膈の者には効なし。一士人、疝にて飲食を硬塞する者あり。此の方にて効を得たり。古方、膈噎に辛温の剤を用ゆるは、其の辛味を以て透達するの意なり。羚羊角、噎を治するも亦古意なり。

 

羚羊角湯(得効)
 此の方は筋痺と云ふを目的とす。一婦人、臂痛甚だしく、肩背の筋脈強急して動揺しがたき者、此れを用ひて治す。羚羊、附子と伍するは前方と同旨にて格別の活用あり。

 

連理湯
 此の方は桂枝人参湯と表裏にて、裏寒に表熱を挟んで下利する者は彼の方なり。陰下に在り陽を上に隔して下利する者は此の方なり。此の意にて傷寒のみならず諸病に用ゆべし。

 

連葛解醒湯
 此の方は酒客の久痢に効あり。俗に疝瀉などと唱ふるもの真武湯、七成湯等を与へて効なきとき、腸胃の湿熱に着眼して此の方を用ゆべし。また酒毒を解すること葛花解醒湯より優なり。

 

連翹湯
 此の方は本邦唖科の経験にて、類方多くあれども、此の方を是とす。胎毒の虚症にあり、若し内攻の勢あらば『千金』五香湯を合して用ゆ。実するもの即ち馬明湯なり。

 

連翹飲
 此の方は痘疹の余毒を治す。大連翹飲よりは簡にして用ひ易し。若し毒深き者は大連翹飲の方に本づきて加減すべし。

 

連珠飲
 此の方は水分と血分と二道に渉る症を治す。婦人失血或は産後、男子痔疾下血の後、面部浮腫、或は両脚微腫して、心下及び水分に動悸あり、頭痛眩暈を発し、または周身青黄浮腫して黄胖状を為す者に効あり。

 

続命湯
 此の方は偏枯の初起に用ひて効あり。其の他、産後中風、身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者、または後世、五積散を用ゆる症にて熱勢劇しき者に用ゆべし。

 

走馬湯
 此の方は紫円の元方にて、一本鎗の薬なり。凡そ中悪、卒倒、諸急症、牙関、噤急、人事不省の者、此の薬を澆ぐときは二三滴にて効を奏す。また打撲、墜下、絶倒、口噤の者にも用ゆ。

 

増損四順湯
 此の方は四逆湯の症にして寒熱錯雑する者を治す。故に復元湯、既済湯の一等重き処に用ゆ。また下痢不止の語に注意して、凡そ理中、四逆を与へて下利止まざる者に用ゆ。古方、竜骨、黄連と伍する者は下利を収濇するの手段なり。断痢湯の方意も亦同じ。

 

増損理中丸
 此の方は理中丸の症にして、心下結満、或は胸中気急、結胸に類して其の実は虚気上気して胸部を圧迫する者を治す。『活人書』の枳実理中湯は此の方の一等軽き者なり。

 

蘇恭一方犀角湯
 此の方は脚気衝心、膈熱甚だしく因悶する者を治す。また傷寒膈熱の症にも用ゆ。即ち紫雪と同意なり。

 

蘇子湯
 此の方は『千金』紫蘇子湯の類方にして、虚気上逆して気喘する者を治す。蓋し紫蘇子湯に比すれば利水の効あり。半夏、乾姜と伍するは心下の飲を目的とするなり。

 

息奔湯
 此の方は延年半夏湯の症の如く、脇下に飲癖ありて、時々衝逆して呼吸促迫、気喘、絶せんと欲する者に宜し。蓋し半夏湯に比すれば塊癖は軽くして上迫の勢強しとす。或は人脇下の左右を以て二方の別とするは肺積の名に泥むものと云ふべし。

 

捜風解毒湯
 此の方は解毒剤の元祖にて、黴毒の套剤とすれども、汞薬を服するの後、筋骨疼痛する者に非ざれば効なし。尋常の黴瘡なれば香川の解毒剤を隠当とす。

 

壮原湯
 此の方は元、中満腫脹が目的にて皷脹の薬なれども、陰水にて桂姜棗草黄辛附湯、真武湯の類を投じ、腹満反て甚だしく、元気振はず小便不利する者に用ひて効あり。すべて附子剤、此の方の類を用ゆる腹満皷脹は、腹平満して大便秘せざる者なり。平満の処へ下剤をやると益ます早く脹をなす者なり。厚朴七物の類を始め、下剤を与へる脹満は、つんぽりと脹るものなり。是れを腹満陰陽の別とす。

 

桑白皮湯(脚気論)
 此の方は磐瀬元策の家方にて脚気衝心腫気の衝心状になりたるに用ゆ。唐侍中一方、犀角旋覆花湯に比すれば利水の力強く、沈香豁胸湯に比すれば降気の力乏しとす。

 

瘡瘍解毒湯
 此の方は一切腫瘍に用ゆれども、其の中、胎毒に属する者に効あり。連翹湯の一等重き者にして、五香連翹湯よりは稍や軽しとす。

 

桑白皮湯(東郭)
 此の方は『外台』卒喘の主とす。凡そ急迫、喘気を発し、困悶する者を治す。また此の意にて諸方に合して用ゆべし。『導水瑣言』に三日坊を治すと云ふも此の症なるべし。有持桂里は此の方酒にて煎じざれば効なしと云ふ。

 

通脈四逆湯、通脈四逆加猪胆汁湯
 二方共に四逆湯の重症を治す。後世にては姜附湯、参附湯などの単方を用ゆれども甘草ある処に妙旨あり。姜附の多量を混和する力ある故通脈と名づけ、地麦の滋潤を分布する力ある故、復脈と名づく、漫然に非ざるなり。加猪胆汁湯は陰盛格陽と云ふが目的なり。格陽の証に此の品を加ふるは白通湯と同旨なり。

 

追風通気湯
 此の方は気血流注して癰瘡をなさんと欲する者を解散す。就中痛甚だしき者に効あり。打撲仙気等、対症の薬を与へて効なく、痛反て劇しき者に用ゆ。後世にては流注毒実証の者に此の方を用ひ、虚症の者に『正宗』の益気養栄湯を用ゆるなり。

 

通関湯
 此の方は喉痺の脱症に用ゆ。凡そ喉痺の症軽き者は桔梗湯、重き者は苦酒湯、危劇の者は桔梗白散にて、大抵治すれども、脱候の者に至りては此の方に附子を加へざれば効なし。

 

通経導滞湯
 此の方は瘀血流注を治す。また婦人風湿疼痛、年を経て血分に関係する者に効あり。また瘀血流注の甚だしき者に至りては桂苓丸料加附子将軍か桃核承気湯加附に非ざれば効なし。

 

頭風神方
 此の方は結毒の頭痛或は耳鳴者に効あり。また結毒の眼に入りて痛む者を治す。何れも結毒紫金丹を兼服するを優とす。此の方、惟に湿毒のみに非ず、他症脳痛、或は耳鳴等の症に用ひて効あり。

 

寧肺湯
 此の方は八珍湯の人参を去り、五味、麦門、桑白、阿膠を加ふる者にして、肺痿虚敗の者、または咳嗽数年を経て血虚骨立する者を治す。栄衛倶に虚し発熱と云ふが目的なり。若し熱無く虚敗する者は炙甘草湯加桔梗を佳とす。阿膠は潤燥緩急の能ありて、肺部を潤し咳嗽を緩むるのみならず、痢に用ゆれば裏急を緩め、淋に用ゆれば窘迫を解き、其の他諸失血、帯下に用ゆ、皆潤燥を主とするなり。

 

内補散
 此の方は癰疽及び痘疹補托の主剤なり。揮発の力弱なる者には反鼻を加ふべし。癰疽に限らず一切の腫物、初め熱ある時は十味敗毒湯を用ひ、潰るや否や分明ならざる時は托裏消毒飲を用ひ、口潰ゆることを見定め、其の虚実に随ひて此の方を与ふべし。

 

内疎黄連湯
 此の方は癰疽発熱強き者に用ゆ。余は主治の如し。多味なれども、癰疽内壅の症に至りては、調胃承気湯、凉膈散よりは用ひ工合宜し。若し此の方の応ぜざる者は『千金』五利湯に宜し。

 

無礙丸
 此の方は脾気横泄と云ふが目的にて、腹中に伏梁の如き堅塊ありて脹満し四肢浮腫をなす者に効あり。若し此の症にて虚候ある者は変製心気飲加附子か『三因』の復元丹を与ふべし。

 

烏梅丸
 此の方の蚘厥は冷痛すものなり。痛や煩は発作して止むものなり。軽き症には起こる時ばかり厥する者あり。柯琴は蚘厥のみならず凡べて厥陰の主方とす。最も厥飲は寒熱錯雑の症多き故、茯苓四逆湯、呉茱萸湯の外は汎く此の方を運用して効を奏すること多し。故に、別に蚘虫の候なくしても、胸に差しこみ痛ある者に用ひ、また反胃の壊症に此の方を半夏乾姜人参丸料にて送下して奇効あり。また能く久下利を治するなり。

 

烏頭湯
 此の方は歴節の劇症に用ひて速効あり。また白虎風、痛甚だしきにも用ゆ。白虎風の事は『聖済総録』に詳らかなり。不可屈伸と云ふが目的なり。一婦人、臂痛甚だしく、屈伸すべからず、昼夜号泣、衆医治を尽くして治する能はず。余此の方を用ひて速やかに治す。また腰痛数年止まず、佝僂せんとする者、少翁門人中川良哉、此の方を用ひ、腰に芫菁膏を貼して全治す。青洲翁は嚢癰に用ひて効を奏せり。此の方は甘草分量少なく、且つ蜜を加へざれば効なし。此の二味、能く血脈を和し、筋骨を緩むるなり。

 

烏頭桂枝湯
 此の方は寒疝の主剤なり。故に腰腹陰嚢にかけ苦痛する者に用ゆ。後世にては附子建中湯を用ゆれども、此の方、蜜煎にしたる方が即ち効あり。また失精家、常に腰足冷えて臍腹力なく、脚弱く、羸痩、腰痛する者、此の方及び大烏頭煎効あり。証に依りて鹿茸を加へ、或は末として加入するも佳なり。

 

温経湯
 此の方は胞門虚寒と云ふが目的にて、凡そ婦人血室虚弱にして月水不調、腰冷、腹痛、頭疼、下血、種々虚寒の候ある者に用ゆ。年五十云云に拘るべからず。反て方後の主治に拠るべし。また下血の証、唇口乾燥、手掌煩熱、上熱下寒、腹塊なき者を適証として用ゆ。若し癥塊あり快く血下らざる者は桂枝茯苓丸に宜し。其のまた一等重き者を桃核承気湯とするなり。

 

温胆湯
 此の方は駆痰の剤なり。古人淡飲のことを胆寒と云ふ、温胆は淡飲を温散するなり。此の方は『霊枢』流水湯に根抵して其の力一層優とす。後世の竹筎温胆、清心温胆等の祖方なり。

 

温脾湯(千金)
 此の方は温下の極剤とす。桂枝加大黄湯、大黄附子湯に比すれば其の力尤も強し。脾胃冷実と云ふが目的なり。『本事方』も玆に本づきて「連年腹痛泄瀉休作無時者」を痼冷の所為として温下するなり。『傷寒六書』の黄竜湯も此の意にて結熱利に用ゆるなり。「久瀉不已証」に此の方の応ずる処あり。泄瀉に限らず温薬効なき証に、大黄と附子と組み合せ、寒熱交へ用ゆること深味あり。心得べし。

 

温脾湯(本事)
 此の方は『千金方』に胚胎す。『千金』熱痢門の温脾湯は即ち四逆加人参湯に加大黄、冷痢門は去甘草加桂心、『本事方』は去人参加甘草、厚朴、倶に六味とす。其の病症に適して取捨すべし。畢竟は仲師、桂枝加大黄湯、大黄附子湯の意に本づきて、皆温下の剤なり。

 

温清飲
 此の方は温と清と相合する処に妙ありて、婦人漏下、或は帯下、或は男子下血止まざる者に用ひて験あり。小栗豊後の室、下血不止十余年、面色萎黄、腰痛折るが如く、両脚微腫ありて、衆医手を束ぬ。余此の方を与へて全癒す。

 

雲林参苓白朮散
 此の方は『局方』の参苓白朮散よりは収濇の力優とす。故に胃虚、下利止まざる者に効あり。

 

烏苓通気湯
 此の方は後世、疝の套剤とすれども、疏気利水が主意にて、寒疝諸症、温散和中の薬効なき者に用ひて通気の験著し。其の他、婦人両乳痛甚だしき者、小児陰嚢急痛する者に与へて即効あり。通気の二字玩味すべし。

 

温肺湯
 此の方は麻黄湯に五味子を加ふる者にて、外感の咳嗽甚だしき者を治す。三拗湯、五拗湯よりは其の効著し。

 

苦酒湯
 此の方は纒喉風、咽中秘塞、飲食薬汁下ること能はず、言語出でざる者に用ひて奇効あり。一開門を打破するの代針と云ふべし。喜多村栲窓翁は傷生瘡を、金創に鶏卵を用ゆるの意にて、凡べて咽中に創を生ずる者に用ひて効ありと云ふ。

 

括蔞瞿麦丸
 此の方は水気にて小便不利、苦渇する者を治する方なれども、凡べて八味丸の症にて地黄の泥恋して服しかぬる症に用ゆべし。また消渇、八味丸の症にして小便不利する者は此の方に宜し。蓋し此の方は、火酒を製するような仕掛にて、附子、下焦の火を補ひ、茯苓、薯蕷、中焦の土を補ひ、括蔞根、上焦を清し、水と火と上下にありて中の水気を蒸たてる趣向なり。

 

緩中湯
 此の方は小建中の変方にて、能く中気をゆるめ積聚を和するの力あり。故に後世には緩痃湯と称するなり。但し高階の緩痃湯は柴胡桂枝乾姜湯に鼈甲、芍薬を加ふる者にして、此の方と混ずべからず。若し助下或は臍傍に痃癖ありて、寒熱、盗汗、咳嗽等ある者は、高階の方に宜し。

 

藿香正気散
 此の方は元『嶺南方』にて山嵐瘴気を去るが主意なり。夫より夏月、脾胃に水湿の気を蓄へ、腹痛下痢して頭痛悪寒等の外症を顕す者を治す。世に不換金正気散と同じく夏の感冒薬とすれども方意大いに異なり。

 

九味清脾湯
 此の方は小柴胡湯の変方にて、瘧病のみならず、熱少陽部位にありて類瘧の状を為す者に効あり。蓋し朮、苓、厚朴を伍する者は湿邪を駆るの意あり。若し湿邪の候なく、但熱固着して瘧状をなし、乾咳など強き者は、東郭経験の小柴胡湯に葛根、草菓、天花粉を加ふる者を用ゆべし。また呉又可の逹原飲は此の方を脱胎したるものなり。

 

駆風解毒湯
 此の方は原時毒の痄腮痛を治す。然れども此の症、大抵は葛根湯加桔石にて宜し。若し硬腫久しく散ぜざる者は此の方に桔石を加へて用ゆべし。東郭子は纒喉風、熱気甚だしく、咽喉腫痛、水薬涓滴も下らず、言語すること能はざる者に、此の加味の方を水煎し、冷水に浸し極冷ならしめ、これを嚥ましめて奇効を得ると云ふ。余は咽喉腫塞、熱甚だしき者、毎に此の方を極冷にして含ましめ、口中にて温る程にして嗽せしめて、屡しば効を奏せり。若し咽喉糜爛して腫痛する者は、加味凉膈散加竹葉を此の方の如く含ましめて効あり。

 

寛快湯
 此の方は気剤なれども中気を推下するの効ありて、大便不通、硝黄の剤を投ずれば便気益ます頻数にして通ずる能はず。気利とも云ふべき症に用ゆ。畢竟は訶梨勒散の意にて、はたらきのある方なり。

 

★(くさかんむりに、偏は「舌」、旁は「瓜」)★(くさかんむりに、偏は「婁」、旁は「瓜」)湯
 此の方は括薤白白酒湯の変方にして、薤白白酒の激する者、此の方、中庸を得て効あり。痰飲胸膈に結し、痛忍ぶべからず。咳嗽、喘鳴、気急の者は小陷胸湯に宜し。若し胃中伏火ありて咳嗽気急、或は膠痰を吐き胸痛する者、瓜蔞枳実湯に宜し。唯だ胸中痛背に引て微咳、熱候なき者は此の方の主なり。

 

九味柴胡湯(枢要)
 此の方は小柴胡湯の変方にて、凡べて瘡瘍の寒熱ある者を治す。後世の肝経の湿熱と云ふを目的とすべし。但し湿熱下部に専らなる者は竜胆瀉肝湯に宜しく、上部に専らなる者は小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。此の方は其の中位の者を治するなり。

 

活絡流気飲
 此の方は多味なれども流注毒頑固の者を動かすの力あり。若し膿潰の後は桂枝加朮附、托裏消毒の類に宜し。

 

廓清飲
 此の方は導水茯苓湯より簡にして効多し。蓋し三子養親湯の症にして中焦壅実する者を治す。

 

空倉痘方
 此の方は大保元湯、参耆鹿茸湯よりは其の力ら一等強くして、痘瘡、気血不足、灌膿する能はざる者を治す。若し毒壅を兼ぬる者は透膿散加反鼻を与ふべし。

 

駆邪湯
 此の方は瘧邪陰分に陥りて数十日解せず瘧労の状を為す者を治す。此の方の症にして一等虚候を帯ぶる者は医王湯加附子に宜し。丹水子、瘧に桂附の剤を用ひられしは『巣源』に風寒湿の三気より諸病起ると云ふに拠れり。巣氏の説は元来、虚邪賊風を題として設けたるなり。

 

寛中湯
 此の方は半夏厚朴湯に甘草乾姜湯を合し、蘇葉を蘇子に代へたる方にして、利気を主とす。胸中に気あつまりて心下までも及ぼし、気宇鬱塞する者に宜し。東郭は、婦人の経閉にて気宇鬱塞する者、先づ此の方を用ひて経水通ずと云ふ。入手の人と云ふべし。

 

九味柴胡湯(枳園)
 此の方は高階枳園の自製にて湿労の主方とす。其の実は『枢要』の柴胡湯と竜胆瀉汗湯を取捨したる者なり。余、湿労を治するに四等の別あり。寒熱止まず、羸痩する者を此の方とす。盗汗止まず、咳嗽短気、胸腹動甚だしき者を柴胡姜桂湯加天石とす。結毒咳嗽して連々虚労状をなす者を括蔞湯とす。身体酸疼、或は痿弱、微熱ありて気宇不楽、荏苒不愈の者を逍遙解毒とするなり。

 

九味半夏湯
 此の方は石崎朴庵(名淳古宇玄素)の発明にて、仲景治飲の方、大小青竜湯、甘遂半夏湯、十棗湯の類あれども、皆重剤にして容易に用ひ難し。此の方は升堤滲利を主として治飲の主剤とす。凡べて飲食の不和より水飲を生じ、或は其の気、心肺を熏蒸し、頭眩、健忌、種々証候を現する者を治すと云ふ。中年以後、肥満し、其の人、支飲上逆して雲霧の中に居るが如き者、余往々用ひて験あり。

 

九味檳椰湯
 此の方は和方の七味檳椰湯の枳実を去り、厚朴、木香、紫蘇を加へたる者なり。脚気、腫満短気する者、唐侍中の一方よりは服し易くして効あり。世医、梹蘇散を用ゆれども、此の方より大いに劣れり。

 

活血解毒湯
 此の方は解毒剤の症にして血燥を帯ぶる者に用ゆ。総じて遺糧を用ゆる症、血気枯燥者、当帰、麦門、山梔、紅花の類を加へざれば効なし。老医の伝なり。また此の方に反鼻を加へて天刑病に用ゆ。

 

豁胸湯
 此の方は和田東郭『外台』急喘を治する桑白、呉茱萸二味方中に犀角、茯苓を加へて豁胸湯と名づけ「脚気毒衝心昏悶欲死」を治す。また沈香降気湯を合して用ゆることもあり。『梧竹楼方雋』には、此の方に沈香、甘草、洋参を加へ人参茯苓湯と名づくと云ふ。これを『外台』大犀角湯に比すれば其の効やや勝る。然れども原、これを大犀角湯に取て其の方単甬。

 

射干麻黄湯
 此の方は後世の所謂哮喘に用ゆ。水鷄声は哮喘の呼吸を形容するなり。射干、紫苑、款冬は肺気を利し、麻黄、細辛、生姜の発散と半夏の降逆、五味子の収斂、大棗の安中を合して一方の妙用をなすこと、西洋合錬の製薬より夐に勝れりとす。

 

益智飲
 即ち神祖の御袖薬なり。傷食の主方とす。

 

麻黄湯(傷寒論)
 此の方は太陽傷寒無汗の症に用ゆ。桂麻の弁、仲景氏厳然たる規則あり。犯すべからず。また喘家、風寒に感じて発する者、此の方を用ゆれば速やかに愈ゆ。朝川善庵終身此の一方にて喘息を防ぐと云ふ。

 

麻黄杏仁甘草石膏湯
 此の方は麻黄湯の裏面の薬にて「汗出而喘」と云ふが目的なり。熱肉裏に沈淪して上肺部に熏蒸する者を麻石の力にて解するなり。故に此の方と越婢湯は無大熱と云ふ字を下してあり。

 

麻黄附子細辛湯
 此の方、少陰の表熱を解するなり。一老人、咳嗽吐痰、午後背洒淅悪寒し後、微似汗を発して止まず。一医、陽虚の悪寒とし医王湯を与へて効なし。此の方を服す僅か五貼にして愈ゆ。凡べて寒邪の初発を仕損じて労状をなす者、此の方及び麻黄附子甘草湯にて治することあり。此の方はもと表熱を兼ぬる者故に、後世の感冒挟陰の証と同じ。また陰分の頭痛に防風、川芎を加へて効あり。また陰分の水気、桂枝去芍薬湯を合して用ゆ。陳修園は知母を加へて去水の聖薬とす。

 

麻黄加朮湯
 此の方は風湿初起発表の薬なり。歴節の初起にも此の方にて発すべし。此の症、脈は浮緩なれども身煩疼を目的とするなり。若し一等重き者は越婢加朮湯に宜し。

 

麻黄杏仁薏苡甘草湯
 此の方は風湿の流注して痛解せざる者を治す。蓋し此の症、風湿皮膚に有りて未だ関節に至らざるが故に、発熱身疼痛するのみ。此の方にて強く発汗すべし。若し其の証一等重き者は『名医指掌』薏苡仁湯とす。若し発汗後、病瘥えず、関節に聚りて痛熱甚だしき者は、当帰拈痛湯に宜し。また一男子、周身疣子数百を生じ走痛する者、此の方を与へて即ち治す。

 

麻黄湯(千金)
 此の方は風疹、麻疹、熱甚だしく発泄しがたき者に効あり。麻疹の咽痛に別して宜し。小児丹毒には紫円を兼用すべし。

 

麻黄湯(外台)
 此の方は小青竜湯の症にして発熱甚だしき者を治す。但し、小青竜は熱を主とせず、心下水気を主とするなり。

 

蔓荊子散
 此の方は上部に熱を醸して、耳鳴耳聾をなし、或は耳内膿汁を出す者を治す。但し、老人婦女血燥より来たる者に宜し。小児聤耳には効なし。葛根芎黄湯を与ふべし。

 

蔓倩湯
 此の方は脾疼澼嚢の症、腹裏拘急、脇肋に水飲を停畜するを目的として用ゆ。若し澼嚢の症、拘急せず、脇肋軟なる者は、苓桂甘棗湯に非ざれば効なし。

 

桂枝湯
 此の方は衆方の祖にして、古方此れに胚胎する者、百有余方あり。其の変化運用、愚弁を待たず。

 

桂枝加厚朴杏子湯
 此の方は風家喘咳する者に用ゆ。老人など毎に感冒して喘する者、此の方を持薬にして効あり。

 

桂枝麻黄各半湯
 此の方は外邪の壊症になりたる者に活用すべし。類瘧の者は勿論、其の他風疹を発して痒痛する者に宜し。一男子、風邪後、腰痛止まず、医疝として療し、其の病益ます劇し。一夕此の方を服せしめ、発汗して脱然として愈ゆ。

 

桂枝人参湯
 此の方は恊熱利を治す。下痢を治するは理中丸に拠るに似たれども、心下痞ありて表症を帯ぶる故、『金匱』の人参湯に桂枝を加ふ。方名苟くもせず。痢疾最初に一種此の方を用ゆる場合あり。其の症、腹痛便血もなく、悪寒烈しく脈緊なる者、此の方を与ふるときはすっと弛む者なり。発汗の所宜と混ずべからず。丹水子は此の方に枳実、茯苓を加へて逆挽湯と名づく。是れは『医門法律』に拠て舟を逆流に挽きもどす意にて、此の方と同じく下痢を止どむる手段なり。

 

桂枝加大黄湯
 此の方は温下の祖剤なり。温下の義『金匱』に出で、寒実の者は是非此の策なければならぬなり。此の方、腹満時痛のみならず、痢病の熱邪薄く裏急後重する者に効あり。一病人痢疾、左の横骨の上に当て、処を定めて径たり二寸程の処、痛堪へ難く、始終手にて按じ居りして、有持桂里痢毒なりとして、此の方にて快愈せりと云ふ。また厚朴七物湯は此の方の一等重き者と知るべし。

 

桂枝加附子湯
 此の方も汗出悪風に用ゆるのみならず、其の用広し。『千金』には産後の漏汗、四肢微急に用ひてあり。後世方には寒疝に用ゆ。また此の方に朮を加へて風湿、或は流注毒の骨節疼痛を治す。

 

 

桂枝芍薬知母湯
 此の方は身体瘣★(やまいだれに「畾」)と云ふが目的にて、歴節数日を経て骨節が木のこぶの如く腫起し、両脚微腫ありて、わるだるく、疼痛の為に逆上して頭眩乾嘔などする者を治す。また腰痛、鶴膝風にも用ゆ。また俗にきびす脚気と称する者、此の方効あり。脚腫如脱とは、足くび腫れて、くつ脱するが如く、行歩すること能はざるを云ふ。

 

桂枝加竜骨牡蛎湯
 此の方は虚労失精の主方なれども、活用して小児の遺尿に効あり。故尾州殿の老女、年六十余、小便頻数、一時間五六度上厠、少腹眩急して、他に苦しむ所なし。此の方を長服して愈ゆ。

 

桂枝加黄耆湯
 此の方、能く盗汗を治す。また当帰を加へ芍薬を倍して耆帰建中湯と名づけ痘瘡及び諸瘡瘍の内托剤とす。また反鼻を加へて揮発の効尤も優なり。

 

桂姜棗草黄辛附湯
 弁、上の麻黄附子細辛湯の条に見ゆ。茲に一奇説あり。仙台工藤球卿曰く、凡そ大気の一転は万病を治する極意なるに、別して血症の治に専要とせり。昔年一婦人労咳を患ふ。欬血気急、肌熱手を烙く如く、肌膚削脱し、脈細数なり。予視て死症とす。一医矢て治すべしとし、桂姜棗草黄辛附湯を用ひて全愈を得たり。予大いに敬服して、これに傚ひて大気一転の理を発明して、乳岩、舌疽、及び諸翻花瘡等、数十人を治し得たり。翻花瘡に黄辛附湯を用ひたる意は、陰陽相隔りて気の統制なきゆえ、血肉其の交を失ひて漸々に頑固し、出血にも至るなりとして、『金匱』の「陰陽相得、其気乃行、大気一転、其気乃散」と云ふに本づきて、此の湯を擬したるなり。一婦人乳岩結核、処々糜爛し、少しく翻花のきざしあり、時々出血す。戊午初春に至りて疼痛甚だしく、結核増長して初て臥床にあり。正月二十八日、黄辛附湯を与へて四五日、疼痛退き結核減じて、床を起ちて事を視ること平日の如し。すべて陰陽相得ずして労咳をなし、欬血、吐血、顔色脱して為すべからざるに此の湯を与へて起死回生を得しことありと。余謂へらく、此の湯のみに限らず、凡べて古方は此の意を体認して運用する時は変化無窮の妙を得べし。

 

桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨救逆湯
 此の方は火邪を主とす。故に湯火傷の煩悶疼痛する者、また灸瘡にて発熱する者に効あり。牡蛎の末一味を麻油に調し、湯火傷に塗れば、忽ち火毒を去る。其の効推して知るべし。

 

桂枝茯苓丸
 此の方は瘀血より来たる癥瘕を去るが主意にて、凡べて瘀血より生ずる諸症に活用すべし。原南陽は甘草、大黄を加へて腸癰を治すと云ふ。余門にては大黄、附子を加へて血瀝痛及び打撲疼痛を治し、車前子、茅根を加へて血分腫及び産後の水気を治するなり。また此の方と桃核承気湯との別は、桃承に如狂、少腹急結あり。此の方「其癥不去故也」を目的とす。また温経湯の如く上熱下寒の候なし。

 

堅中湯
 此の方は小建中湯の変方にて其の用広し。古方家にては小建中湯加茯苓を用ゆれども、此の方の伍用が夐に勝れり。

 

鶏鳴散(千金)
 此の方は打撲の主薬なり。後世にては此の傷へ当帰鬚散など用ゆれども、其の効大いに鈍なりとす。

 

解肌湯
 此の方は葛根湯の症、壮熱甚だしく少陽に進まんとする者を治す。故に疫症、熱つよく無汗の者、世医達原飲加麻黄などを用ゆる傷にして、一殷強く発すべき症あらば、此の方を与ふべし。其の余、痘瘡の初起、敗毒散を用ゆる症に、此の方の行く処あり。

 

蠲痺湯
 此の方は麻痺筋攣の要薬とす。風寒湿三気合して痺を成すと云ふが目的なり。また痺症の筋を舒るに『準縄』の舒筋湯あり。参考すべし。

 

桂枝桃仁湯
 此の方は虚候の経閉、并びに乾血労の初起に用ゆ。桂枝湯、『金匱』妊娠の首に用ひて和血の主とす。また桂枝、桃仁と伍するときは専ら血分に走る。桂枝茯苓丸、桃核承気湯と同旨なり。

 

建中湯
 此の方は痘毒内陥して下利寒戦の者を主とす。此の意にて、癰疽、諸瘍、及び産後の下痢止まず寒戦する者に効あり。若し毒内攻して下利戦栗する者は真武湯加反鼻を用ゆべし。

 

解語湯
 此の方は中風の言語蹇渋を主方とす。蓋し、言語蹇渋に虚実の分あり。実する者は所謂痰迷心竅なり。続命湯、滾痰丸の類を用べし。甚だしき者は吐剤を与ふるを佳とす。虚者は此の方なり。若し内熱ある者は『本草彙言』の一方、或は犀角一味を服せしむ。また神仙解語丹は此の方の一等重き処に用ゆるなり。

 

結毒喉癬一方
 此の方は華岡にて直ちに喉癬湯と名づけ、咽喉結毒の主方とす。咽喉の毒は此の方及び桔梗解毒湯、紫金丹、五宝丹にて治すれども、其の劇甚に至りては熏薬に非ざれば験なし。

 

桂耆湯
 此の方は桂枝加黄耆湯の変方にて、外感後、自汗止まず、時々身熱、脈虚数なる者を治す。此の症にて一等もつれたる者は医王湯加鼈甲に宜し。

 

鶏鳴散(時方歌括)
 此の方の弁は唐侍中一方の条下に詳らかにす。

 

建理湯
 此の方は方意相反して効を相同じくす。建中は胃中を潤す薬なり。理中は胃中を燥す薬なり。若し胃中潤沢なく、血気行らず、拘急或は腹痛すれば。胃中の水穀益ます化すること能はず。遂に内潰して下利をなす。故に二方相合して効を奏するなり。百々漢陰曰く、人の脾胃と云ふ者は人家の台所にある「はしり」(西京方言関東にては「ながし」と云ふ)許りを見るやうな者なり。常に水を流さざるを得ざる処なれば、成丈乾くやうに世話をやかねば、はしり許りが朽るなり。人の脾胃も水穀を受けこむ処なれば、成丈水気のめぐるやうに、乾くやうにせねば、くちて傷むなりと。此の譬へにて理中の主意は明了に解するなり。

 

元陰湯
 此の方は本朝老医の伝にて面白き考へなり。傷寒数日を経て熱解せず壊症になる者は、鍋に物のこげ着きたやうな者なり。無理にこげを取らんとすれば鍋を損ずるなり。先づ水を入て潤して置きて、夫より火にかけるときは、其のこげが自然と取れるなり。傷寒に六味地黄を入れるは先づ水をさすなり。黄連、白芥子を加ふるは火にかける意なり。妙譬と云ふべし。六味地黄の熱疫に効あることは『救瘟袖暦』にも見ゆ。

 

解毒剤
 此の方は香川氏江州の民間より伝へたりと云ふ捜風解毒湯とは方意を異にして、運用尤も広とす。其の他、諸家の解毒剤数方あれども、効用此の方にしかず

 

桂枝五物湯
 此の方は出処未詳なれども、東洞の経験にて、牙歯疼痛、或は口舌糜爛の症に効あり。此の方の一等重き者を『保元』柴胡清肝散とし、清肝散の虚候を帯ぶる者を滋陰降火湯とす。

 

茯苓桂枝甘草大棗湯
 此の方は臍下の動悸を主とす。大棗は能く臍下の動を治するものなり。此の臍下の動悸、上に盛んなる者を桂枝加桂湯とす。桂枝加桂湯の臍下を去りて心下にのみあるを茯苓甘草湯とす。故に、此の三方一類にして相依る者なり。苓桂朮甘湯はまた別に離るる者なり。茯苓甘草湯は苓桂朮甘湯に似たれども、逆満や目眩はなし。若し有れは苓桂朮甘湯とするなり。此の方もと奔豚の水気に属する者を治するが主なれども、運用して澼飲に与へて特効あり。委しきは『時還読我書』に見ゆ。

 

茯苓桂枝朮甘草湯
 此の方は支飲を去るを目的とす。気咽喉に上衝するも、目眩するも、手足振掉するも、皆水飲に因るなり。起則頭眩と云ふが大法なれども、臥して居て眩暈する者にても、心下逆満さへあれば用ゆるなり。夫にて治せざる者は沢瀉湯なり。彼の方はたとひ始終眩なくしても冒眩と云ふものにて顔がひっぱりなどする候あるなり。また此の方、動悸を的候とすれば柴胡姜桂湯に紛れやすし。然れども此の方は顔色明にして、表のしまりあり。第一脈が沈緊になければ効なき者なり。また此の方に没食子を加へて喘息を治す。また水気より来たる痿躄に効あり。矢張り足ふるひ、或は腰ぬけんとし、劇者は臥して居ると脊骨の辺にひくひくと動き、或は一身中、脈の処ひくひくとして耳鳴逆上の効ある者なり。本論の所謂「久而成痿」の症、何病なりともあらば、此の方百発百中なり。

 

附子瀉心湯
 此の方は気痞の悪寒を目的とす。桂枝加附子湯の悪風、芍薬甘草附子湯の悪寒、皆同意なり。若し心下痞鞕して悪寒する者は『千金翼』の半夏瀉心加附子を用ゆべし。

 

附子湯
 此の方は真武湯の生姜を人参に代ゆる者なり。彼は少陰の裏水を治し、此は少陰の表寒を主とす。一味の変化妙と云ふべし。此の方『千金』に類方多し。身体疼痛の劇易に随ひて撰用すべし。

 

茯苓四逆湯
 此の方、茯苓を君薬とするは煩躁を目的とす。『本草』に云ふ「茯苓、主煩満」と、古義と云ふべし。四逆湯の症にして、汗出煩躁止まざる者、此の方に非ざれば救うこと能はず。

 

茯苓杏仁甘草湯
 此の方は短気を主とす。故に胸痺のみならず、支飲、喘息の類、短気甚だしき者に用ひて意外に効を奏す。また打撲にて体痛して、歩行すれば気急して息どしかる者は未だ瘀血の尽きざるなり。下剤にて下らざるに此の方を用ひて効あり。此の方、橘皮枳実生姜湯と並列する者は、一は辛開を主とし、一は淡滲を主とし、各宜しき処あればなり。

 

附子粳米湯
 此の方、粳米を用ゆる者は切痛を主とするなり。『外台』腹痛に秫米一味を用ゆ。徴とすべし。此の方、寒疝の雷鳴、切痛のみならず、澼飲の腹痛甚だしき者に宜し。また『外台』には霍乱、嘔吐に用ひてあり。

 

茯苓飲
 此の方は後世所謂留飲の主薬なり。人参湯の症にして、胸中淡飲ある者に宜し。南陽は此の方に呉茱萸、牡蛎を加へて癖飲の主薬とす。

 

茯苓緩中湯
 弁は緩中湯条に見ゆ。

 

茯苓補心湯
 此の方は心気不定にて種々妄想を発し、瀉心湯の場合に似たれども、虚候多く顔色青惨なる者に宜し。また婦人、亡血の後、面色浮種、心気爽やかならざる者に宜し。

 

伏竜肝湯
 此の方は崩漏、帯下等の症、芎帰膠艾の類を与へ、血は減じたれども、赤白相兼ね、或は豆汁の如き止まざるに宜し。若し瘀水計り多く下る者は『蘭室秘蔵』の升陽燥湿湯に宜し。

 

茯苓瀉心湯
 此の方は半夏瀉心湯の変方にして、停飲多く、心下痞鞕する者に宜し。また澼嚢吐水の証、嘈雑甚だしき者に用ひて効あり。

 

不換金正気散
 此の方は『嶺南方』にて山嵐瘴気を去るが主意なり。夫より転じて、水土に服せざる者、或は壊腹と云ひて、腹気失常吐瀉などする者に用ゆ。原芸庵は此の方、五十余通の加味ありて万病に用ひたれども、それ程に効ある者に非ず。併し不換金と云ふは古人も珍重したると見ゆ。

 

復元丹
 此の方は陰水を治する薬なれども、心腹堅脹と云ふが目的にて、水のみならず、気の凝結が甚だしく短気急喘する者に宜し。故に余が門にては、三聖丸の証にて堅脹甚だしき者、此の方にて送下す。

 

茯苓補心湯(良方)
 此の方は血虚症なれども、気が閉塞して血を運らすこと能はず、血遂に欠乏する者を治す。故に、八珍湯、十全大補湯は気血両虚者を治し、此の方は血虚し気実する者を治す。一婦人、顔色青惨、手足の爪悉く反皺して営すること能はず。医、黄胖となし療して効なし。此の方を服して全愈す。

 

附子理中湯
 此の方は理中丸の方後による者なり。理中は専ら中焦を主とする故、霍乱吐瀉の症にて、四肢厥冷する者は四逆湯より反て此の方が速やかに応ずるなり。後世にては中寒に用ゆれども、中寒は桂枝加附子湯、四逆湯を優とす。

 

茯苓琥珀湯
 此の方は五苓散に六一散を合して琥珀を加ふる者にて、五苓は元、小便不利、渇を主とする処へ、六一散の甘淡の者を加へ、琥珀の力を添へて、利水の効を立つるなり。此の方を水気に用ゆるは同気相求の理にて、水の味に類したる味の淡泊なる者を用ひて滲透せしむるなり。

 

分消湯
 此の方は利水中に疏気を兼ねて皷脹の初起に効あり。東郭は水腫、心下痞鞕、小便短少、大便秘し、其の腫、勢ありて指を没せず、脈沈実なる者に用ゆ。一説に此の方は食皷を主とす。食皷とは噯気、呑酸、悪食、飽悶等の症あるを云ふ。諸水腫にても食後に飽悶の意あるものに用ひて大効をとること多しと。

 

浮萍湯
 此の方は瘡疥の発表に宜し。但し大抵は葛根加荊芥将軍にて治すれども、水気ありて発し兼ぬる者、此の方を用ゆべし。古人天刑病に与ふれども未だ効を見ず。

 

復元湯
 此の方は傷寒陰陽錯雑の者に用ゆ。四逆湯に生脈散を合し、黄連、知母、芍薬を加へたる趣意は、既に陰位に陥り、裏は虚寒になりて居れども、表邪は熱甚だしく、譫語、渇など有りて、陽症に似たれども、病者、元気弱く、脈の悪しき者は此の方に宜し。

 

 

扶脾生脈散
 此の方は吐血、欬血不止、虚羸少気、或は盗汗出で、飲食進まざる者を治す。『医通』云ふ、「内傷、熱傷肺胃、喘嗽、吐血、衂血者、生脈散加黄耆甘草紫苑白芍当帰」とは此の方のことを云ふなり。先輩は此の証に阿膠を加へて経験すれども、余は白芨を加へて屡しば吐血の危篤を救へり。

 

巫神湯
 此の方、俗間経験方なれども、面白き組合せなり。五苓散に大香連丸を合して乾姜を加ふる者は、血分不和より水気を醸し、其の上胃中に湿熱を生じ、頭眩、下痢、種々の変症を成す者、其の標に眩惑せず、此の方を持重するときは意外に効を奏するなり。

 

厚朴生姜甘草半夏人参湯
 此の方は中気虚して腹満する者を治す。故に古人太陰の主方とす。厚朴七物湯や厚朴三物湯の跡にて用ゆることあり。また平胃散の虚症に与へて能効あり。

 

五苓散
 此の方は「傷寒渇而小便不利」が正面なれども、水逆の嘔吐にも用ひ、また畜水の顚眩にも用ひ、其の用広し。後世にては加味して水気に活用す。此の方は本法の如く新たに末にして与ふべし。煎剤にては一等下るなり。胃苓湯や柴苓湯を用ゆるは此の例に非ず。また疝にて烏頭桂枝湯や当帰四逆湯を用ひて一向に腰伸びず、諸薬効なきに、五苓散に加茴香にて妙に効あり。是れ即ち腸間の水気を能く逐ふが故なり。

 

呉茱萸湯
 此の方は濁飲を下降するを主とす。故に涎沫を吐するを治し、頭痛を治し、食穀欲嘔を治し、煩躁吐逆を治す。『肘后』にては吐醋嘈雑を治し、後世にては噦逆を治す。凡そ危篤の症、濁飲の上溢を審らかにして此の方を処するときは、其の効挙げて数へがたし。呉崑は烏頭を加へて疝に用ゆ。此の症は陰嚢より上を攻め、刺痛してさしこみ、嘔などもあり、何れ上に迫るが目的なり。また久腹痛、水穀を吐する者、此の方に沈香を加へて効あり。また霍乱後、転筋に加木瓜、大いに効あり。

 

候氏黒散
 此の方は多味繁雑なれども、中風の頭痛、眩暈甚だしき者に効あり。往時、司農川路左衛門尉、偏枯を患ひ、癱瘓稍や差るの後、頭痛甚だしく、昼夜呻吟、眠る能はず、衆医手を束ぬ。余此の方を与へて、即ち効を得たり。また先輩辻本氏屡しば此の方を用ひして見たり。

 

厚朴麻黄湯
 此の方は小青竜加石膏湯に似たる薬なれども、降気の力ら優とす。故に喘息上気に用ひて効あり。溢飲を主とするは小青竜加石膏を宜しとす。また射干麻黄湯と互ひにして用ゆ。然れども此の方は熱強く脈浮なる者に宜し。彼の方は熱なきを異なりとす。また富貴安佚の人、膏梁に過ぎて、腹満咳をなす者、此の方に大黄を加へて効あり。麻黄、大黄と伍すること表裏のやうなれども、『千金』黒散などと同意にて、面白きはたらきあり。

 

厚朴七物湯
 此の方は桂枝去芍薬湯に小承気湯を合する者にて、発熱と腹満か目的なり。『得効方』に陽実陰虚、陽盛んなれば外熱を生じ、陰虚すれば内熱を生ず、陰虚して宜通ずること能はずして、飲食故の如く脹満熱脹を為すと云ふが如く陰虚する故に陽気浮きて発熱あり。脈も亦浮なり。是れ表邪に非ず。また実満に非ず。方中の桂枝は唯だ陽気を発起して外表へ出す為なれば、即ち太陰温下の一方とすべし。余は桂枝加大黄湯の条に具す。

 

五香湯
 此の方は解毒の良方なり。凡そ瘡毒内攻衝心の者、此の方に非ざれば救ふ能はず。また痘疹の内攻に与へて宜し。本邦往古の医書には此の方に多く加減して胎毒の主剤とするなり。また小児初生に用ゆ。此の症は、色など青白になり、其の外何となく陰症を顕はし、心下に迫る気味の者に宜し。此の一段重きを四逆湯とす。然れども初生、附子を用ゆる場に至れば多く難治なり。

 

黒散
 此の方は麻黄湯の変方にして、小児暴熱を発し気急喘鳴する者を治す。此の方の症にして一等重く吐腹膨張する者は『本草彙言』治小児風痰方を用ゆべし。

 

五蒸湯
 此の方は竹葉石膏湯の変方にして、骨蒸熱の虚脱せざる者を治す。此の方と『蘇沈良方』の麦煎散は骨蒸初起の主剤とす。但し此の方は『入門』の所謂煩熱、蒸痿、自汗を主とし、麦煎散は方後の所謂骨蒸、黄痩、口臭、盗汗を主とするなり。

 

五積散
 此の方は『軒岐救正論』に気、血、飲、食、痰を五積と云へることあり。即ち此の意にて名づくと見ゆ。故に風寒を駆散し発表するの外に、内を温して血を和するの意あれば、風寒湿の気に感じ表症もあり、内には従来の疝積ありて、臍腹疼痛する者、尤も効あり。先哲此の方を用ゆる目的は、腰冷痛、腰腹攣急、上熱下冷、小腹痛の四症なり。其の他、諸病に効あること、宋以来俗人も知る薬にして、亦軽蔑すべからず。

 

牛車腎気丸
 此の方は八味丸の症にして、腰重、脚腫、或は痿弱する者を治す。一男子、年三十余、年々脚気を患ひ、腰重、脚軟、歩する能はず、冬月は稍や差ゆるに似たれども、春夏の際に至れば復発すること故の如し。余、強ひて秋冬より春末に至るまで此の方を服せしめて全愈す。

 

五虎湯
 此の方は麻杏甘石湯の変方にして喘急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風は一種の急喘にして此の方の症に非ず。別に考究すべし。

 

牛蒡芩連湯
 此の方は時毒、大頭瘟の主方なれども、凡べて積熱上に在りて諸悪瘡を発し愈え難き者に用ひて効あり。時毒、頭瘟の類、其の初めは葛根湯加桔梗石膏にて発汗すべし。発汗後、腫痛不解の者は小柴胡湯加桔梗石膏に宜し。其の次を大柴胡湯加桔石とし、其の次を此の方とす。若し早く此の方を与ふるときは甚だ工合悪しき者なり。

 

琥珀湯
 此の方は血分の水気を治す。故に産後の水気及び諸血毒腫に効あり。若し此の方を与へて腫気減ぜざる者は『本事後集』血分腫の一方を与ふべし。また『宝慶集』の調経散を兼用するも佳なり。

 

五物大黄湯
 此の方も出処未詳、東洞の経験にて瘭疽代指に効あり。或は蒸薬として痔、脱肛を治す。

 

虎翼飲
 此の方は小半夏加茯苓湯に橘皮、伏竜汗を加ふる者にして、悪阻の主薬とす。但し悪阻の甚だしきに至ては湯剤反て激する者なり。単烏梅丸を徐々に下すべし。虚候の者は半夏乾姜人参丸に宜し。此の方は反て雑病の嘔吐不止の者に運用して効あり。

 

黒豆湯
 此の方は軽粉或は甘汞の毒に中り、口中腐爛、牙根露出、飲食咽に入るること能はず、疼痛甚だしき者を治す。大柢は含嗽煎にて治すれども、其の劇毒の者に至ては此の方を内服せざれば験なし。

 

越婢湯
 此の方は脾気を発越すと云ふが本義にて、同じ麻黄剤なれども麻黄湯、大青竜湯とは趣を異にして、無大熱汗出と云ふが目的なり。故に肺脹、皮水等に用ひて、傷寒、溢飲には用ひず。また論中の麻杏甘石湯も此の方と一類の者なり。

 

越婢加朮湯
 此の方は裏水とあれども、越婢湯方後に風水加朮四両とあれば、風水の誤りと知るべし。朮を加ふるものは湿邪に麻黄加朮湯を与ふと同手段なり。『千金』に附子を加へて脚弱を治するも、風湿の邪の為に脚弱する者にて、即ち今の脚気痿弱なり。

 

越婢加半夏湯
 此の方は肺脹を主とす。其の症、欬して上気、喘ありて気急し、甚だ支飲に似たり。然れども支飲の喘は初め胸痛、或は手足厥冷して気急し、側臥すること能はず、肺脹の上気は熱勢つよく、卒に発して目脱するが如き状あり。然れども側臥しがたきに非ず。半夏と石膏と伍するときは破飲鎮墜の効あり。小青竜加石、厚朴麻黄湯も同じことあり。また心下に水気あり、或は脇下痛み欠盆に引く者は、小青竜加石膏に宜きなり。

 

延年半夏湯
 此の方は痃癖の主方とす。其の中、東郭の説の通り、呉茱萸は左部に在る者に最も効あり。また脇肋の下よりして肩背につよく牽痛する者に宜し。若し痃癖にても胸背より腹中に及びて拘急する者は『外台』柴胡鼈甲湯を宜しとす。また黄胖に用ゆるに平胃散と上下の別あり。此の方は病上に位して胸満気急するを目的とす。平胃散は病膈下にありて気急の症なし。

 

益気聡明湯
 此の方は老人など心思労動して目暗、耳鳴する者に効あり。真の青盲などの内障には更に効なし。

 

益元湯
復元湯と同じことにて、陰陽錯雑の治方なり。本邦の医は既に柴胡四逆抔と云ふ者を用ゆれども、上盛下虚には既済湯、外熱裏寒には復元湯、上熱下冷には増損四順湯と云ふ様に、規則を正くして用ゆべし。

 

営実湯
 此の方は疎滌の効至て捷なり。実証の水気腹満には即ち効あり。また疝より来たる水気に宜し。旧友神戸儒員沢熊山、嘗て疝塊あり。夏秋の間、水気を醸し、陰嚢腫大、両脚洪腫、腹満如皷、諸治水の剤寸効なし。此の方を服し、三貼にして徹し、五貼にして全く愈ゆ。蓋し利水の品、郁李仁は上に係りて、桃花より緩に、営実は中位に在りて、牽午子に比すれば最も峻なりとす。また其の尤も峻なる者を甘遂とし、其の甘遂の重を巴豆とするなり。但し下痢後、大渇を発す。宜しく『千金』の緑豆湯を服せしめ、其の渇を防くべし。

 

調胃承気湯
 此の方は承気中の軽剤なり。故に胃に属すと云ひ、胃気を和すと云ひ、少々与ふと云ふ。大小承気の如く腹満燥屎を主とせず、唯だ熱の胃に属して内壅する者を治す。雑病に用ゆるも皆此の意なり。

 

天雄散
 此の方は桂枝加竜骨牡蛎湯の症にして、陰寒に属する者を治す。一人常に陰嚢冷を苦しみ、時に精汁自ら出づる者、此の方を丸薬とし長服して愈ゆ。

 

葶藶大棗瀉肺湯
 此の方は肺癰の初起及び支飲を治す。葶藶、苦寒、肺中の気閉を泄す。故に喘して臥するを得ざる者、及び息するを得ざる者に用ゆ。大棗を伍する者は十棗湯、皀莢丸と同意なり。葶藶は苦味の者を用ゆ。

 

調中湯
 此の方は産後の下痢を治す。蓋し産後の下痢に二道あり。其の一は、心下に水結ありて雷鳴下痢し、口中赤爛して飲食進まず、『医宗金鑑』の所謂口糜瀉なり。甘草瀉心湯に宜し。其の一は、腹中虚寒、飲食化すること能はず、食後忽ち腹痛刺すが如くにして暴泄する者、此の方の主なり。若し腰以下有水気の者は真武湯加良姜に宜し。また一種、腸胃間に熱ありて水瀉止まざる者は、欧陽氏の按に本づきて四苓散加車前子大を用ゆべし。

 

釣藤散
 此の方は俗に所謂癇症の人、気逆甚だしく、頭痛眩暈し、或は肩背強急、眼目赤く、心気鬱塞の者を治す。此の症に亀井南溟は温胆湯加石膏を用ゆれども、此の方を優とす。

 

調栄湯
 此の方は八珍湯に牛皮消、川骨を加ふる者にて、金創、傷損、脱血の者に効あり。牛皮消、川骨の二味は、本邦古来の経験にて、打撲傷損に用ひて和血止痛の能あり。南総九十九里、一老婦あり、帯下の奇方を施す。牛皮消一味の末なり。余は此の意を体して此の方を運用するなり。

 

定悸飲
 此の方は『外台』の牡蛎奔豚湯に本づきて製せるなり。奔豚のみならず、諸動悸の症、衝逆の勢ある者は、此の方を斟酌して用ゆべし。

 

安中散
 此の方は世上には澼嚢の主薬とすれども、吐水甚だしき者には効なし。痛甚だしき者を主とす。反胃に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。また婦人血気刺痛には澼嚢より反て効あり。

 

阿膠散
 此の方は労嗽にて諸薬効なく、声唖、咽痛して、咽喉不利する者に宜し。麦門冬湯と伯仲にして潤肺の効は勝れりとす。

 

安神益志湯
 此の方は傷寒の壊症にして、六経正面の諸薬効なく、また『温疫論』杯の方も応ぜず、労疫にも非ず、百合にも非ず、余熱荏苒として解せず、六脈倶に静にして精神振はざる者に験あり。

 

安神養血湯
 此の方は労復の虚熱を解す。大抵は小柴胡湯、麦門冬湯の類にて治すれども、虚熱去らざる者は此の方を用ゆべし。

 

安肝湯
 此の方は小児腹満、青筋の症、陰陽錯雑、虚実混淆して、世医、脾疳杯の方を施し、死せず愈えず、如何ともしがたき者、此の方を用ひて意外に効を奏す。心得て試むべし。

 

柴胡加芒硝湯
 此の方は成無已は小柴胡に加れども、『入門』に従て大柴胡に加ふべし。何となれば、柴胡証にして陽明に及ぶ者に用ゆればなり。故に其の熱候、鬱々微煩にはあらで、日晡所潮熱を発するなり。芒硝は即ち胃中凝滞の実熱を去る為に用ゆ。『金匱』には芒硝一味大黄に伍せずして用ゆれども、解凝利水の用にして、此の方とは趣意違ふなり。

 

柴胡竜骨蛎湯
 此の方は肝胆の鬱熱を鎮墜するの主薬とす。故に、傷寒の胸満、煩驚のみならず、小児驚癇、大人の癲癇に用ゆ。また中風の一種に熱癱癇と称する者あり、此の方よく応ずるなり。一通り癇症にて、煩驚なく、四肢掣縦心志不安の者は、方後の加減を用ゆべし。また鉄砂を加へて婦人の発狂を治す。此の方、傷寒にては左もなけれども、雑病に至ては柴胡姜桂湯と紛れやすし。何れも動悸を主とすればなり。蓋し姜桂は虚候に取り、此の方は実候に取りて施すべし。

 

柴胡桂枝湯
 此の方は世医風薬の套方とすれども、左にあらず、結胸の類症にして、心下支結を目的とする薬なり。但し表症の余残ある故に桂枝を用ゆるなり。『金匱』には寒疝腹痛に用ひてあり。即ち今の所謂疝気ぶるひの者なり。また腸癰生ぜんとして腹部一面に拘急し、肋下へ強く牽きしめ、其の熱状、傷寒に似て非なる者、此の方に宜し。また世医の此の方を用ゆる場合は『傷寒蘊要』の柴葛解肌湯当れりとす。即ち小柴胡湯に葛根、芍薬を加ふる者なり。また此の方に大黄を加へて婦人心下支結して経閉する者に用ゆ。奥道逸法眼の経験なり。

 

柴胡桂枝乾姜湯
 此の方も結胸の類症にして、水飲心下に微結して、小便不利、頭汗出づる者を治す。此の症、骨蒸の初起、外感よりして此の症を顕する者多し。此の方に黄耆、鼈甲を加へて与ふるときは効あり。高階家にては鼈甲、芍薬を加へ緩痃湯と名づけて、肋下或は臍傍に痃癖ありて、骨蒸状をなす者に用ゆ。此の方は微結が目的にて。津液胸脇に結聚して五内に滋さず、乾咳出づる者に宜し。固より小青竜湯などの心下水飲に因りて痰咳頻りに出づる者の比に非ず。また小柴胡加五味子乾姜湯の胸脇苦満して両肋へ引痛するが如きにも非ず。唯だ表症より来たりて身体疼痛なく、熱ありと雖も脈浮ならず、或は頭汗、盗汗出で、乾咳する者に用ゆ。また瘧、寒多く熱少き者に用ひて効あり。また水腫の症、心下和せず、築々として動悸する者は、水気と持病の積聚と合して心下へ聚る者あり。此の方に茯苓を加へて宜し。また此の方の症にして、左脇下よりさしこみ緩みがたき者、或は澼飲の症に、呉茱萸、茯苓を加へて用ゆ。また婦人、積聚、水飲を兼ね、時々衝逆し、肩背強急する者に験あり。

 

柴胡去半夏加括蔞湯
 此の方は瘧疾発渇を治すれども、『傷寒論』の加減法に拠れば、本方の症にして渇する者に広く用ゆべし。また労瘧に此の方を用ゆる者は清涼滋潤を主とするなり。また此の方に荊、防、連翹を加へて、去加柴胡湯と名づけ、小児諸瘡及び痘疹余毒に運用するなり。

 

酸棗仁湯
 此の方は心気を和潤して安眠せしむるの策なり。同じ眠るを得ざるに三策あり。若し心下肝胆の部分に当りて停飲あり、これが為に動悸して眠るを得ざるは温胆湯の症なり。若し胃中虚し、客気膈に動じて、眠るを得ざる者は、甘草瀉心湯の症なり。若し血気虚燥、心火亢ぶりて眠るを得ざる者は、此の方の主なり。『済生』の帰脾湯は此の方に胚胎するなり。また『千金』酸棗仁湯、石膏を伍する者は、此の方の症にして余熱ある者に用ゆべし。

 

三物黄芩湯
 此の方は蓐労のみに限らず、婦人血症の頭痛に奇効あり。また乾血労にも用ゆ。何れも頭痛、煩熱が目的なり。此の症、俗に疳労と称して、女子十七八の時多く患ふ。必ず此の方を用ゆべし。一老医の伝に、手掌煩熱、赤紋ある者を瘀血の候とす。乾血労、此の候有りて他の証候なき者を此の方の的治とす。亦一徴に備ふべし。凡べて婦人、血熱解せず、諸薬応ぜざる者を治す。旧友尾台榕堂の長女、産後血熱解せず、午後頭痛甚だしく、殆ど蓐労状を具す。余此の方を処して、漸々愈を得たり。爾後、其の症発動するときは自ら調剤してこれを服すと云ふ。

 

柴胡飲子
 此の方は四逆散の変方にして、時々肌熱を発し、或は瘧状の如く、二三日苦悶する者を治す。また脚気初起、傷寒に似て発熱する者に効あり。煎法は宋人の改正と見ゆ。従ふべからず。

 

柴胡湯
 此の方は産後、悪露下らずして往来寒熱する者を治す。故に桂苓丸、折衝飲の類を与へ、瘀血去らず、寒熱を発する者を治す。若し悪露尽きて寒熱止まざる者は小柴胡加地黄湯に宜し。

 

犀角湯(千金)
 此の方は歴節の熱毒甚だしく、一身に入り、四肢節々痛腫して、越婢湯や続命湯の症にて一段痼をなしたる者なり。『病源候論』に熱毒の痛風を挙げて陽結と云ふ。即ち此の症なり。市谷抹香屋妻、両脚腫痛、日晡より焮熱を発し、其の痛忍ぶべからず、徹夜号泣す。余此の方を与へて熱漸く減じ、一月にして痛全く安し。嘗て聞く。華岡青洲は、痛風熱甚だしく烏附の剤投じ難き者に屡しば用ひて奇験を奏すと云ふ。

 

犀角旋覆花湯
 此の方は脚気の水気、上胸腹に盛んにして、嘔気を発し、或は気急喘息する者を治す。蓋し此の方と沈香降気、豁胸湯とは脚気上部に盛んにして衝攻せんと欲する者を治すれども、沈香豁胸は気急促迫を主とし、此の方は水気嘔逆を主とするなり。

 

滲湿湯
 此の方は脚気下部に専らにして、腰以下冷痺し、或は両脚微腫し、痿弱せんとする者を治す。大抵は桂枝加朮苓附湯にて治すれども、虚候毒気を兼ぬる者は此の方に宜し。

 

犀角麻黄湯
 此の方は風毒脚気の主剤なり。風毒脚気の候は『千金』及び『聖恵』に悉く見へたり。湿気外邪を挟みて発熱腫満する者、此の方に非ざれば効なし。若し此の症、誤治し内攻する者、大陷胸湯に非ざれば救ふこと能はず。東郭は脚気痿弱の症に『千金』附子湯などを用ゆるに、胸中一物あるが如く、胸肋膨脹して却て快からざる者、越婢湯に木瓜、檳榔を加へて用ひ、また其の甚だしき者に此の方を用ゆと云ふ。

 

柴胡鼈甲湯(外台)
 此の方は「集験一方」とありて方名なし。洛医鎌田碩庵、此の名を冒して、喘息の痃癖より来たる者に屡しば効を得たり。其の方は四逆散に鼈甲、檳榔、朮を加ふる者にして、痃癖、心腹痛を治するが主なり。楊氏の解労散は此の方の一等軽き者なり。二方共、労立の胸脇にかかり、寒熱往来して咳嗽ある者に用ひて、大小柴胡湯よりは反て効あり。此の方、また瘧母を治す。是れにて治せざる者は柴胡加芒硝湯なり。

 

柴胡厚朴湯
 此の方は柴胡湯の位に在りて脹満する者を治す。若し実する者は大柴胡加鼈甲湯を用ゆべし。若し虚気の脹満なれば厚朴生姜甘草半夏人参湯に宜し。

 

犀角地黄湯
 此の方は内に瘀血有りて吐血、衂血する者を治す。傷寒のみならず諸病に運用すべし。芍薬、地黄と伍する者は四物の意にて、血を和する為なり。此の方の症にして、不大便の者は方後の加味を用ゆべし。また『児科方要』に黄連解毒湯を合して用ひ、走馬牙疳、歯衂等に効あり。若し畜血に因りて吐血、衂血甚だしき者、桃核承気湯に非ざれば効なし。此の方は第二等に処すべし。

 

柴胡散
 此の方は大柴胡湯の変局にして、世の所謂風労なる者に用ゆ。骨蒸の初起には効あり。虚する者は秦艽扶羸湯に宜し。

 

三脘湯
 此の方は気の壅滞を疎利するが主意にて、畢竟、腹気の壅滞するより色々の症を生じ、或は大便秘結、小便不利、或は腹はり、或は腰疼み、或は背疼み、手足いたみ、或は面腫、手足腫れ、或は腹中痞塊を生じ、種々の患をなすを治す。悉くは『局方』三和散の主治を読みて知るべし。『衆方規矩』に云ふ、筋攣急する者は気滞なり。此の方に宜し。亦腨脹内に形指の如きものあり、これを按じて累々として転動する者、此の方を用ゆる要訣なりと。亦一徴となすべし。また此の症にして虚寒に属する者は補腎湯に宜し。

 

柴胡鼈甲湯(聖済)
 此の方は少陽の壊症にて、潮熱、或は瘧状の如き熱を発し、連綿解せざる者に宜し。世医は小柴胡加鼈甲を用ゆれども、此の方を是とす。若し熱気固着する者は、檪窓に従ひて胡黄連を加ふべし。

 

柴胡四物湯
 此の方は小柴胡湯の症にして、血虚を帯ぶる者に宜し。『保命集』には虚労寒熱を主とすれども、広く活用すべし。此の方、小柴胡加地黄湯に比すれば血燥を兼ぬる者に験あり。

 

三子養親湯
 此の方は老衰或は虚劣の人、痰喘胸満して浮腫する者に効あり。一老婦、痰喘より追々上部水気を発し、気急促迫する者、此の方に琥珀末一味を点服して即ち験あり。

 

柴苓湯
 此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇下痢する者を治す。暑疫には別して効あり。

 

左金丸
 此の方は丹渓の工夫にて左脇痛を主とす。或は症に依りて沈香降気湯に合し、或は参連湯に合して用ゆべし。

 

犀角湯(医綱)
 此の方は傷寒大勢解する後、心胞絡に余熱畜在して、心煩、驚悸などあり、小便赤濁、或は微咳嗽する者を治す。其の他、雑病に運用すべし。『蕉窓雑話』に治験あり。熟読すべし。

 

三黄石膏湯
 此の方は陽毒発斑を治するが主なれども、麻疹、熱毒甚だしく、発し兼ぬる者に宜し。また丹毒にも用ゆべし。

 

柴胡枳桔湯
 此の方は結胸の類症にして、胸脇痛み、咳嗽短気、寒熱ある者を治す。此の類に三方あり。胸中より心下に至るまで結痛する者を柴陥湯とす。胸中満して痛み、或は肺癰を醸さんとする者を此の方とす。また両脇まで刺痛して咳嗽甚だしき者を柴梗半夏湯とす。世医は瓜蔞枳実湯を概用すれども、此の三方を弁別するに如くはなし。

 

柴葛解肌湯(蘊要)
 弁、前の柴胡桂枝湯の条に見ゆ。また家方柴葛解肌湯の症にして、汗出煩渇せず、脈弦長なる者に能く適当するなり。

 

柴胡解毒湯
 此の方は傷寒のみならず、凡べて胸中に蘊熱ありて咽喉に瘡腫、糜爛を生じ、或は目赤頭瘡、或は諸瘡内攻し、壮熱煩悶する者を治す。古人の言通り、諸瘡瘍は肝胆経をねろふて柴胡を用ゆるが定席なり。其の内、熱毒甚だしき者は黄連解毒を合すべし。黄連能く湿熱を解すればなり。

 

柴胡疎肝湯
 此の方は四逆散の加味ゆえ、脇痛のみに限らず、四逆散の症にして、肝気胸脇に鬱塞し、痛を覚え、或は衝逆して頭疼、肩背強急する者を治す。『医通』の方は瘀血ありて痛を為す者に宜し。

 

柴胡清肝湯
 此の方は口舌唇の病に効あり。柴胡、黄芩は肝胆のねらひとし、升麻、黄連は陽明胃経の熱をさまし、地黄、当帰、牡丹皮は牙齦より唇吻の間の血熱を清解し、瘀血を消散すと云ふ。後世割普請の方なれども、畢竟する処、清熱和血の剤にして、上部に尤も効ある者と知るべし。

 

柴胡養栄湯
 此の方は後の清燥湯と伯仲にして、下後、胃中の津液乏しくなりて余熱未だ除かず、動もすれば再び胃に陥らんとする勢ある者が清燥湯なり。下後、血液枯燥して余熱これが為に去る能はざる者が此の方なり。傷寒大勢解後、往々此の場合あり。下後に拘はるべからず。

 

犀角湯(張渙)
 此の方は小児驚癇に用ゆる薬なれども、大人肝虚内熱の症、或は熱病後、心神不安の者に効あり。『医綱』の犀角湯の症よりは熱気一等軽き者と知るべし。

 

犀角大黄湯
 此の方は剛痙、壮熱を治する薬なれども、中風初起、熱甚だしく、『金匱』続命湯を与へて応ぜざる者、此の方にて一下するときは、病ゆるむるものなり。

 

三味湯
 弁、上の益智飲の条に見ゆ。

 

三霊湯
 此の方は蚘虫の嘔吐を主とする薬なれども、諸嘔吐に権用すべし。婦人血症の嘔吐に尤も効あり。また往年、棚倉城主松平周防候、脚気衝心、嘔吐甚だしく、諸薬口に納ること能はず。余此の方を与へて嘔気始めて止み、衝逆随いて取る。後他症を発して遂に不起。惜しむべし。

 

三黄知母湯
 此の方は上部の熱甚だしく、歯痛或は歯衂する者を治す。若し齲歯、或は齗疽、牙疳の類にて痛甚だしき者、桃核承気湯に非ざれば効なし。蓋し此の方と葛芩連湯に紅花、石膏を加へて、口瘡を治するとは、古方者流の工夫に出で、面白き経験なり。また此の方の知母を去り朱砂を加へて心気不足、種々の癇症を発する者を治す。また世に用ゆる三黄加芒硝湯は『古今録験』に方名なく、骨熱、身に瘡多く瘰癧瘍腫ある者を療すと云ふ。但し四味蜜丸なり。

 

柴陥湯
 此の方は『医方口訣』第八条に云ふ通り、誤下の後、邪気虚に乗じて心下に聚まり、其の邪の心下に聚まるにつけて、胸中の熱邪がいよいよ心下の水と併結する者を治す。此の症、一等重きが大陷胸湯なれども、此の方にて大抵防げるなり。また馬脾風の初起に竹筎を加へ用ゆ。其の他、痰咳の胸痛に運用すべし。

 

柴芍六君子湯
 此の方は四君子湯の口訣に在る通り、脾気虚加芍薬と云ふ意にて、脾気病は腹筋拘急して痛み、また胸脇へ引付ける形ある故に、柴芍と伍するなり。畢竟は四逆散の症にして、脾胃一層虚候あり。後世の所謂肝実脾虚と云ふ処に用ゆべし。

 

柴蘇飲
 此の方は小柴胡の証にして鬱滞を兼ぬる者に用ゆ。耳聾を治するも、少陽の余邪鬱滞して解せざるが故なり。其の他、邪気表裏の間に鬱滞する者に活用すべし。

 

刪繁浄府湯
 此の方は拓殖彰常の伝にて、簡便にして用ひ安し。若し癖熱甚だしく、腹満、塊ある者は、矢張り本方を与ふべし。

 

三味鷓鴣菜湯
 此の方は駆虫の主剤なり。鷓鴣菜の方、種々あれども、此の方と七味鷓鴣菜湯にて、大抵事足れりとす。若し鷓鴣菜の不応の者は鶴虱を与ふべし。寸白虫には二方共効なし。梅肉丸を用ゆべし。

 

柴梗半夏湯
 此の方は『蘊要』の柴胡枳桔湯に青皮、杏仁を加ふる者なり。枳桔湯の症にして、咳嗽甚だしき者に用ゆ。

 

柴胡三白湯
 此の方は参胡三白湯の症にして、熱勢一等甚だしき者を治す。また暑痢、嘔渇、腹痛不止の者を治す。

 

柴葛解肌湯(家方)
 此の方は余家の新定にして、麻黄、葛根、二湯の症未だ解せず、既に少陽に進み、嘔渇甚だしく、四肢煩疼する者に宜し。『局方』十神湯、『六書』の柴葛解肌湯よりは、其の効優なりとす。

 

桔梗湯(傷寒論)
 此の方は後世の甘桔湯にて、咽痛の主薬なり。また肺癰の主方とす。また姜棗を加へて排膿湯とす。諸瘡瘍に用ゆ。また此の方に加味して喉癬にも用ゆ。また薔薇花を加へて含薬とするときは肺痿、咽痛赤爛する者を治す。

 

枳実薤白桂枝湯
 此の方は胸痺、搶逆の勢甚だしく、心中痞結する者を治す。括蔞薤白白酒湯一類の薬なれども、白酒湯は喘息胸痛を主とし、半夏湯は「心痛徹背不得臥」を主とし、此の方は脇下より逆搶するを主とす。其の趣き各異なり、元来、心気を労し、或は忿怒に因り、胸塞り痛をなし、津液これが為に一身に布くこと能はず、凝唾と成りて出づる者、此の三方を考へ用ゆべし。薤白の奇効あること後世医は多く知らず。新崎国林能くこれを用ひて心腹痛及び膈噎、反胃を治すと云ふ。

 

橘皮枳実生姜湯
 此の方は気塞短気を主とす。茯苓杏仁甘草湯と症を同じふして、一は辛開を用ひ、一は淡滲を用ゆ。医者、機に臨みて宜を酌むにあり。啻に胸痺のみならず、万病皆然り。

 

橘皮竹筎湯
 此の方は橘皮の下気を主として竹筎の潤降を兼ぬ。故に気逆し噦を発する者の主とす。また甘草を多く入るるが手段なり。若し少量なれば効なし。傷寒痢疾などの脱陽して噦する者には効なし。雑病の噦なれば月余の者と雖も必ず効あり。若し濁飲上逆して噦する者は、陽に在りては半夏瀉心湯、陰に在りては呉茱萸湯の主なり。若し胃気衰脱、奔騰して噦する者は、此の数に非ず。死症なり。

 

 

枳朮湯
 此の方は心下堅塊ありて水飲を醸す者を主とす。常の積の類に非ずして、これを按ぜば轆々として声あるものなり。若し挫け難き者は甘遂半夏湯を交ぜ用ゆべし。『回春』の分消湯、実脾飲は皆此の方に原づくなり。丹渓は此の方を丸として痞積を治し、食を消す。即ち健脾、去湿、利水の効あればなり。

 

芎帰膠艾湯
 此の方は止血の主薬とす。故に漏下、胞阻に用ゆるのみならず、『千金』『外台』には妊娠、失仆、傷産、及び打撲、傷損、諸失血に用ゆ。『千金』の芎帰湯、『局方』の四物湯、皆此の方を祖とすれども、阿膠の滋血、芥葉の調経、これに加へて甘草の和中を以てして、其の効妙とす。是を以て先輩は、四物湯は板実而不霊と云ふなり。また痔疾及び一切下血、此の方を与へて血止むの後、血気大いに虚し、面色青惨なること土の如く、心下悸し、或は耳鳴する者、『三因』加味四君子湯に宜し。蓋し、此の方は血を主とし、彼は気を主とす。彼此の各其の宜しき処あるなり。

 

橘皮大黄朴硝湯
 此の方は魚毒を解するの主剤とす。橘皮の魚毒を解すること後世方書未だ著されされども、今、橘皮一味を黒焼にして骨硬に用ゆるときは即ち効あり。古方の鱠、胸中に在るを治する宜なりとす。有持桂里曰く、此れただに鱠の毒を解するのみならず、諸獣魚肉の毒を治すべし。

 

芎帰湯
 此の方は単味にして和血の効、捷なりとす。甘草乾姜湯を合して用ゆれば児枕痛、血気刺痛に即効あり。其の他、血分の症に活用すべし。後世の補血湯は此の方の一等虚する処に用ゆるなり。

 

桔梗湯(外台)
 此の方は肺癰の症、葦茎湯、桔梗湯等を与へて、臭膿減ぜず、日を経て血気衰弱する者を治す。また婦人帯下にて、肺痿状を見す者に運用すべし。

 

既済湯
 此の方は傷寒上熱下冷の症を主とす。『外台』文仲の方に、竹葉石膏湯を竹葉湯と名づけ、「天行、表裏虚煩不可攻者」を療すとあり。此の症、虚寒の候あれば、此の方に非ざれば効なし。既済、未済の旨、能く合点して用ゆべし。

 

芎黄円
 此の方は『楊氏家蔵方』の主治を至的とす。但し、風熱壅盛して肩背強急する者は葛根湯に合し、心下支飲ありて頭昏目赤する者は苓桂朮甘湯に合すれば、別して効あり。また頭瘡、耳鳴等に兼用すべし。

 

帰脾湯
 此の方は『明医雑著』に拠りて遠志、当帰を加へ用ひて、健忘の外、思慮過度して心脾二臓を傷り、血を摂することならず、或は吐血、衂血、或は下血等の症を治するなり。此の方に柴胡、山梔を加へたるは『内科摘要』の方なり。前症に虚熱を挟み、或は肝火を帯ぶる者に用ゆ。大凡そ補剤を用ゆるときは小便通利少なき者多し。此の方も補剤にして、且つ利水の品を伍せざれども、方中の木香、気を下し胸を開く故、よく小便をして通利せしむ。主治に大便不調を云ふは、能く小便を利するを以て、大便自ら止むの理なり。

 

帰荊湯
 此の方は『直指』に風痙とあれども、産後の痙病に格別効あり。余門にては豆淋酒にて煎服す。

 

枳縮二陳湯
 此の方は痰飲にて、胸背走痛する者を治す。先輩の伝に、疝にて背痛する者は『千金』当帰湯を用ひ、痰より来たる者は此の方を用ゆと云ふ。

 

橘皮半夏湯
 此の方は桂麻にて発汗後、表証は解すれども、咳嗽独り止まざる者を治す。若し心下に水気ありて表解せざる者は小青竜なり。また小青竜を与へて心下水気は去れども、咳嗽止まず微熱ある者、此の方に宜し。

 

杏酪湯
 此の方は本飲料なれども、肺痿、労嗽、其の他咳嗽甚だしき者に兼用して宜し。

 

亀板湯
 此の方は痿躄血分鬱濇して振はざる者に用ゆ。産後の痿躄に別して効あり。また黴毒の痿証に附子の効なき者に用ひて宜し。

 

強神湯
 此の方は和州俗間の伝にて、中風の妙薬とす。其の類方四五あり。此の方を最もとす。証に依りて四逆散、附子瀉心湯、桂枝加朮苓附湯に合し用ゆ。其の効更に捷なり。

 

逆挽湯
 此の方は桂枝人参湯に枳実、茯苓を加ふる者にて、其の手段は、逆流挽舟と云ふ譬へにて、下へおりきる力をのなき者は、一応上へずっと引あげて、はづみを付くれば、其の拍子に下だる理にて、虚寒下痢にて後重する者は、桂枝人参湯にて、一旦表へ引き戻し、其の間に枳実、茯苓にておし流すときは、後重ゆるむと云ふ意なり。凡そ後重の証に四逆散あり、白頭翁湯あり、大承気湯あり、訶梨勒散あり、桃花湯あり、此の湯あり。其の後重する所以を弁別して施治すべし。

 

桔梗解毒湯
 此の方は咽喉結毒の主方なれども、凡べて上部の結毒に用ひて宜し。咽喉結毒、此の方にて効なき者は、喉癬湯、五宝丹を用ゆべし。酷毒の者は熏薬に非ざれば効なし。

 

帰耆建中湯
 此の方は青洲の創意にて、瘡瘍に用ゆれども、虚労の盗汗、自汗症に用ひて宜し。『外台』黄耆湯、前胡建中湯、楽令建中湯の類は総べて此の方に胚胎するなり。

 

翹玄湯
 此の方は山東洋の『外台』延年玄参湯に本づきて組み立つと云ふ。瘰癧及び上部の腫物にて、寒熱瘵状に似たる者に用ゆれば、能く鬱火を散じ、気血を通ずるなり。此の方の一等軽き者を逍遙散瘰癧の加減とす。

 

杏仁五味子湯
 此の方は茯苓杏仁甘草湯の症にして、咳嗽甚だしき者を治す。高年及び虚羸の人、厚薬に堪へがたき者、此の方にて意外に効を奏す。

 

奇良附湯
 此の方は黴毒の壊症になり、陰分に陥り、虚羸奈何ともすべからざる者に用ゆ。本邦先哲、黴毒の虚症を治するに、六度煎、七度煎などと云ふ方あれども、此の方を最も優とす。故に諸瘍、虚候を具へ、臭穢近づくべからざる者に与へて間々効あり。

 

綿実湯
 此の方は本邦の俗伝なれども、腰痛に即効あり。腰痛、大抵は当帰建中湯、角石散にて治すれども、卒に腰腹弦急して動揺する能はざる者、此の方に非ざれば治せず。

 

明朗飲
 此の方は風眼のみならず、逆気上衝、眼中血熱、或は翳を生ずる者を治す。今、眼科用ゆる処の芣苡湯、排雲湯、皆此の類方なり。

 

明眼一方
 此の方は藝州、土生氏の家伝にて、諸方に加味して用ゆ。其の中、外障、膿眼の類には別して効あり。

 

芍薬甘草湯
 此の方は脚攣急を治するが主なれども、諸家腹痛及び脚気、両足或は膝頭痛み屈伸すべからざる者、其の他、諸急痛に運用す。また釣藤、羚羊を加へて驚癇の勁急を治す。また松心を加へて淋痛甚だしく昼夜号泣する者を治す。また黴毒諸薬を服して羸劣、骨節仍痛、攻下すべからざる者、松心を加へて効あり。或は虎脛骨を加ふるも佳と云ふ。

 

芍薬甘草附子湯
 此の方は発汗後の悪寒を治するのみならず、芍薬甘草湯の症にして、陰位に属する者を治す。また附子を草烏頭に代へて妙に虫積の痛を治す。また疝、或は痛風、鶴膝風等に活用す。痛風より鶴膝だちになり、綿にて足を包むと云ふ程、冷ゆるに効あり。凡そ下部の冷、専ら腰にかかるは苓姜朮甘なり。専ら脚にかかるは此の方なり。また湿毒の後、足大いに冷ゆる者にも用ゆ。若し余毒あるものは伯州散を兼用すべし。

 

生姜瀉心湯
 此の方は後世、順気和中を用ゆる場へ即効あり。また香砂六君子、香砂平胃など与へて、痰火上格の勢ありて応ぜざる者に用ひて善験あり。また虚労、或は脾労等の心下痞して下利する者を治す。古方皆、乾姜あるときは生姜を用ひず、唯だ此の方のみ生乾共に用ゆ。其の深意味ふべし。総べて半夏、生姜、甘草、三瀉心の証は、水気心中に迫り、心下硬満して痞する者有りて、脇腹は迫りなく、但心下のみ甚だしく、胸中へ上逆して嘔吐噫気し、或は水気下行して腹中雷鳴下利する者、是れ胃中の虚、不和よりなす故に、中には下利清穀と同じやうに見ゆれども全く穀不化の証なり。

 

十棗湯
 此の方は懸飲内痛を主とす。懸飲と云ふものは、外邪内陥して、胃中の水を胸へ引き挙げて、胸に水気をたくはへるなり。また外表の方へ張り出だす気味あって汗出、発熱、頭痛等の証を兼ぬる者もあれども、裏の水気主となりて、表は客なり。故に胸下痛、乾嘔、短気、或は咳煩、水気、浮腫、上気、喘急、大小便不通を目的として此の方は与ふべし。また欠盆に引くを目的として用ゆ。脈は沈にして弦、或は緊なり。また此の方、烈しき処ばかりに用ゆるやうに覚ゆれどもしからず。欬家の水飲に因る者、捨置けば労嗽に変ず。たとひ引痛の症なくとも水飲の候見付たれば直ちに此の方を用ゆべし。前田長庵の経験に、一人手ばかり腫れて余所はさっぱりと腫れず、元気飲食とも故の如き者、此の方を用ひて水瀉を得たれば速やかに愈えたりと。面白き手段と云ふべし。

 

炙甘草湯
 此の方は心動悸を目的とす。凡そ心臓の血不足するときは、気管動揺して悸をなし、而して心臓の血動、血脈へ達すること能はず、時として間歇す。故に脈結代するなり。此の方能く心臓の血を滋養して脈路を潤流す。是を以て動悸を治するのみならず、人迎辺の血脈凝滞して気急促迫する者に効あり。是れ余数年の経験なり。また肺痿の少気して胸動甚だしき者に用ひて一時効あり。竜野の秋山玄瑞は此の方に桔梗を加へて肺痿の主方とす。蓋し『金匱』に拠るなり。また『局方』の人参養栄湯と治を同じくして、此の方は外邪に因りて津液枯槁し、腹部動気ある者を主とし、養栄湯は外邪の有無に拘らず、気血衰弱、動気肉下に在る者を主とす。蓋し後世の人参養栄湯や滋陰降下湯は此の方より出でたる故、二方の場合は大抵此の方にて宜し。但し結悸の症は二方にては治せぬなり。

 

真武湯
 此の方は「内有水気」と云ふが目的にて、他の附剤と違ふて、水飲の為に心下悸し、身瞤動すること振々として地にたをれんとし、或は麻痺不仁、手足引きつることを覚え、或は水腫、小便不利、其の腫虚濡にして力なく、或は腹以下腫ありて、臂肩胸背羸痩、其の脈微細或は浮虚にして、大いに心下痞悶して飲食美ならざる者、或は四肢沈重、疼痛、下利する者に用ひて効あり。方名は『千金』及び『翼』に従ひて玄武に作るべし。

 

四逆散
 此の方は大柴胡の変方にして、少陰の熱厥を治するのみならず、傷寒に癇を兼ぬること甚だしく、譫語、煩躁し、噦逆を発する等の証に特験あり。其の腹形、専ら心下及び両脇下に強く聚り、其の凝り胸中にも及ぶ位にて、拘急はつよけれども熱実は少なき故、大黄、黄芩を用ひず、唯だ心下両肋を緩めて和らぐることを主とするなり。東郭氏、多年此の方を疫症及び雑病に用ひて種々の異証を治すること勝て計ふべからずと云ふ。仲師の忠臣と謂ふべし。

 

四逆湯
 此の方は陰症正面の治方にて、四肢厥逆、下利清穀等が目的なり。其の他、仮熱の証に此の方を冷服せしむる手段あり。矢張り加猪胆汁の意に近し。また附剤に人尿を伍するも、陰物の品を仮りて其の真寒の陰邪と一和せしむるなり。また此の方に烏梅、蜀椒を加へ、温中湯と名づけて、蚘厥を治す。

 

四逆加人参湯
 此の方は亡血、亡津液を目的とす。後世にては参附と一つかみに云へども、仲景、陰虚には附子を主とし、陽虚には人参を主とす。後世にて云はば、参は脾胃に入りて脾元の気を温養し、附は下元に入て命門火の源を壮にするとの相違あって格別のものと心得べし。

 

升麻鼈甲湯
 此の方は陽毒の発斑、錦文の如きを治す。陰陽毒の説明了かならざれども、疫毒斑疹の異症に用ひて効あり。大伝馬街、一老医の伝に、囚獄中に一種の病あり、俗に牢役病と称す尋常温疫の治法験なし。此の方を用ゆるときは特効ありと云ふ。また平安、佐野氏は『董氏医級』の説に本づきて、喉痺の急症を陰陽毒の種類とし、此の方を用ひて治を得る甚だ多しと云ふ。并せて試むべし。

 

十味当帰湯
 此の方は張文仲当帰大黄湯に枳実、茯苓を加ふるものなり。前方の症にして、上部に迫り胸膈より痛脇背へ引く者に効あり。俗に云ふ疝積、衝疝などと云ふ症、不大便の者に宜し。また後世用ゆる処の平肝流気飲などの証に効あり。

 

生地黄湯
 此の方は小児の腹痛に奇効あり。小児の痛に胎毒攻下の剤を与へて愈ざる者、必ず試むべし。凡そ小児の腹痛と否とを決診するには、時を期して頻に啼呼して反張する者、是れを腹痛の候とするなり。

 

蜀漆湯
 此の方は蓐労の主薬とす。大抵は小柴胡加地黄湯、三物黄芩湯にて治すれども、虚熱、盗汗、身酸疼等の症に至ては、此の方と加減逍遙散に非ざれば効なし。

 

紫蘇子湯
 此の方は脚弱上気を治する方なれども、今の脚気には効すくなし。上気は今の喘息のことにて、虚気亢りて喘鳴する者に効あり。故に後世にて足冷喘急を目的として用ゆ。また耳鳴、鼻衂、歯揺、口中腐爛、欬血、水腫、喘満等の症、足冷の候あれば必ず効あり。『易簡方』に「下元虚冷并尊年気虚之人、元有上壅之患、服補薬不得者、用之立効」とあり。此の意、脚気に用ゆるにも、また雑病に用ゆるにも、よき口訣と知るべし。また此の方に天南星、川芎、細辛、桔梗、茯苓を加へて大降気湯と名づけ、痰咳甚だしく或は水気ある者を治す。症に臨みて試むべし。

 

瀉心湯
 此の方は半夏瀉心湯の症にして、唇乾、口燥、嘔逆、引飲と云ふが目的なり。また下利の中に噦逆を発する者に用ひて効あり。

 

瀉脾湯
 此の方は積気留飲にて胸中満し、不食を治す。蓋し中脘結聚するが目的とす。其の外証は動気衝逆なり。『外台』には梔子を加へて遊気湯と名づく。また『千金』の方后に「逐四肢之腫」とあり。是も中脘凝結より来たる水気なり。また常に厚味肉食の人、肩へ凝り、頭痛逆上して耳鳴或は聾する者に効あり。此も必ず中脘に云ひ分あり。夫より気宇鬱塞、頭痛等を発す。世上に癇や積などと称する者に此の症最も多し。一閑斎は竜骨、牡蛎を加へて黄胖に用ゆ。今、脾労癉黄の症、動悸甚だしく鉄砂の応ぜざる者、此の方能く効あり。また上逆烈しき者、石膏を加ふ。是も閑斎の経験なり。

 

七気湯
 此の方は労気、内傷よりして飲食胸膈に阻格し、或は寒熱ありて気衰少力の者を治す。『千金』積気門には桂枝、桔梗なく括蔞根、蜀椒あり。証に依りて用ゆべし。

 

神秘湯
 此の方は『外台』備急に「療久欬奔喘坐臥不得臥、并喉裏呀声気絶、方又名神秘湯」とあるが原方にて、王碩『易簡方』、揚仁斉の『直指方』、東垣の『医学発明』にも同名の方ありて、二三味づつの加減あれば、此の方が尤も捷効あり。吾門、厚朴を加ふる者は『易簡』に一名降気湯の意に本づくなり。

 

謝導人大黄湯
 此の方は天行赤眼、或は睛腫雲翳を生じ、焮痛する者を治す。数日愈えざる者は方後の加減、効験あり。

 

四物湯(外台)
 此の方は小児暴に咳嗽を発し、声唖、息するを得ざる者を主とす。故に頓嗽の劇症、或は哮喘の急症に用ひて効あり。また大人一時に咳嗽、声唖する者に宜し。肺痿の声唖には験なし。

 

七味白朮湯
 此の方の趣意は四君子湯にて、脾胃の虚を補ひ、藿香、木香にて脾気の眠りを醒し、葛根にて陽明の熱を清解し渇を止どめ、下利をとどむと云ふ手段なり。故に小児、吐瀉、羸痩、虚熱亢りて煩渇し、動もすれば驚癇を起さんと欲する者を治す。葛根を陽明の薬とすること古意に非ず。吾門にては唯だ葛芩連湯の虚候に渉る者、此の方を与へて的効あり。

 

四物湯(局方)
 此の方は『局方』の主治にて、薬品を考勘するに、血道を滑かにするの手段なり。夫れ故、血虚は勿論、瘀血々塊の類、臍腹に滞積して、種々の害を為す者に用ゆれば、譬へば戸障子の開闔にきしむ者に上下の溝へ油をぬる如く、活血して通利を付くるなり。一概に血虚を補ふ者とするは非なり。東郭の説に、任脈動悸を発し、水分の穴にあたりて動築最も劇しき者は、肝虚の症に疑ひなし。肝虚すれば腎も倶に虚して、男女に限らず必ず此の処の動築劇しくなる者なり。是れ即ち地黄を用ゆる標的とす。世医多く此の標的を知らず、妄に地黄を用ゆ。故に効を得ずと。亦以て此の方の要訣とすべし。

 

四君子湯
 此の方は気虚を主とす。故に一切脾胃の元気虚して諸症を見はす者、此の方に加減斟酌して療すべし。益ます気虚と雖も、参附と組み合せ用ゆる証とは余程相違あり。唯だ胃口に飲を畜ふる故、胃中の陽気分布しがたく、飲食これに因りて進まず、胃口日々に塞がり、胸膈虚痞、痰嗽呑酸などを発するなり。此の方及び六君子湯、皆飲食進みがたく気力薄きを以て主症とす。故に脈腹も亦これに準じて力を薄く、小柴胡、瀉心湯などの脈腹とは霄壌の違ひあるものなり。

 

参苓白朮散
 此の方は脾胃の弱き人、食事進まず泄瀉し易き者を治す故に、半井家にては平素脾胃の至りて虚弱なる人、動もすれば腹の下ると云ふものに常用にすと云ふ。土佐道寿は、脾胃虚弱の候にて発熱悪寒の症あるを補中益気湯とし、唯だ労倦して飲食進まざるを此の方とす。また此の方の症にして、下利一等重き者、『回春』の参苓白朮散とするなり。

 

十全大補湯
 此の方、『局方』の主治によれば、気血虚すと云ふが八物湯の目的にて、寒と云ふが黄耆、肉桂の目的なり。また下元気衰と云ふも肉桂の目的なり。また薜立斎の主治によれば、黄耆を用ゆるは人参に力を合せて自汗、盗汗を止どめ、表気を固むるの意なり。肉桂を用ゆるは参耆に力を合せて遺精、白濁、或は大便滑泄、小便短少、或は頻数なるを治す。また九味の薬を引導して夫々の病処に達するの意なり。何れも此の意を合点して諸病に運用すべし。

 

四順湯
 此の方は肺癰、咳嗽に効あり。主治の如く五心煩熱、壅悶する者は葦莖湯を合方して用ゆべし。此の方は肺癰のみならず咳嗽声唖の者に用ひて効あり。『外台』の四物湯と伯仲の方なり。

 

参蘇飲
 此の方は血喘を主とす。また産後、瘀血衝心の者にも用ゆ。証に依りて即効ある薬なり。

 

十味剉散
 此の方は血虚、臂痛甚だしき者を治す。また足痛、日を経て脛肉脱し、行歩艱難の者に効あり。

 

赤小豆湯(済生)
 此の方は諸瘡瘍より変して水腫を成す者を治す。老人、小児、血気薄弱、瘡毒揮発する能はず、内壅して水気に変ずる者に宜し。若し血気壮実、毒気内攻して衝心せんと欲する者は、先づ備急円を与へ、快下の後、東洋の赤小豆湯を用ゆべし。此の方と東洋の方とは虚実の弁あり。

 

柿蔕湯
 此の方は後世噦逆の主方とす。蓋し橘皮竹筎湯とは寒熱の別あり。症に随ひて撰用すべし。一老医、此の方に本づき俗間所在の柿の渋汁なる者を濃煎して用ひ、即効を得たりと云ふ。

 

指迷七気湯
 弁、大七気の条に見ゆ。

 

生脈散
 此の方、世に『千金方』より出づると称すれども確ならず。張潔古、李東垣より専ら用ひ始めしなり。其の旨は、寒は血を凝し、暑は気を傷ると云ひて、暑と云ふ者は至りてよく人の元気をそこなうものなり。尤も老人、虚人などの暑につかるること甚だしく、六脈力なく、甚しきに至りては結代するものあり。此の方にて、元気を引き立て、脈を生ずると云ふ意なり。但し暑中には限らず、一切元気弱き脈の病人には医王や真武に此の方を合して用ゆべし。

 

升陽燥湿湯
 此の方は白帯下の主剤とす。身重如山、陰冷如水と云ふが目的なり。白帯下は婦人の内、尤も難治とす。臭気甚だしき者は別して不治なり。此の方は牝戸より俗に水じもと云ふ如き冷水を漏下し腰痛する者に効あり。産科立野竜貞は白葵花を白鶏冠花に代ふるが験ありと云ふ。試むべし。

 

秦艽鼈甲湯
 此の方は風労の主薬とす。虚弱の人、風がぬけそこねて、ぶらりと労熱になりたるを治す。一時清熱の効あり。然れども、日を経て骨蒸の候を具し、肌肉消痩、唇紅、頬赤の者に至りては、此の方の治する処に非ず。此れは柴胡姜桂加鼈の場合の今一段熱つよく、姜桂の熱薬の障りそうな処へ用ゆべし。

 

四物竜胆湯
 此の方、目、風寒に侵され、血熱沸鬱して痛み甚だしき者を治す。或は風眼の症、紫円などにて快下の後、血脈赤渋、開くこと能はざる者を治す。

 

正気天香湯
 此の方は気剤の総司なり。諸気為痛と云ふを以て目的とす。其の他、眩暈、嘔吐、寒熱の類、何れも気の鬱滞より来たるものは、一症を見さば、即ち用ゆべし。蓋し此の方、専ら気の鬱滞を利すれども、血分の申分にも能く応ず。いかんとなれば、血独り能く行らず、必ず気に依りて流行すと云ひて、血分の不和は気に本づくが必然の理なり。それ故、気滞より経行不利する者に用ひて効あり。経行不利を強ひて血分に拘りて療治するは拙作とす。気滞のみならず痃癖、攣急の類、すべて其の腹候を審らかにし、其の源証を治すれば、自然と経事来たるなり。

 

春沢湯
 此の方は能く伏暑の熱邪を解す。此の症、柴苓湯に似たれども、柴苓は往来寒熱を主とす。此の方は清熱滋潤を主とす。混ずべからず。また湿瘟、白虎湯の症に似て、熱気は稍や軽くして湿邪の方重き者に用ゆ。此の症、春夏の交より梅雨比にままあり。心得て経験すべし。

 

升陽散火湯
 此の方は温疫虚症、循衣摸牀、讝語、昏沈、不省人事の者に呉氏の人参養栄湯と互ひに用ひて効あり。就中此の方の主る処は、癇症の如くにして煩悶強く、或は両脇攣痛し、或は下利する者に宜し。また此の方の症にして、困睡し熱つよき者は瀉心導赤散に宜し。一体大承気湯の循衣摸牀は胃実よりすることなれども、また肝経へ邪熱のかぶれ甚だしく、元気主持すること能はざる者有る故に、陶節庵が此の方を制せるなり。升陽散火と云ふは、弁脈法に「陽気下陥入陰中則発熱」と云ふ義に本ずきて名づく。東垣の升陽散火も同義なり。此れは小柴胡湯、逍遙散等より脱胎して組み合はせたるものにて、二方に比すれば、肝火を清凉し解熱するの力つよく、若し此の症にして、一層熱のさばけかた悪く、上心肺に衝逆したる処の肝火すかず、讝言妄語愈いよ盛んなる者は犀角、生芐を加へて効あり。また此の上に脱候ある者は附子を加ふることあり。右等の加味、診察詳らかならざれば用ひ難し。其の具合、斟酌すべきことなり。

 

滋血潤腸湯
 此の方は膈噎の瘀血に属する者に用ゆれども、総べて瘀血の胸腹に在る者に運用すべし。

 

七気消聚散
 此の方は分消湯と伯仲の薬なり。但し蠱脹の疼痛ある者には此の方効ありとす。

 

正心湯
 此の方は帰脾湯の症にして、心風甚だしく、妄言妄行止まず、血気枯燥する者を治す。また小児、肝虚、内熱、精神爽やかならざる者に用ゆ。

 

止痛附子湯
 此の方は瘀血に属する疝にて、疼痛攻注する者を治す。即ち八味疝気剤と表裏の方なり。八味の症にして、陰位に属する者に用ゆ。また通経導滞湯の症にして陰位にある者に用ゆべし。

 

浄府散
 此の方は柴苓湯の変方にして、莪朮、三稜、胡黄連を加ふる者は、峻に胸中心下を推し開き、胃口両脇の間に停畜する処の水飲を消導するときは、癖塊も融和するなり。後世にては莪稜を消塊の品とすれども、消塊軟堅の効は鼈甲に如かず。但破気の能ありと知るべし。また此の方を小児の専治とすれども、大人に用ひて効あり。余、越前藩、川崎氏老母、寒熱腹満甚だしき者を治し、また平岡栄山室、暑疫の熱、固有の塊癖に執着して数日解せざる者を治す。立方の意を会得せば何ぞ大人小児擇ばんや。東郭氏は此の方の症にして、胃気鬱閉一層甚だしき者に麦芽、木香を加へて効ありと云ふ。試むべし。

 

神効散
 此の方は痘瘡、気虚毒壅の主剤とす。膿漿充つること能はず、痘尖内陥するなり。毒壅とは、血紅一片地界を分たず、或は暗黒を帯びて、痒搨の勢あるを云ふ。此の方を以て解毒表托すべし。毒深き者は反鼻を加ふ。

 

参耆鹿茸湯
 此の方は虚痘にて其の色灰白、根に紅暈なく、膿漿を醸すこと能はざる者を治す。また痘のみならず、諸瘡瘍、気虚して血縮む者に効あり。一婦人、乳癰数年愈えず、膿水淋漓、長肉すること能はず、頑肉突起、其の状、乳岩自潰の者に似たり。此の方を与ること数月にして全愈す。

 

腎気明目湯
 此の方は内障眼の主方とす。内障に気虚、血虚の分あり。血虚の者を此の方とす。気虚の者を益気聡明湯とす。其の一等重き者を医王湯加防風、蔓荊子、白豆蔲とす。此の方の一等重き者を十全大補湯加沈香、白豆蔲、附子とす。内障に硬翳、乳汁翳の二証あり。また黒内障、癇家に属する者あり。宜しく専門に就きて弁明すべし。

 

瀉心導赤散
 此の方は瀉心湯、黄連解毒湯の変方にして、解毒湯よりは一等熱勢甚だしく、精神昏乱すれども、承気湯の如く胃中に邪毒ありて発する熱には非ず。後世の所謂心包絡、肝胆経抔に怫鬱して煩悶する症を治す。また升陽散火湯と其の症相似たれども、散火湯は柴胡湯の位にて、動もすれば陰分に陥らんとするの機あり。故に附子を加ふることあり。此の方は其の機なく、唯だからだ中へ遍蔓したる熱甚だしく、精神これが為に昏憒する者に用ゆ。総べて虚症の時疫、困睡する症に此の方の行く処あり。呉氏人参養栄湯、陶氏升陽散火湯の症に比すれば熱強き者なり。また竹筎温胆湯の症と紛れ易けれども、彼は心驚、恍惚、煩熱、不眠を主とし、此の方は神昏、不語、或は夢中独語、形如酔人と云ふ目的なり。方後の如く生芐汁を点入するときは特効あり。

 

滋陰降下湯
 此の方は虚火上炎して喉瘡を生ずる者を治す。肺痿の末証、陰火喉癬と称する者、一旦は効あれども全治すること能はず。また舌疳には此の方と甘露飲を服せしむるより別に策はなし。

 

紫蘇和気飲
 此の方は妊娠気満、飲食消化すること能はず、或は胎気不和なる者を治す。方意は半夏厚朴湯の症に和血を兼ねたる者と心得べし。

 

秦艽扶羸湯
 此の方は肺痿骨蒸の主剤とす。前の秦艽鼈甲湯に比すれば稍や虚候を見す者に宜し。但し彼は骨蒸壮熱、肌肉消痩して咳嗽なき者に用ゆ。此の方は熱強く咳する症に用ゆ。また『外台』解したる五蒸湯の症に似て羸痩甚だしき者に与ふべし。

 

参胡芍薬湯
 此の方は大柴胡湯に半夏、大黄を去り知母、人参、生芐、麦門、甘草を加へたる者にて、其の症も大略大柴胡に似たれども、其の脈腹、大柴胡ほどの実したる処なく、また胸中に飲を畜ふる様子もなく、唯だ熱荏苒として数日を経、津液枯燥して解すること能はざる者に用ゆ。東郭の説に、総べてかやうの処に生芐を主剤として用ゆるは、実症の解熱に石膏を用ゆると同段にて、多年用ひて効験多し。今、此の方の中に知母、生芐と組たるは即ち実症に知母、石膏と組たると同趣意なり。

 

参胡三白湯
 此の方は『嶺南衛生方』の愚魯湯に三白散を合したる者なり。此の症は小柴胡湯を用ゆべき様に見ゆれども、黄芩半夏抔と組み合せては一際するとの勢あり。是れは脈虚数、或は下利抔ありて、動もすれば医王か真武の証に陥らんとして未だ少陽の位を出でざる者に用ゆ。

 

四順清凉飲
 此の方は湯火傷の内攻して、実熱ありて煩躁、便秘する者に用ゆ。大抵は桂枝加竜蛎及び救逆湯にて宜しけれども、実熱の症は此の方、適当とす。

 

七賢散
 此の方は六味地黄丸に沢瀉を去り、人参、黄耆を加ふる者にて、腸癰潰後の滋補のみならず、諸瘡瘍に運用すべし。場合によりては十全大補湯より効あり。余、また傷寒差後、下元虚憊の者に与へて験を得たり

 

四陰煎
 此の方は『景岳』の新方なれども、陰虚火動の症には滋陰降火湯より効あり。降火湯は理屈はつめども寒凉に過ぎて、保肺清金の力反て劣れり。また此の症にして虚弱、浮熱、汗出の者を二加竜骨湯とす。白薇は虚熱を治するの効、優とす。故に附子にも伍し、石膏にも伍するなり。

 

七成湯
 此の方は呉氏専ら五更瀉に用ゆれども、総べて老人脾腎の虚よりして下利、足脛微腫をなす者に効あり。五更瀉は多分疝に属する者にて、大抵真武湯にて、治するなり。

 

四苓散
 此の方は能く雀目を治す。また腸胃の間、水気ありて脬熱下利する者に車前子を加へて効あり。

 

四順飲
 此の方は血熱ありて便秘する者を治す。また地黄を加へて腸胃燥熱、下血する者を治す。老人血燥の便秘、痔家湿熱の便秘には、此の方よく応ずるなり。

 

除湿補気湯
 此の方は腲腿風、俗に所謂酔々と称する者の主薬とす。食禁を厳にし、此の方を与ふるときは、稍や保全すべし。若し此の症にして湿熱甚だしき者は『会解』の清湿湯とす。二方の主治熟読すべし。

 

椒梅瀉心湯
 此の方は蚘虫の嘔吐、心下刺痛を治す。また常に心下寒飲ありて悪心、喜唾する者を治す。

 

薓連湯
 此の方は元丹渓、治禁口痢と『入門』に見へたれども、今運用して、諸気疾、直視、煩悶に用ひて即効あり。また吐血、心下痞鞕の者に用ひて奇験を奏す。故に一閑斎の家にては卒病の要薬とす。薬籠中一日も無かるべからざる者なり。此の方にてゆかぬ時は熊参湯なり。熊胆、人家不可不畜のことは沈括が『筆談』に見ゆ。

 

薓熊湯
 此の方は単捷にて、一時危急を救ふの良剤なり。其の効用は人参、熊胆の性味詳らかにして知るべし。

 

順気剤
 此の方は半夏厚朴湯の変方にして、承気の意を寓す。艮山の趣意は唯だ一気留滞するに因りて、胸中心下に飲を畜へ、或は嘔吐悪心をなし、或は痰涎壅盛、気急、或は種々閉塞の症を発す。是れ皆一気の為す所故、反て淡味の剤を用ゆれば畜飲にも碍らずして痞塞早く緩む。即ち柔より剛を制するの手段なり。今、病者に臨みて、芩連の苦味にて推すべき症もなく、また芍薬、甘草、膠飴の甘味にて緩むべき症にもあらず、唯だ気胸中に迫りて鬱悶多慮するに用ひて効あり。半夏厚朴湯、温胆湯も同類の方なれども、各主証ありて、少しくゆく処を異にするなり。

 

薓半湯
 此の方は大半夏湯の趣向にて面白き方なり。余は此の処に専ら半夏乾姜人参丸料を用ゆ。

 

常山湯
 此の方は蜀漆散と同じく、瘧の截薬なり。常山の方、数種あれども、此の方最も効あり。

 

赤小豆湯(東洋)
 此の方は山東洋の麻黄連軺赤小豆湯と済生の赤小豆湯を斟酌して組立てし方なり。諸瘡、内攻の腫を治する捷なり。斯の人、反鼻を善く使用す。故に此の方及び琥珀湯、再造散に伍して最も効あり。余も亦、其の顰に倣ひ、真武に反鼻を加へて、諸瘡内攻虚腫に変じたる者に効を得たり。

 

十味敗毒湯
 此の方は青洲の荊防敗毒散を取捨したる者にて、荊敗よりは其の力優なりとす。

 

赤石脂湯
 此の方は脱肛及び蔵毒下血に効あり。後世、柴胡、升麻を升提する者として用ゆれども、其の実は、柴胡は肝経湿熱を解する故、下部の瘡に効あり。升麻は犀角の代用にする位にて、清粛止血の効あり。此の方も東垣の理窟に拘泥せず、升麻、赤石脂にて下部を清粛し、当帰、黄耆、白朮にて中気を扶助すれば、自然に下陥も防ぐ者と心得べし。

 

芍甘黄辛附湯
 此の方は芍薬甘草湯に大黄附子湯を合したる者にて、南涯の趣意は攣急に偏痛を兼ねたる者に広く用ゆるなり。近来の製なれども、古方に劣らず効験あり。

 

針砂湯
 此の方は桂苓朮甘湯に針砂、牡蛎、人参を加へたる者にて、黄胖或は奔豚の症、動悸甚だしく、眩暈、短気の者を治す。また下血後動悸にも用ゆ。此の方と連珠飲とは症相近くして、針砂は胸動を主とし、地黄は水分の動を主とするなり。

 

舒筋温胆湯
 此の方は『万安方』に拠ると雖も、出処未だ詳らかならず。近くは伊沢蘭軒の経験にて痿躄を治すと云ふ。余は四逆散、温胆湯の変方として、癇症にて四肢拘攣、腹裏拘急して心志不寧、抑肝散などより其の病一等重き者に用ひて効あり。

 

紫根牡蛎湯
 此の方は水戸西山公の蔵方にして、楊梅瘡、其の他無名の悪瘡に効あり。工藤球卿は痔痛、痘疹に宜しく、また乳岩、肺癰、腸癰を治すと云ふ。悉きことは西山公の『秘録』に見えたり。

 

莘夷清肺湯
 此の方は脳漏鼻淵、鼻中瘜肉、或は鼻不聞香臭等の症、凡べて熱毒に属する者に用ひて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄、或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども、熱毒あり疼痛甚だしき者は、此の方に非ざれば治すること能はず。

 

収嗽湯
 此の方は頓嗽の蚘を兼ぬる者を治す。試むべし。先人済庵翁は此の症に鷓鴣菜、忍冬、甘草三味を用ひて効を取りしことあり。また古人、理中安蚘湯を頓嗽に用ゆること有り。治療は広く考定すべし。

 

新続命湯
 此の方は小児一時壮熱甚だしく発搐する者を治す。外感の発搐は痙病と同じことにて、葛根湯にて大抵宜しけれども、大渇、煩躁する者は此の方を宜しとす。また大人中風の熱症にも与ふべし。

 

薔薇湯
 此の方は大病の人、口瘡を発し、或は口中糜爛して、薬食共に廃する者に用ひて即効あり。一時の権宜に備ふべし。

 

七味鷓鴣菜湯
 此の方は蚘虫にて嘔吐、腹痛する者を治す。椒梅瀉心と類方なれども、彼は安蚘を主とし、此れは殺蚘を主とするなり。

 

白虎湯
 此の方は邪熱肌肉の間に散漫して、大熱大渇を発し、脈洪大、或は滑数なるものを治す。成無已は此の方を辛凉解散、清粛肌表の剤と云ひて、肌肉の間に散漫して汗に成らんとして、今一いき出できらぬ者を辛凉の剤を用ひて肌肉の分を清粛してやれば、ひへてしまる勢いに、発しかけたる汗の出できるやうになるなり。譬へて言はば、糟袋の汁を手にてしめて絞りきって仕舞ふ道理なり。是れ故に白虎は承気と表裏の剤にて、同じ陽明の位にても、表裏倶熱と云ふ。或は三陽合病と云ひて、胃実ではなく表へ近き方に用ゆるなり。

 

白虎加人参湯
 此の方は白虎湯の症にして、胃中の津液乏しくなりて、大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か誤下の後に用ゆ。白虎に比すれば少し裏面の薬なり。是を以て表症あれば用ゆべからず。

 

白通湯
 此の方は四逆湯伯仲の薬にて、葱白は陽気を通ずるを主とし、人尿は陰物を仮りて、其の真寒の陰邪と一和せしむるの手段にて、西洋舎密学の組み合せとは夐に異なり。

 

白通加猪胆汁湯
 此の方は通脈四逆湯に猪胆を加ふると同じ。弁、彼の条に見ゆ。『本邦老医伝』に云ふ此の方は、唯だ吐瀉のみならず、中風卒倒、小児慢驚、其の他、一切暴卒の病、脱陽の症に奇効を建つることあり。然れども目的なしには用ひられず。即ち心下が目的なり。何分一方を働かせ、色々に使ふこと肝要なり。

 

白虎加桂枝湯
 此の方は温瘧を治す。温は温病の温と同じく、悪寒なくして熱するを云ふ。此の病、骨節煩疼が目的にて、肌肉の間に散漫する邪が骨節まて迫り、発せずして煩疼する故、辛凉解散の剤に桂枝を加へて表達の力を峻にするなり。他病にても上衝して頭痛など劇しき者に効あり。中風たちにも用ゆ。東洋は此の処に白虎加黄連を与ふると云ふ。

 

白朮散
 此の方は妊娠胎寒の者を治す。懐娠中、濁水などを漏し、腰冷などを覚ゆる者に用ゆべし。大抵は温経湯にて事すむなり。養胎とあれども、常服の薬にはあらず。

 

檳榔散(外台)
 此の方は胃中不和、水気ありて呑酸或は毎に吐水する者に用ひて効あり。蓋し茯苓飲の症と混ずべからず。彼は停飲宿水を吐して後、心胸間に虚気満ちて不食する者に用ゆ。此の方は吐水すれば一旦快然となる者なり。また五苓散の水逆は水口に入れば即ち吐する者にて、此の方の吐水とは夐に異なり。

 

檳榔散(聖恵)
 此の方は年々春夏の交、脚気を発し、両脚微腫、或は疼痛をなし、歩覆自由ならず、微熱、短気ある者に効あり。余嘗て、閣老松平周防侯、毎年脚疾にて困難せしを、此の方を与へて全愈せり。陳修園は此の処へ鶏鳴散を用ゆれども、此の方を以て優とす。

 

白薇湯
 此の方は婦人卒倒暈絶の症を治す。白薇は総べて血症を治す。『千金方』産後の諸方、徴すべし。

 

百合固金方
 此の方は咽痛、咳血を主とす。咳血は肺傷湯、麦門冬湯地膠連にて大抵は治すれども、咽痛劇しき者に至りては、此の方に非ざれば効なし。

 

木防已湯
 此の方は膈間支飲ありて欬逆、倚息、短気、臥すことを得ず、其の形腫るるが如きものを治す。膈間の水気、石膏に非ざれば墜下すること能はず。越婢加半夏湯、厚朴麻黄湯、小青竜加石膏の石膏、皆同義なり。其の中桂枝、人参を以て胃中の陽気を助けて心下の痞堅をゆるめ、木防已にて水道を利する策、妙と云ふべし。

 

木防已去石膏加茯苓芒硝湯
 此の方は水気久しく去らず、唇口其の皮堅厚にして枯燥し、譬へば枯木の潤沢なきが如く、心下痞鞕、胸中不利、微しく喘気ある者を治す。但し前方に石膏を去り硝を加ふる者は、其の邪已に散じて復聚まるものは堅定の物有りて留りて包裏するが故なり。故に芒硝を以て其の堅定の物を耎にするなり。茯苓は木防已に加援して、飲を引きて下行するなり。

 

木香分気飲
 此の方は気分腫を主とす。桂姜棗草黄辛附湯、枳朮湯にて大概は治すれども、気滞甚だしく虚気上衝して鬱塞する者は、此の方に宜しきなり。

 

小青竜湯
 此の方は表解せずして心下水気ありて咳喘する者を治す。また溢飲の咳嗽にも用ゆ。其の人、咳嗽喘急、寒暑に至れば必ず発し、痰沫を吐きて臥すこと能はず、喉中しはめく抔は、心下に水飲あればなり。此の方に宜し。若し上気煩躁あれば石膏を加ふべし。また胸痛、頭疼、悪寒、汗出づるに発汗剤を与ること禁法なれども、咳して汗ある症に矢張小青竜にておし通す症あり。麻杏甘石を汗出づるに用ゆるも此の意なり。一老医の伝に、此の場合の汗は必ず臭気甚だしと。一徴とすべし。此の方を諸病に用ゆる目的は、痰沫、咳嗽、無裏熱の症を主とす。若し老痰になりて熱候深き者は清肺湯、清湿化痰の類に宜し。

 

小柴胡湯
 此の方は往来寒熱、胸脇苦満、黙々不欲飲食、嘔吐、或は耳聾が目的なり。凡そ此等の証あれば胃実の候ありとも柴胡を与ふべし。老医の説に、脇下と手足の心と両処に汗なきものは胃実の証ありとも柴胡を用べしとは此の意なり。総べて此の方の之く処は両肋の痞鞕拘急を目的とす。所謂胸脇苦満これなり。また胸腹痛み拘急するに小建中湯を与へて愈えざるに此の方を用ゆ。今の人、多く積気ありて風邪に感じ、熱裏に閉じて発せざれば必ず心腹痛あり。此れ時積なりとて、其の針薬を施して治せざる者、此の方にて、速やかに愈ゆ。仲景の言欺くべからず。また小児食停に外邪相兼ね、或は瘧の如きも、此の方にて解す。また久しく大便せざる者、此の方にて程能く大便を通じ、病解する者なり。上焦和し津液通づるの義なり。後世、三禁湯と名づくる者は、蓋し汗吐下を禁ずる処へ用ゆるが故なり。また此の方に五味子、乾姜を加へて風邪胸脇に迫り、舌上微白胎ありて、両脇に引きて咳嗽する者に用ゆ。治験は『本草衍義』の序例に見ゆ。また葛根、草果、天花粉を加へて、寒熱瘧の如く咳嗽甚だしき者に用ゆ。東郭の経験なり。其の他、呉仁斎小柴胡湯加減法の如きは、各方の下に弁ず。故に贅せず。

 

小陷胸湯
 此の方は飲邪心下に結して痛む者を治す。括蔞実は痛みを主とす。『金匱』胸痺の諸方、以て徴すべし。故に『名医類按』には此の方にて、孫主薄述の胸痺を治し、『張氏医通』には熱痰膈上に在る者を治す。其の他、胸満して塞り気むづかしく、或は嘈雑、或は腹鳴下痢し、或は食物進まず、或は胸痛を治す。羽間宋元は此の方に芒硝、甘遂、葶藶、山梔子、大黄を加へて中陷胸湯と名ずけて驚風を治すれども、方意は反て大陷胸湯に近し。

 

小承気湯
 此の方は胃中邪気を軽く泄下するなり。本論にては燥屎の有無を以て二湯の別とす。後世にて、大承気は三焦痞満を目的とし、小承気は上焦痞満を目的とするなり。燥屎の候法、種々あれども、其の的切は、燥屎あるものは臍下を按じて物あり。是れを撫づれば肌膚かはくなり。燥屎と積気と見誤ること有り。これはくるくるとして手に按じて大抵しるるなり。燥屎は按じて痛み少なく、積は痛みて自ら発きさめあり。且つ下焦にあるのみならず、上中焦へも上るなり。此の候なくして潮熱、譫語する者、此の方に宜し。また此の方を潔古は中風に小続命と并せ用ひてあり。

 

小建中湯
 此の方は中気虚して腹中の引っぱり痛むを治す。すべて古方書に中と云ふは脾胃のことにて、建中は脾胃を建立するの義なり。此の方は柴胡鼈甲、延年半夏、解労散などの如く腹中に痃癖ありて引っぱり痛むと異にして、唯だ血の乾き、俄に腹皮の拘急する者にて、強く按ぜば底に力なく、譬へば琴の糸を上より按ずるが如きなり。積聚腹痛などの症ににても、すべて建中は血を潤し急迫の気を緩むるの意を以て考へ用ふべし。全体、腹くさくさとして無力、その内にここかしこに凝ある者は、此の湯にて効あり。即ち後世、大補湯、人参養栄湯の祖にして補虚調血の妙を寓す。症に臨みて汎く運用すべし。

 

旋覆代赭石湯
 此の方は生姜瀉心湯の症一等重き者を治す。『医学綱目』には「病解後、痞鞕噫気不下痢者」を此の方とし、下痢する者を生姜瀉心湯とす。今、嘔吐の諸症、大便秘結する者に用ひて効あり。また下痢止まずして嘔吐し、宿水を吐するに効あり。一は秘結に宜しく、一は下痢に宜し。其の妙表裏にあり、拘るべからず。また噦逆水飲に属する者を治す。周楊俊曰く「予用此方以治反胃噎食気逆不降者神効」と。また試むべし。

 

小青竜加石膏湯
 弁は前に見ゆ。

 

小半夏湯
 此の方は嘔家の聖剤なり。其の内、水飲の嘔吐は極めて宜し。水飲の症は心下痞鞕し、背七八椎の処、手掌大の如き程に限りて冷ゆる者なり。此等の証を目的として此の方を用ゆるときは百発百中なり。また胃虚嘔吐、穀不得下の者、先づ此の方を服せしめ愈えざる者、大半夏湯を与ふ。是れ大小の弁なり。

 

小半夏加茯苓湯
 此の方は前方の症に停飲を兼ねて渇する者を治す。また停飲ありて嘔吐不食、心下痞鞕、或は頭眩する者に効あり。総べて飲食不進の者、或は瘧疾日を経て食不進の者、此の方に生姜を倍加して能く効を奏す。

 

小続命湯
 此の方は中風初起、病経絡にある者の主治とす。『金匱』続命湯とは陰陽の別あり。症に随ひて撰用すべし。楓亭は此の方の症にして、桂附を用ひ難き者に烏薬順気散を用ひ、また此の方の症にして上気強く面浮腫する者に西州小続命湯を用ゆるなり。

 

前胡建中湯
 此の方は黄耆建中湯の変方にして、楽令建中の祖なり。男女積冷気滞、或は大病の後、常に復せず、四肢沈重を苦しみ、骨肉やせ、痛み吸々として気少なく、行動すれば喘乏胸満して気急し、腰背強く痛み、心中虚悸し、咽乾き唇燥き、面体色少なく、飲食味なく、胸肋脹満し、頭重くして挙らず、臥すこと多く、起つこと少なく、少腹拘急して羸瘠する者に用ゆ。凡そ虚労を治するには大温補の剤にて、医王抔よりは能く応ずる者なり。

 

小檳榔湯
 此の方は脚気嘔気ありて衝心せんとする者を治す。併し唐侍中の一方に比すれば其の症軽し。故に小檳榔の名あり。また此の症にして、水気上部に盛んなる者は犀角旋覆花湯を与ふべし。

 

生姜甘草湯
 此の方は肺熱候なき者に用ゆ。しかし甘草乾姜湯に比すれば潤燥の剤なり。故に甘草乾姜湯は肺寒を主とし、『聖済』人参養栄湯は肺熱を主とし、此の方は其の中間に之く者なり。

 

正観湯
 此の方は痢病の壊症になりて百行止まず、魚腸の如く、或は黒瘀の者を下し、切痛甚だしき者を治す。後世にては真人養臓湯を用ゆれども、此の方のかた、其の力優にして虚熱ある者、最も宜しとす。

 

旋覆花湯(外台)
 此の方は淡飲胸膈に凝結し、飲食これが為に阻隔して下らず、其の症、膈噎に類すれども、心下に停食ありて真の膈噎にあらず、数日解せざる者を治す。

 

旋覆花湯(聖済)
 此の方は木防已湯の症にして、飲結今一等甚だしく、支飲の治を施して動かざる者を治す。胸膈実痞と云ふが此の方の目的にて、心下痞堅するのみに非ずして、胸膈に痞して喘あり、咽乾き、気息臥すことを得ず、下証ある者に用ゆ。また此の方を与へて諸症緩むと雖も復発する者、木防已湯に宜しきことあり。参照して互ひに用ゆべし。

 

小柴胡加地黄湯
 此の方は許叔微、熱入血室の主剤とす。経水の適断に拘らず、血熱の甚だしき者に効あり。凡そ血熱を治するに三等の別あり。頭疼、面赤、耳鳴、歯痛の者は小柴胡加石膏に宜し。血気刺痛、心下に衝逆し、嘔吐する者は小柴胡加紅花に宜し。五心煩熱、日晡、瘧の如く寒熱を発する者、小柴胡加鮮芐に宜しとす。

 

逍遙散
 此の方は小柴胡湯の変方にして、小柴胡湯よりは少し肝虚の形あるものにして、医王湯よりは一層手前の場合にゆく者なり。此の方、専ら婦人虚労を治すと云へども、此の実は、体気甚だ強壮ならず、平生血気薄く、肝火亢り、或は寒熱往来、或は頭痛、口苦、或は頬赤、寒熱如瘧、或は月経不調にて申分たへず、或は小便淋瀝渋痛、俗に云ふ「せうかち」の如く、一切肝火にて、種々申分あるものに効あり。『内科摘要』に牡丹皮、山梔子を加ふる者、肝部の虚火を鎮むる手段なり。譬へば産前後の口赤爛する者に効あるは、虚火上炎を治すればなり。東郭の地黄、香附子を加ふる者、此の裏にて、肝虚の症、水分の動悸甚だしく、両脇拘急して思慮鬱結する者に宜し。

 

清心蓮子飲
 此の方は上焦の虚火亢りて、下元これが為に守を失し、気淋白濁等の症をなす者を治す。また遺精の症、桂枝加竜蛎の類を用ひて効なき者は上盛下虚に属す。此の方に宜し。若し心火熾んにして妄夢失精する者は竜胆瀉肝湯に宜し。一体此の方は脾胃を調和するを主とす。故に淋疾下疳に困る者に非ず。また後世の五淋湯、八正散の之く処に比すれば虚候の者に用ゆ。『名医方考』には労淋の治効を載す。加藤謙斎は小便余瀝を覚ゆる者に用ゆ。余、数年歴験するに、労動力作して淋を発する者と疝家などにて小便は佳なり通ずれども跡に残る心持ありて了然たらざる者に効あり。また咽乾く意ありて小便余瀝の心を覚ゆるは猶更此の方の的当とす。『正宗』の主治は拠とするに足らず。

 

清心温胆湯
 此の方は『千金』温胆湯の症にして、肝気亢盛の者を治す。温胆湯は事に触れて驚き易く、臥寐し難き者は心胸中畜飲の故なり。それを軽く疏通すれば愈ゆ。此の方は一等重く、肝気亢りて、心下両脇へかけて拘急、心気鬱塞し、或は怒火頻に動き、癇状を為す者に宜し。竹筎温胆湯と髣髴すれども、此の方は四逆散の意を含めり。さて方名を抑胆に作るの益胆に作るのと議論あれども、矢張り温胆に作るが穏かなり。

 

清暑益気湯(内外傷弁)
 此の方は注夏病の主剤なり。虚弱の人、夏になれば羸痩して倦怠し、或は泄利、或は乏喘し、四肢煩熱する者を治す。此の方、東垣の創意にて多味に過ぎたり。即効を取るには近製の方を用ゆべし。老人などの持薬には此の方を宜しとす。余は近製方の条下に具す。

 

喘理中湯
 此の方は寒喘を主とす。傷寒陰分の喘は大抵死証なれども、雑病に在りては然らず、寒飲を温散すれば愈ゆるものなり。但し四十以上の人、卒然として喘息を発し四肢厥冷する者、肺絶の候なり。不治とす。

 

清肺湯
 此の方は痰火咳嗽の薬なれども、虚火の方に属す。若し痰火純実にして脈滑数なる者は龔氏は瓜蔞枳実湯を用ゆるなり。肺熱ありて兎角せきの長引きたる者に宜し。故に小青竜加石膏湯などを用ひて効なく労嗽をなす者に用ゆ。方後の按に「久嗽不止、成労怯者」とあり。着眼すべし。

 

清上防風湯
 此の方は風熱上焦のみに熾んに、頭面に瘡癤毒腫等の症あれども、唯だ上焦計のことにて、中下二焦の分、さまで壅滞することなければ、下へ向けてすかす理はなき故、上焦を清解発散する手段にて、防風通聖散の如き硝黄、滑石の類は用ひぬなり。凡べて上部の瘡腫に下剤を用ゆることは用捨すべし。東垣が「身半以上天之気、身半以下地之気」と云ふことを唱へ、上焦の分にあつまる邪は上焦の分にて発表清解する理を発明せしは面白き窮理なり。

 

椒梅湯
 此の方は蚘虫の腹痛を治す。其の形症、実に似たれども、殺虫の薬応ぜざる者に効あり。其の一等軽き者を椒梅丸とす。

 

喘四君子湯
 此の方は其の人、胃虚して時々喘息を発する者に宜し。熱なくして短気が主になる症なり。若し熱あれば、一旦、麻杏甘石の類を用ひて解熱すべし。当帰を痰に用ゆること粉々説あれども、『千金』紫蘇子湯、清肺湯、蔞貝養栄湯の類、皆降気を主とするなり。本草を精究すべし。

 

清湿化痰湯
 此の方は痰飲四肢に走注して痛む者を主とす。走注の理は控涎丹の主治に詳らかなり。控涎丹の症一等軽き者、此の方を与ふべし。また痰結して胸膈痛み、或は肩背塊を生じ痛みある者に用ゆ。また首筋の辺に痰集りて結核を生じ、瘰癧気腫の如く数多く、累々として久しく愈えざる者、乳香、没薬、海石、朴硝を加へて治すること妙なり。世医此の症を瘰癧として誤治すること有り。瘰癧は塊に根有りて深し。此の塊は根なくして浅し。また手を以て推すに痛まず、瘰癧は痛むなり。混ずべからず。凡べて湿痰流注経絡関節不利と云ふが目的なり。

 

清熱補気湯
 此の方は元、中風虚熱、口舌無皮の状の如きを治する方なれども、今、産後、口舌痛み、消黄、朱石の類を服して効を見ざる者に運用すれば、其の験、桴皷の如し。蓋し此の方は『明医雑著』の柴胡清肝散と表裏にて、彼は肝火亢盛、唇舌腫裂する者を治し、此れは血虚、口舌糜爛する者を治す。

 

消疳飲
 此の方は小児脾疳、腹肚大の者に用ゆ。主治にある青筋を顕すものは大抵不治なり。

 

清暑益気湯(近製)
 此の方は注夏病を主とす。『医学入門』、「毎遇春末夏初、頭疼脚軟、食少体熱、名注夏病、治之方、補中益気湯去升柴加黄柏、芍薬、五味子、麦門冬」即ち此の方一類の薬なり。また張三錫新定方には麦門五味なく升麻姜棗あり。何れも其の宜しきに従ひて選用すべし。また『弁惑論』升陽順気湯云ふ「治飲食不節、労役所傷、腹脇満悶、短気遇春則口淡無味、遇夏雖熱猶有悪寒、飢則常如飽、不喜食冷物云々」、是れも亦注夏病の主方なり。然れども注夏病は大抵此の方を服せしめ、『万葉集』に拠りて鰻鱺を餌食とし、閨房を遠ざくれば、秋冬に至りて復する者なり。『金匱』云ふ「春夏劇、秋冬瘥」と。亦此の病を謂ふに似たり。

 

消風散
 此の方は風湿血脈に浸淫して瘡疥を発する者を治す。一婦人、年三十許、年々夏になれば惣身悪瘡を発し、肌膚木皮の如く痒搨、時に稀水淋漓、忍ぶべからず。諸医手を束ねて愈えず。余、此の方を用ゆること一月にして効あり。三月にして全く愈ゆ。

 

清湿湯
 此の方は湿熱にて、腰脚痠疼沈重、沙墜に似て、世に所謂酔々に疑似する者を治す。此の湯の一等重き者を除湿補気湯とするなり。

 

清凉至宝飲
 此の方は痧熱を清するを主とす。『医宗金鑑』に陰毒、陽毒は今の所謂痧病なりと云ども、二病共に稀有の証にして弁明しがたし。一種奇熱の者あり。此の方を用ひて効あり。後世、痧病に黄連解毒湯を用ゆ。然れども彼は下痢洞泄を主とす。此れは痧熱を主とするなり。

 

消水聖愈湯
 此の方は陰水の主剤とす。陳修園の発明に出で、場合に因りて意外に効を奏す。即ち大気一転の手段なり。なほ桂姜棗草黄辛附湯の条を参照すべし。

 

生化湯
 此の方は『景岳全書』『幼々集成』等に出でたれども、龔の隶赤の『女科秘方』に載せたる論、最も精し。其の主意は、凡そ産後に血気順行すれば、畜瘀消して、新血滋生するの理必然なり。故に古より桂枝茯苓丸を用ひて瘀血を逐ふを主薬とす。然れども脱血過多の症には、参、附、地黄、黄耆など専用して温補すべきことなれども、概して地黄杯用ゆるは宜しからず。是に於て、芎、帰、姜、桃を以て生化の運用を成すこと実に妙手段と云ふべし。若し平素、疝にて子宮痛の者か、或は月信痛堪へがたき者は桃仁を去りて用ゆるを佳とす。

 

消疳退熱飲
 此の方は消疳飲の症にして、稍や実に属する者を治す。水腫脹満の類、其の腹硬くして石の如く、唇色は朱の如く、身に熱ありて小便赤く、脈数なる者、此の方奇効あり。虫積の症にして水腫皷脹となる者、此の方に油断すべからず。唇朱の如きと云ふが一つの目的なり。

 

消暑飲
 此の方は『嶺南衛生方』の消暑湯に石膏を加へたる者、往年暴瀉流行の時、頗る効を得たり。治験は『治瘟編』に見ゆ。

 

折衝飲
 此の方は『婦人良方』の牛膝散に加減したる者なり。産後、悪露尽きざる者、及び婦人瘀血に属する諸病に用ひて宜し。世医、桂苓丸と同様に見做すれども、桂苓丸は癥瘕を主とし、此の方は行血和潤を主とするなり。

 

小解毒湯
 此の方は内注下疳の淋痛を治す。若し膿血淋瀝、痛み堪ゆべからざる者は解毒剤に加阿膠、滑石、車前子を与ふべし。解毒剤は本、香川氏江州の民間より伝へたりと云ふ。漢方には此の類の方なし。運用して其の効の妙を知べし。

 

七気飲
 此の方は玄冶翁の『燈下集』に、大七気湯に加減して婦人臍下痛に経験せり。証に臨みて運用するときは虫積のみならず、諸積痛に験あり。

 

清肌安蚘湯
 此の方は小児蚘虫より寒熱を発する者に効あり。似瘧如労の者は浄府湯よりは能く応ずるなり。

 

逍遙解毒湯
 此の方、湿労を治するの主剤とす。逍遙散は小柴胡湯の腹形には手弱き剤なり。故に当帰、芍薬、柴胡、甘草にて心下両脇をゆるめ、白朮、茯苓にて胃中の水飲を消導する中に、梔子の瀉火、連翹の湿熱を清する、薏苡の濁湿を駆る、金銀花の瘡毒を制する品を伍入して、むっくりと精気を損せず邪毒を去るの工夫、青洲翁の精義入神と謂ふべし。

 

 

 

参考文献
『近世漢方医学集成95 浅田宗伯(一)』(名著出版)
『近世漢方医学集成96 浅田宗伯(二)』(名著出版)
『勿誤薬室「方函」「口訣」釈義』(創元社)


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