漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

漢 方 散 歩 道 15

脳によい漢方薬!

 脳卒中は死亡原因としても高く、後遺症の問題もあるため本人はもとより家族の心労も大変です。脳卒中の原因の多くは血管の老化です。血管をゴムホースに例えると「ホースの劣化」と言えます。硬く弾力性がなくなり破れやすくなった状態です。もちろんゴミも溜まりやすくなっています。
 長年使えばホースの劣化は免れません。血管の老化も同じです。理想は寿命を全うするまで破れたり詰まったりしなければいいわけです。そこでクローズアップされるべきは「予防」です。
 中高年の方で高血圧の薬を常用していらっしゃる方も多いはずです。少々血圧が高くても頭痛やめまいの症状がなければ、実際の生活には差し支えはありません。ところが血圧が高いと血管がつねに高圧にさらされていることになるため、血管の老化(劣化)を早めることになります。つまり高血圧の薬の本当の目的は脳卒中の予防です。
 この予防に関しては漢方薬の得意とするところです。今回は脳によい漢方薬をご紹介します。


(1)40代におすすめしたい漢方薬!

 40代前後になるとすでに老化がはじまっています。とはいえ症状はほとんど感じないはずですから、健康ならば血管の劣化もそう深刻になるレベルではありません。ここは血管内のゴミ掃除に重点をおいた漢方薬を予防薬としておすすめします。血府逐オ湯(けっぷちくおとう)です。
 「血府(けっぷ)」というのは血流に関する臓器のことです。具体的には肝臓や心臓や血管のことです。「逐オ(ちくお)」は、ゴミ掃除の意ですから、文字通り血管内のゴミ掃除をする漢方薬です。成人病が気になり出したら是非お試しください。ただし低血圧の人は服用してはいけません。
 血府逐オ湯が近くの薬屋さんになければ、疎経活血湯(そけいかっけつとう)でもかまいません。予防薬的な使用が目的ですから薬効に大差はありません。


(2)50代以降におすすめしたい漢方薬!

 50代にはあまりこだわらないでください。50代以降は脳卒中の好発年齢という意味です。50歳くらいになると実年齢と肉体年齢に相当な差が出てきますから。
 なにも症状がないのに「脳ドック」で「脳梗塞」を指摘されることもあります。すでにゴムホース(血管)が劣化していることを意味します。劣化したものを元通りにすることはできませんから、長持ちするように対応することが現実的な予防になります。
 釣藤散(ちょうとうさん)をおすすめします。釣藤散はもともと首から上の症状によく使用されます。頭痛、耳鳴り、ふらつき、健忘、不眠、のぼせなどがそうですが、脳血管障害の時にあらわれる症状とよく似ています。このような状況にならないように釣藤散で予防するというわけです。
 富山医科薬科大学の研究結果によれば、釣藤散の主薬である釣藤鈎(ちょうとうこう)には、脳の血流が低下したときに脳内に放出され神経毒となるグルタミン酸の影響を軽減する効果が認められています。


(3)話題になった加味温胆湯について!

 加味温胆湯は釣藤散によく似た骨格をもつ漢方薬です。両者とも二陳湯(にちんとう)という処方を展開したものです。二陳湯を臨床で単独使用することはあまりありませんが、「痰迷心竅(たんめいしんきょう)」という漢方的な考えから意識障害に応用する漢方薬にはよく内包されています。
 今年の6月、テレビの報道番組でアルツハイマー(AD)に漢方薬の加味温胆湯(かみうんたんとう)が効果的との特集がありました。信頼性の高い番組であったため当方にも翌日から電話やメールで相当数の問い合わせがありました。お問い合わせいただいた方には「アルツハイマーに対する漢方的な臨床例自体が多いわけではないので効果のほどは正直言ってよく判りませんが、試してみる価値はあると思いますよ」とお答えしました。
 さて、報道内容の概略に関しては、すでに『日経メディカル』1999年8月号に掲載されています。興味深かったのは「構成生薬の遠志(おんじ)に、アルツハイマー病におけるコリン系機能消失を補う強いコリンアセチルトランスフェラーゼ活性化作用が認められた」という点です。言葉がむずかしいので少し解説しておきます。


コリンアセチルトランスフェラーゼ活性化作用に遠志(おんじ)?

 最初に申し述べておきますが、アルツハイマーの原因に関して完全に解明されたわけではありません。このためいろんな説があります。「アセチルコリンの合成力の低下」もそのひとつです。
 我々が自由に動くことができたり考えたりできるメカニズムは神経から神経へと次々に情報が伝達されるからです。神経と神経との間で情報の橋渡しをしている物質を「神経伝達物質」といいます。種類はたくさんありますが、そのひとつが「アセチルコリン(ACh)」です。もちろん脳内でも重要な働きをしています。
 アルツハイマー病になると脳内でのアセチルコリン合成に支障をきたすことがわかっています。アセチルコリンが不足すると神経間の伝達が十分に行われなくなるため、記憶などにも影響してきます。
 さて、この情報の橋渡し役であるアセチルコリンがどうやって合成されるかと言えば、「コリン」と「アセチルCoA」という物質から作られています。さらにこの合成を促進させるには長ったらしい名前の「コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)」という酵素が必要です。
 つまり、漢方薬で使用する「遠志(おんじ)」にはアセチルコリンを合成するときに必要な長ったらしい名前の酵素(ChAT)を活性化(パワーアップ)する強い作用が認められたと言うことです。

 
(2001年12月)


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