何となく体調がすぐれず、悩んだあげく病院に検査を受けに行ったものの、検査結果に異常はなく、不本意ながら「体調は良くないが病気ではない」ことに納得せざるえなかった経験をお持ちの方はいませんか。
人間も動物ですから身の危険を察知する能力を備えています。何となく体調がすぐれないのは、身体から発せられるサインを感じている状態とも考えられます。漢方ではよく「未病を治す(みびょうをちす)」と言います。「病気になる前に病気を治す」と言う意味です。「予防医学」と考えてもよいでしょう。
こんな時には、漢方薬でひとまず身体を補ってみましょう。何かが足りないから、体調不良を感じていることが多いからです。十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)という便利な漢方薬があります。何となく体調がすぐれないときに効果を発揮します。
(1)「何となく」の状態
・何となく 疲れがとれない
・何となく 肌の調子がよくない
・何となく 食欲がわかない
・何となく 貧血のような気がする
・何となく 精神的に疲れる「何となく貧血のような気がする」とは、立ちくらみなどを感じることがしばしばあるにもかかわらず、検査に異常がない状態です。女性に多くみられます。
(2)十全大補湯でみんな治る?
十全大補湯は10種類の薬物から構成された漢方薬です。10種類の薬物だから「十全」なのではありません。「十全」とは「十人中十人が治る」という意味をもった熟語なのです。なんとすごいネーミングなのでしょう。
もちろんすべての人に効果がある漢方薬などありませんが、十全大補湯は多くの人に応用できる漢方薬です。
十全大補湯の主薬は「朝鮮人参」です。滋養強壮薬の代名詞的な存在として広く認知されています。「未病を治す」の観点から朝鮮人参の薬用酒やニンジン茶を飲んでいる方も多いと思います。
じつは朝鮮人参ほど品質や薬効に差があるものはありません。詳細に関しては「またいつか」ということにしておきますが、購入時のアドバイスをひとつ。
「これは何年根(なんねんこん)人参ですか?」と聞いてみましょう。薬効を十分に期待できる人参の栽培には最低4年はかかります。そこで栽培に4年かかったものを「4年根」といいます。できるだけ4年根以上のものを購入しましょう。(2001年7月)
忙しい毎日、長年の疲労の蓄積がいつの間にかたまってしまいます。以前とくらべて無理のきかない身体に自信をなくすときもあります。「年のせい」と甘んじて受け入れたとしても体調がよくなるわけではありません。あきらめないでください。
「以前とくらべて・・・」によい漢方薬があります。瓊玉膏(けいぎょくこう)※をおすすめします。一過性の疲れではなく、積もりに積もった人生の疲れに効果的です。
(1)「以前とくらべて・・・」の状態
・以前とくらべて 疲れがとれにくくなった
・以前とくらべて 朝起きるのがつらくなった
・以前とくらべて お酒に弱くなった
・以前とくらべて 目が疲れるようになった
・以前とくらべて 月経が遅れるようになった
・以前とくらべて かぜをひきやすくなった
・以前とくらべて 足腰が弱くなった
・以前とくらべて 精力が弱くなったなどなど、「以前とくらべて・・・」はたくさんあります。漢方ではこのような状態を「生命力の低下」と考え、「腎虚(じんきょ)」と表現します。
(2)腎虚には「地黄(じおう)」
腎虚には地黄という薬物が必須アイテムです。地黄には老化を予防したり、生殖能力を高めたりする効能があります。このため日常的によく使用する薬物です。腎虚に応用する漢方薬は相当数ありますが、ほとんどの主薬が地黄といっても過言ではありません。瓊玉膏の主薬ももちろん地黄です。
ただし、ひとつ欠点があります。服用量が多くなると胃腸障害を発現することがある点です。
(3)胃腸障害の克服と瓊玉膏
ふだん厚仁堂が煎じ薬に使用する地黄は「九蒸地黄(きゅうじょうじおう)」といって、蒸す、干すをくり返したものです。山菜のあく抜きとおなじで、下ごしらえすることにより胃腸障害を軽減しています。
病院でもらうアルミパックに入った漢方薬や薬屋さんで買う錠剤などの製剤には、下ごしらえした地黄を使っているものはありません。多くの胃腸障害が報告されているのはこのためです。
瓊玉膏は「膏剤(こうざい)」です。膏剤は長時間(72時間程度)煮つめて製する軟膏のような漢方薬です。長時間煮つめている間に、自然と地黄の下ごしらえが完了しています。びんなどの容器に入ったものが発売されています。
瓊玉膏は人生の疲れに応用する漢方薬ですが、たとえばこのようなときにも効果的です。「生まれつき身体の弱い子供」、「妊娠期や授乳期の女性」、「病中病後や術後」などなど、背後に生命力の低下が考えられるときに使用します。
健康なときに「予防薬・保健薬」としての服用もおすすめです。
※「漢方散歩道」は、多くの方に「漢方のよさ」を知っていただくことが目的です。このため、できるだけ簡単に手に入る漢方薬を紹介します。解説の都合上、やや入手しにくい漢方薬もご紹介することがあります。ご了承ください。もちろん「漢方専門薬局」にはあります。
(2001年7月)