漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

漢 方 散 歩 道 5
夏ばて1(とくに食欲の落ちる人へ)
 「夏ばて」になると、ついつい食欲が落ちてしまいます。結局「夏ばて」→「食欲不振」→「いよいよ夏ばて」の悪循環となるわけです。このような時には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を是非おすすめします。即効性があり、とても便利な漢方薬です。
 

(1)こんな症状に

食欲不振+「だるい」「眠たい」「やる気がない」

 一過性の夏ばてなら2、3日の服用で十分効果を現します。毎年のように夏ばてする方は、梅雨明け頃から「補中益気湯」を服用しておくと夏ばて予防になります。また、夏ばてでなくても、普段からこのような症状のある方は、体質的にも補中益気湯がよく奏効します。
 
 

(2)補中益気湯とドリンク剤

補中益気湯という処方名

 「補中益気湯」は、「中を補い気を益す湯」と訓みくだせます。ここで言う「湯」は、「くすり」のことですから、「栄養吸収能力を高め、元気をつけるくすり」ということが処方名からもわかります。「元気をつける」という点では、ドリンク剤と同じなのですが、アプローチに違いがあります。
ドリンク剤とのちがい
 多くのドリンク剤は各種ビタミンと滋養強壮薬からできています。中味はこれだけではなく、ほとんどが「カフェイン」を配合しています。カフェインは脳を覚醒する作用がありますから、体力以上に元気になった気がします。ここ一番といったときには、たいへんありがたいドリンク剤ですが、あまりにも常用すると「ヤセ馬にむち打つ」ことになります。
 一方、補中益気湯によって元気が出るのは、「栄養吸収能力を高める」ためです。脳を覚醒しているわけではありません。植物を育てたことがありますか? 同じように水をやり、同じように肥料をあたえても、ぐんぐん育つものもあれば、なかなか育たないものもあります。土壌からの栄養吸収能力が弱いからです。

 今回は、夏ばてに補中益気湯をご紹介しましたが、元気をつけるという点では、ひどく応用範囲の広い漢方薬です。病中病後、すぐに風邪をひく人、日頃から疲れやすい人はもちろんのこと、抗ガン剤や放射線による免疫力低下にも応用されています。  

(2000年8月)
 

気の足りない人に補中益気湯

 元気や抵抗力がないことが原因で、体調不良をおこしている方を、気虚証、中期下陥証、脾陽不振証、脾肺両虚証・・・などと、なにやら小難しい漢方的分類法を使い診断しています。臨床においては、厳密性が不可欠ですが、大局的には、「気が足りない」と一言できます。この「気が足りない」状態に使う主方が補中益気湯(ほちゅうえっきとう)なのです。
 

(1)気が足りないとどうなるの?

食後眠たくなる

 ある意味、生理的な現象とも言えますが、気の足りない人はとくに顕著です。食事をすると胃腸は消化しようとして、懸命に働きます。働くためには、エネルギーが必要です。人間のエネルギーは血液ですから、胃腸を中心に血液が集まります。当然ほかの部位の血液が相対的に減少します。結果的に軽い脳貧血をおこします。これが眠気となるわけです。もともと気の足りない人は、生理的な反応以上の眠気が起こります。
知らない間にあざができる
 ぶつけた記憶がないのに、青あざができる人がいます。痛みを感じない程度の衝撃なのに、毛細血管が簡単に破れることによって起こります。つまり、血管壁が弱いために、血液があふれ出すのではなく、「漏れ出す」「しみ出す」と言ったような現象が起こるためです。この血管壁の弱さも漢方では「気の足りない」結果と考えます。疲れると歯ぐきから出血するのも同じです。女性ならば月経後半、少量の出血ダラダラつづき、なかなか終わらないこともよくあります。
舌のまわりに歯形がつく
 とても疲れたときに、鏡で自分の舌をご覧ください。舌のまわりに、しっかりと歯形がついているかもしれません。これは、疲労により全身の組織から緊張感がなくなるために起こります。緊張感がなくなれば、弛緩をおこしむくんだようになります。漢方では「気の足りない」ことを示唆する指標とします。
 
 

(2)この他には?

 「気が足りない」とさまざまな体調不良を発現する可能性をはらんでいます。抵抗力がなく風邪をひきやすい、風邪がなかなか治らない、すぐにお腹をこわす、内臓を支持しておく力が弱いために胃下垂や子宮脱や脱肛になりやすい、食べても肥れない、流産しやすいなどなどです。咳をすると失禁することもあります。筋肉の緊張が腹圧に耐えられないからです。  

(2000年8月)
 

夏ばて2(身体がほてってだるい人へ)

 食欲はあるのに夏ばてと感じるときがあります。「のどが渇く」、「だるい」、「身体がほてる」タイプの夏ばては、前回ご紹介の補中益気湯ではありません。このような時には、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)をおすすめします。
 

(1)知柏地黄丸の夏ばて

身体がほてって寝苦しい

 全身がほてることもありますが、たいていは、足の裏が一番ほてります。それも就寝時がもっとも気になります。床についても足の裏がジリジリほてるので、冷たい家具にペタッとくっつけたくなります。夏ばてではありませんが、登山や遠足の後などに、同じような現象が起こります。
飲んでも飲んでものどが渇く
 身体をクールダウンさせる機能が低下しているため、のどが渇きます。飲んだからといってすぐに、細胞の隅々まで水分が行き渡るわけではないので、すぐにのどが渇きます。糖尿病の初期の症状によく似ています。
尿の色が濃い
 身体がヒートアップしているため、深部体温も高く、尿の濃縮が亢進します。このため尿色も濃いくなります。
 
 

(2)ほてると身体はどうなるの?

 パソコンの本体には冷却ファンが装着されています。一度にあまりにも多くの要求をすると、時として「熱暴走」が起こるからです。つまり制御不能になります。同じことが人間の身体にも起こります。酷使しすぎるとオーバーヒートになり、機能の過亢進がみられるようになります。疲れているはずなのに疲れを感じない、異常に食欲や性欲がわく、眠たいはずなのに眠れないなど、一見元気そうに見えますが、結構危険な状態です。中年期以降によく見られます。「最近の若い者は・・・」が口癖になると要注意です。なぜなら年齢とともに体力が付くはずなどあり得ないからです。疲れを疲れとして自覚できなくなっているおそれがあります。「突然死」予備軍とも言えます。

 知柏地黄丸は暑さ(熱)による熱暴走状態を是正する漢方薬です。夏ばてでご紹介しましたが、本来は「老化予防薬」です。「一見元気そうな人」「血糖値が高めの人」「暑がりの人」の老化予防薬としておすすめします。  

(2000年8月)
 

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