漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

漢 方 散 歩 道 13

秋から冬にかけての喘息予防

 我々は様々な自然界の影響を受け日々生活しています。もちろん病気も環境によって左右されます。漢方では自然環境と人体の関係を「天人合一(てんじんごういつ)」という概念にもとづき、とても重要視してきました。今で言う「生気象学」と通ずる考え方です。
 秋から冬にかけて喘息をはじめとする呼吸器の疾患が増えます。朝起きたときにのどの痛みを感じることが多くなります。空気が乾燥してくるため、呼吸器はデリケートになりがちです。デリケートな粘膜は喘息にとっては大敵です。ちょっとした刺激で発作を誘発するからです。
 もちろん空気の乾燥だけが発作の原因ではありません。気圧や気温の変化、ストレスなどもトリガーとなります。
 ひとたび発作が起こると、吸入や点滴などでともかく発作を止めることに終始しなくてはなりません。このため生活の質を向上するためには、発作の予防が第一であることは言うまでもありません。
 ところが、唯一確実な予防法がないのも喘息です。ですからいろいろな予防法を積み重ねることが大切です。そこで漢方薬です。予防法のひとつとして漢方療法はとても有効です。
 今回は秋から冬にかけての喘息予防薬として味麦益気湯(みばくえっきとう)柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)小柴胡湯(しょうさいことう)の3種類の漢方薬をご紹介します。


(1)何ともないときの予防薬

味麦益気湯(みばくえっきとう)

 本方は空気の乾燥によって弱った気道粘膜を修復してくれる漢方薬です。また様々な刺激に対する気道のバリア的な役割も果たします。長期に服用することで呼吸機能や胃腸機能を強化します。
 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方薬に五味子(ごみし)麦門冬(ばくもんどう)という薬物を加えたものが味麦益気湯です。喘息の予防薬として是非おすすめしたい処方ですが、残念ながら粉薬や錠剤は発売されていません。ただし2種類の漢方薬を合わせることで代用できます。合わせる漢方薬は補中益気湯と生脈散(しょうみゃくさん)です。

一貫堂柴胡清肝湯(いっかんどうさいこせいかんとう)
 本方は呼吸器系や耳鼻科系の炎症に応用する漢方薬です。もともと長期連服することを前提に創製されました。炎症体質の改善に有効です。
 喘息は気道のアレルギー反応による炎症ですが、喘息をもつ患者さんの中にはもともと炎症しやすい体質の方が結構いらっしゃいます。たとえば、蚊に刺されたあとが腫れやすかったり、かぜをひくと高熱になりやすかったりするのもこのタイプの傾向です。炎症しやすい体質ですから暑がりです。
 炎症は生体の防御反応ですから、ある意味元気で抵抗力旺盛なタイプとも言えます。このため喘息さえなければ基礎体力は年齢以上の方が多いように思います。
 炎症体質を軽減していくことで喘息発作を起こしにくくします。お試しください。同様の理由でアトピー性皮膚炎にもよく応用されています。


(2)発作の予兆を感じるときの予防薬

小柴胡湯(しょうさいことう)

 発作とは言えないけれど、なんとなく呼吸がおかしかったり、強く息を吐いたときにかぎって喘鳴を感じるなど、発作の予兆ともとれることがあります。すでに気道の炎症がはじまっているかもしれません。
 本方はもともと「かぜ薬」です。それもたちの悪いかぜの中期や後期に使用するため創製された処方です。たちの悪いかぜは長引くため、じわりじわりと炎症が進行します。炎症を取りつつも抵抗力を落とさないように配合が考慮されているのが特徴です。
 小柴胡湯は抵抗力を落とさずにステロイド的な役割を果たしてくれる漢方薬です。発作の予兆を感じる期間暫定の予防薬としておすすめします。
 本方と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を合わした柴朴湯(さいぼくとう)という漢方薬があります。去痰効果があるため広く喘息に応用されています。ただし秋から冬にかけては空気が乾燥するため去痰効果が不必要なこともあります。こちらは専門家によく相談してから服用するようにしてください。


 漢方薬も予防法のひとつです。生活環境の改善やヨガなどで腹式呼吸を体得することも予防になります。喘息は完治のむずかしい疾患ですが、生活に差し支えない程度まで改善する例は多くあります。あきらめずに予防法を積み重ねることが大切です。吸入器がお守り代わりになることが目標ですね。

「漢方散歩道」は、多くの方に「漢方のよさ」を知っていただくことが目的です。このため、できるだけ簡単に手に入る漢方薬を紹介します。解説の都合上、やや入手しにくい漢方薬もご紹介することがあります。ご了承ください。もちろん「漢方専門薬局」にはあります。 

(2001年9月)


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