漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

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煎じ薬のススメ1−煎じ薬はレギュラー珈琲−

 ドリップ仕立てのレギュラーコーヒーとフリーズドライのインスタントコーヒー、どちらが美味しいですか。もちろん、挽きたてのレギュラー珈琲ですね。この当然のことが、ことクスリになると、どういうわけか不思議なくらいにあやしくなるのです。
 これには理由があります。「クスリ」といえば一般的には化学薬品である「新薬」を思い浮かべます。このため、医薬品というカテゴリーでひとくくりに考え新薬と漢方薬を混同してしまうからです。新薬は化学的に合成されていますから、病院などで処方される医薬品のほとんどが「一種類の成分」しか入っていません。「このクスリの有効成分は……」と説明するのはこのためです。
 「麻黄(まおう)」という薬草があります。ふるくから「咳止め」効果のあることが経験的にわかっていました。この薬草は自然の植物ですから、実際には数え切れないくらいの成分が入っています。この中から「エフェドリン」という成分に強力な鎮咳作用が認められました。そこで、エフェドリンだけを集めた(製剤化した)ものは「新薬」ということになります。
 新薬であるエフェドリンと薬草の麻黄を鎮咳作用という一面からみれば、もちろん新薬であるエフェドリンの方に軍配は上がります。ならば漢方薬も中に入っている有効成分だけをかき集めればよいではないかという話になります。ところが、これでは全くといって良いほど漢方薬特有の薬効が得られないのです。
 なぜなら、ただの一種類の薬草をとっても相当数の成分が混在しているわけですから、たくさんの薬草をいっしょにした漢方薬では、天文学的な成分が混在していることになります。さらに、漢方薬はもともとほとんどが煎じ薬です。つまり、水溶液にして熱をかけるのですから、無数の成分はもはや追跡不可能な化学的変化を起こします。この追跡不可能な結果こそが「漢方薬本来の薬効」なのです。
 ようするに、アルミパックに入っていたり錠剤化されている漢方薬は、見かけ上ほかの新薬とそっくりですが、決して新薬ではなく、やっぱり漢方薬なのです。これら製剤化されたものはインスタントコーヒーや料理に使う「スープの素」と共通点があります。利便性です。チャーハンを作るのに鶏ガラから準備する家庭はほとんどないはずです。一方、便利だからといって中華料理の専門店でもスープの素を使うでしょうか。いくらなんでもこれではプロの味は出せません。
 粉薬や錠剤になった漢方薬はたいへん便利ですが、あくまでも「簡易型漢方薬」、つまりインスタントコーヒーなのです。そこで「煎じ薬のススメ」です。

(2004年6月)


煎じ薬のススメ2−漢方薬がうまく効かない方へ−

 「25番はまったくで、24番は効いたような効かなかったような……」などとお話される方がいます。ご存じの方も多いかとおもいますが簡単に説明しておきましょう。粉薬(エキス製剤)になった漢方薬の袋には、たいてい固有の番号が印刷されています。具体的にはこちら(「病院でもらった漢方薬の効能効果」)をごらんください。
 さらに「24番の粉薬で効果がいまひとつなので、23番に変えてもらった」という話もよくあることです。これで23番が無効ならば「もう私には漢方薬は効かない」というふうに考えてしまうのももっともです。さて、番号はともかく、漢方薬が効かなかったと感じていらっしゃる方は、実際には粉薬(簡易型漢方薬)での結果をおっしゃっていることが多いようです。
 ところで、もし若干の効果があった24番の粉薬を漢方薬本来の煎じ薬で服んでみたならばどうっだったのでしょうか。便利な粉薬を服用していたために本当は効果があったはずの処方を見逃してしまうこともあるのです。
 そこで、現在服用中の粉薬の効果が今ひとつと感じていらっしゃる方は、まずは「煎じ薬」に変えてみることをおすすめします。すこしでも効果があるという「事実」があるわけですから、同じ内容の処方を煎じ薬にして服用してみる価値は大いにあります。「灯台下暗し」というではありませんか。あなたに合う処方は足下にあるかもしれません。
 「さんざんいろんな漢方薬を服んではみたけれど全然効かなかった」という方もいらっしゃることでしょう。もし、粉薬や錠剤しか服用したことがなければ、一度、煎じ薬をお試しください。煎じる手間はかかりますが、それ以上に効果が期待できます。

(2004年7月)


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