漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

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痔と漢方薬1・・・便利な処方、乙字湯!

 秋も深まり、いよいよ紅葉シーズン。もみじ狩りをしながらの露天風呂などはいかがでしょう。現実には夢のまた夢といったところでしょうか。ともあれ旅行には最適な季節です。旅先はふだんの環境とちがうため便秘になちがちです。美味しい料理を前にいつもよりお酒もすすむため、「痔の出た状態」で帰路につくという情けないこともおこります。
 こんな時にも便利な漢方薬があります。乙字湯(おつじとう)をおすすめします。


(1)そもそも痔は肛門周囲の静脈のうっ血!

 肛門の周囲には「静脈叢(じょうみゃくそう)」といって、たくさんの静脈が集まっています。何らかの事情で静脈の一部がうっ血して腫れてきたものを「痔核(じかく)」と言います。いわゆる「いぼ痔」です。いったん腫れると悪循環になり、いつのまにやら俗に言う「痔もち・痔ぬし」になってしまいます。

肛門周囲の静脈がうっ血

うっ血した静脈が腫れてくる

腫れた箇所を排便時に刺激する

ますます腫れてくる

 旅行では乗り物に長時間すわることが多く、これもまた痔を悪化させる要因となります。「うっ血」が痔の根本原因ですが、腫れているため、患部の摩擦により炎症も起こります。
 

(2)痔の治療原則

  a.患部の炎症を止める
  b.静脈のうっ血を改善する
  c.便秘を予防する

 これらは痔の治療における大原則です。痔になると坐薬を使うことが多いわけですが、坐薬はaの「患部の炎症を止める」ことに重点があります。炎症がおさまれば一旦は軽快したように思えますが、静脈のうっ血状態が改善されていないと、また再発する結果となります。
 cの「便秘の予防」も大切です。便が硬いか軟らかいかで肛門周囲にかかる負担はちがいます。硬いと「いきむ」ためうっ血を助長します。
 

(3)乙字湯をおすすめする理由

 乙字湯には炎症を止める薬物、うっ血を改善する薬物、便秘を予防する薬物が配合されています。つまり痔の治療原則のa、b、cがこの漢方薬に凝縮されているわけです。
 さらに「プラスα」の効果もあります。痔核などのように垂れ下がったものを「引き上げる」薬物が配合されています。このような効果を漢方用語では「昇提(しょうてい)作用」とよんでいます。



 乙字湯の錠剤や粉薬は漢方専門薬局でなくても大体の薬屋さんにおいてあります。坐薬との併用もgoodです。是非お試しください。ただし市販の乙字湯の適応は「ひどくない痔」です。つまり生活にはさほど差し支えない程度の状態とお考えください。重篤な場合には漢方薬の適応かも含めて専門家に相談されることをおすすめします。
 乙字湯で早く爽快な毎日を!

(2001年10月)


痔と漢方薬2・・・痔の再発予防!

 腫れや痛みがひくと治ってしまったような気がするのが痔です。ほとんどは一時的に軽快しているに過ぎません。
 肛門の内側(直腸側)のいぼ痔を「内痔核(ないじかく)」、外側を「外痔核(がいじかく)」と分けますが、両方が同時に見られることもしばしばですから、漢方の治療では区別はしません。ところで、肛門の直腸側(正確には歯状線より上側)には知覚神経がありません。内痔核は「見えない、痛まない」ために放置しやすい痔と言えます。
 再発予防で大切なのは症状のない時にこそ根気よく治療を継続することです。


(1)再発を予防するには

 痔の治療の3大原則は「炎症止め」、「うっ血の改善」、「便秘の予防」ですが、症状のない時にも、これらの原則は同時に続けなければなりません。ただし痔の本体は「静脈のうっ血」ですから、緩解期にはうっ血の改善に力点を置かなければなりません。したがって漢方治療もこの点を考慮した薬物配合が必要となります。

(2)再発予防の漢方薬

便通の良好な方

 便利な漢方薬乙字湯桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)との併用が効果的です。乙字湯のうっ血改善効果がアップします。

便秘がちな方
 便利な漢方薬乙字湯桃核承気湯(とうかくじょうきとう)との併用が効果的です。乙字湯のうっ血改善効果および便秘予防効果がアップします。



 桂枝茯苓丸も桃核承気湯も、一般的には月経痛などの婦人科疾患に使用されます。これは両者とも骨盤内臓器のうっ血にすぐれた効果を発揮する漢方薬だからです。このため今回の痔や慢性の前立腺炎などにも応用することができます。痔の再発予防に緩解期にこそお試しいただきたい組み合わせです。服用量に関しては、ひとまず半量ずつで構いません。
 
(2001年11月)


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