秋の漢方1(食欲の秋)
さまざまな食材がたくさん収穫できる「実りの秋」は、一年を通して一番食がすすむ季節と言えます。ところが美味しそうな料理を目の前にしても、食欲がわかない人もいます。もともと胃腸が弱いためです。このような方に是非おすすめしたい漢方薬があります。六君子湯(りっくんしとう)です。
六君子湯は食欲不振を改善するだけではなく、疲労回復にもよく効く漢方薬です。六君子湯で「美食に飽満する秋」をお過ごしください。
(1)処方名の意味
六君子湯は六種類の薬物から構成されています。その六種類とは人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、炙甘草(しゃかんぞう)、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)です。その絶妙な配合バランスより、それぞれの薬物を「君子」にたとえ、六人の君子から構成された湯(くすり)と命名されました。
(2)このような方に
・神経質でいつも胃のことが気になる人に
・はきけをおこしやすい人に
四六時中、胃のことを気にしていらっしゃる方がいます。大体きまじめで神経質です。ふだんから六君子湯を服んでいると、胃腸機能が改善されるだけでなく、精神的にもリラックスできるようになります。 ・ふだんから軟便の人に
少し食べ過ぎただけで胃がもたれ、すぐにムカムカする方がいらっしゃいます。このため、ふだんの食事にもとても気を使っています。このような方には食事前に六君子湯を服用されることをおすすめします。「人並みの食事」ができるはずです。
腸管からの水分吸収能力が弱い方がいらっしゃいます。このためいつも軟便です。こういう方の大便はあまり臭くありません。一方、食べ過ぎや感染症からおこる下痢や軟便は相当強い臭気をともないます。俗に言う「ばななうんち」を目標に六君子湯をお試しなるのは如何でしょうか。 今回は、胃腸に自信のない方のために六君子湯をご紹介しました。逆にふだんから胃腸に自信のある方は、ついつい食がすすみ食べ過ぎて胃の調子が悪くなることがあります。六君子湯では無効です。このようなときに便利な漢方薬をひとつあげるとしたら半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)です。それよりも節制をすることのほうが大切ですが・・・。
(2000年10月)
秋は空気が乾燥してくるため、気道の粘膜も乾燥し安くなります。粘膜が乾燥すると言うことは、粘膜の抵抗力が弱くなることを意味します。このため風邪をひきやすくなります。軽い「のど痛た」ですむこともありますが、なかなか治らない「咳」になってしまうこともあります。
こういうことを経験したことはありませんか?
かぜの諸症状はなくなったが、咳だけ残った
↓
あと2、3日でよくなるだろう
↓
よくならない
↓
あと4、5日でよくなるだろう
↓
よくならない
↓
もうそろそろよくなるだろう
↓
全然よくならない
↓
結局数週間たっても咳が止まらないこのようなときに便利な漢方薬があります。麦門冬湯(ばくもんどうとう)です。構成薬物の中には人参も含まれています。もちろん朝鮮人参です。麦門冬湯は、傷んだ気道粘膜を修復しつつ、咳により弱った体力も回復してくれます。
(1)こんな咳に
・咳は「から咳」
・痰は少量で、粘っていて切れにくい
どんどん痰の出てくる咳ではありません。気道が乾燥していますから、あくまでも「から咳」が適応です。 ・痰の色は白色〜微黄色
気道が乾燥して痰も濃縮されていますから、少量の上、粘っています。粘っているためなかなか喀痰できません。気道に痰がこびりついているため、強く息を吐き出すと「ゼェー」と音がします。喀痰しようとして意識的に咳をすることもあります。 ・せき込んで会話ができなくなる
乾燥と炎症により濃縮された結果、白色〜微黄色になっています。痰も体液の一部ですから、もともとは透明です。もし濃い黄色ならば細菌感染も考えられます。麦門冬湯ではなく抗生物質や別の漢方処方が必要になります。
のどもいがらっぽい上、長らくつづいている咳のため呼吸器もけいれんしやすくなっています。電話などでしばらく会話をしていると、どうにも咳の止まらない状態になります。水を飲めば少し楽になります。こんな状態にも麦門冬湯はよく奏効します。
(2)咳は体力を消耗するもの
咳1回の消費カロリーは2kcalと言われています。1分間に5回、30分も咳がつづけば、計算上は300kcalものエネルギーを消耗することになります。体力の消耗を補うことにも配慮している点に、本方の特徴があります。「から咳に麦門冬湯」、便利な漢方薬です。
(2000年10月)