漢方専門薬局 宮崎厚仁堂

 

漢 方 散 歩 道 1

漢方的な考え方1(天人合一)

 漢方の根幹に関わる考え方は、それほど難しいものではありません。「天人合一(てんじんごういつ)」と言いますが、天つまり自然界を大宇宙とすれば、人つまり人体は小宇宙であり、構造は同じ様なものだ(合一)と言う考え方です。自然界で起こることは人体にも起こると考えられています。また自然界と人間はお互いに影響し合うという意味もあります。
 自然界の風のことを想像してみてください。どこからともなく突然吹いてきて、移動しながら木々を揺らし、地上のものを上空へと舞いあげます。そして何もなかったかのように止んでしまいます。人間で言えば、じんましんなんかがそうです。突然発病し、身体の表面部をあちらこちらに移動し、いつのまにか治っています。昔の人は、体表面に風が吹いているからと考え、この風をなくせば、じんましんも治ると考えたわけです。今でもよく使われる漢方薬の消風散(しょうふうさん)は名前の通り風を消す散(薬)で、じんましんなどの突発性・移動性のある皮膚病に応用されています。
 自然界と人間はお互いに影響しあうわけですから、暑い夏には炎症性の病気がはやったり、悪化したりします。水も凍る寒い冬には血液の流れも悪くなり、しもやけができたり、神経痛が悪化したりするのです。
 最近、しきりに環境ホルモンに関する報道がなされています。自然界と人間との相互の影響が、またひとつ、悪い意味で証明されたことになります。
 そこで、春には春らしく、夏には夏らしく、秋には秋らしく、冬には冬らしく、生活していくことが養生の上でとても大切になります。つまり、天人合一に逆らわないと言うことです。たとえば、夏の食べ物を冬に食べることはよくありません。スイカは漢方薬の材料にもなりますが、身体をうんと冷やします。冬にたくさん食べると胃腸をこわしたり、夜間排尿の回数が増えたりします。ちなみにメロンもスイカと同じウリ科の果物です。お見舞いにメロンは定番ですが、冬にはひかえた方がよいでしょう。

(1998年7月)


漢方的な考え方2(個体差の尊重)

 漢方による治療の特徴は、個体差の重要視です。同じ病名でも症状は一様ではありません。症状に違いがある以上、漢方的な治療法は異なってきます。自律神経失調症を一例としてみますと、のぼせ、めまい、イライラ、不安、不眠、動悸、息切れ、汗の異常などなど様々な症状がでてきますが、患者さんによっては、動悸はないがイライラ感の強い方、のぼせや汗の異常はあるものの不眠はない方など、かなりの個体差が見られます。これは、治療上とても重要です。
 血液検査で、特定の内臓などの疾患が見つからないと「気のせいだから、あまり気にしないように!」となりがちですが、漢方的な考え方では、「気のせい(仕業)なのだから、気を整える治療をしなくてはなりませんね!」となります。

(1998年7月)


漢方という言葉

 「漢方」は江戸時代から使われはじめた日本独特の言い方です。漢方のことを「東洋医学」とも言いますが、こちらも日本固有の呼び方です。中国では「中医学」、韓国では「韓医学」、北朝鮮では「朝医学」とそれぞれ呼ばれています。ちなみに日本以外の伝統医学継承国では西洋医学と同様に6年制の大学があり、研究者、学習者のために環境が整備されています。
 さて、「漢方」というとどんなものをご想像でしょうか? 薬草を土瓶で煎じる煎じ薬はご存じのことと思います。では、「ドクダミ」を煎じたものはどうでしょうか? 薬草のお茶には間違いありませんが、実は、漢方薬ではありません。意外と多くの人が「ドクダミ」や「センブリ」も漢方薬だと考えられているようです。これらは、「民間薬」です。民間薬は経験的に受け継がれてきた生活の知恵で、おできにはドクダミ、はらいたにはゲンノショウコ、と言ったような使い方をされています。地方によっても使い方がまちまちという特徴もあります。
 一方、漢方ですが、理論体系がきめ細かく具備されているため、学習期間は必要ですが、学問(医学)としての再現性が確保されています。理論通りに運用し、治療方針を決定していきますので、漢方薬は多くの場合、複数の薬物を組み合わせる結果となります。
 また、「漢方」と「漢方薬」も同じ意味ではありません。漢方薬は、あくまでも漢方の治療手段の一つで、鍼灸や按摩(あんま)も漢方です。鍼灸治療をご経験の方はよくわかると思いますが、腰が痛むのに、足やおなかを治療されたりします。漢方薬が薬物を組み合わせることと同様に、鍼灸は「つぼ」を組み合わせて治療しますから、それが足だったりおなかだったりするわけです。漢方薬も鍼灸も理論は全く同じですから、治療手段の差にすぎません。
 そこで専門家は、漢方薬のことを「湯液(とうえき)」と呼び、漢方薬を漢方の一分野と位置づけています。

治療手段 説  明
湯液(とうえき) いわゆる漢方薬のこと。天然の薬物を煎じたり粉にして服む方法。
鍼灸(しんきゅう) はりとお灸のこと。つぼの組み合わせによる方法。
按摩(あんま) もむ、押す、たたくなどして気の通り道を調整する方法。
導引(どういん) 気功や太極拳などの体操による方法。
食治(しょくち) 漢方の食事療法。
外治(がいち) 薬物を身体に塗布したり、貼ったりする方法。

(1998年7月)


漢方薬の仕込み

 仕込みと言えば、何か料亭の厨房のようですが、漢方薬にも仕込みはあります。この仕込みのことを漢方では「修治(しゅうち)」と呼んでいます。どんなことをするかと言いますと、漢方薬の材料を炒ったり、蒸したり、焼いたりすることで、下ごしらえをほどこします。
 漢方材料に修治をほどこすと言うことは、じつは、ひどく大切なことなのです。副作用の減弱、薬物の主作用の増強、薬効範囲の分散および限局などなど、さまざまな効果があります。漢方薬は修治、つまり仕込みを行うか行わないかで、薬効に相当の影響をおよぼすのです。下の百味だんすは3つとも甘草(かんぞう)という薬物です。左から修治していない生の甘草、炒った炙甘草、蜂蜜をからめ炒った蜜炙甘草です。それぞれをクリックしてみてください。
  

 美味しい料理を出す店は、昼休みが長いものです。本当に休んでいるわけではなく、夕方からの料理に備えて仕込みを行っているわけです。最高の料理を作ることと、最善の漢方薬を処方することは、とてもよく似ています。

(1998年7月)


漢方薬の材料

 天然のブリと養殖のハマチ。似て非なるものとはこのことです。漢方薬の材料もピンからキリまで、いろいろなものが世界中で流通しています。天然物、栽培品にかかわらず、漢方薬の材料のほとんどが植物ですので、それぞれの薬物に適した名産地があるわけです。本場中国でも、ある薬物は山東省、ある薬物は雲南省などといわれます。中国以外でも韓国産、ビルマ産、ベトナム産などなど、薬物によりさまざまです。もちろん日本にも名産地はあります。奈良の当帰(とうき)が有名です。
 これら名産地の薬物は、栽培に気候風土がマッチしているのはもちろんのことですが、それだけではありません。栽培技術のすばらしさこそが、名産地たるゆえんなのです。奈良の当帰など以前とくらべ手に入りにくくなってきました。栽培にはひどく手間がかかるうえ、半値以下のものが多く流通しているわけですから、栽培農家は大変です。
 安価な薬物の流通は、患者さんに求めやすい費用で漢方薬を供給できるメリットもありますが、治療上、大きな影を落としていることも事実です。漢方は患者さんそれぞれにあった処方を組むことが大原則です。せっかくの処方も材料の影響で効果が出ないこともあるわけです。うまく効かないときなど、治療者側は処方決定に問題ありと考えますから、別の処方に切り替えるといったことをしてしまします。結果的に、本当はあっていた処方を見逃してしまうことになります。従って、上質の材料を使用することは、患者さんに合った漢方薬を処方する上で、とても重要なファクターとなります。

(1998年7月)


漢方散歩道2


  


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